無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

一章 3 『異世界でも噛まれると痛い』

 「イテッ!」

 タクミは突然襲われた痛みで目を覚ました。

 どうやら座り込んだまま寝てしまっていたらしい。そしてそのまま倒れてしまいそばにあった石に頭をぶつけてしまったようだった。

 「イテテ・・・しまった!どうやら寝ちまってたみたいだ。久々にあんなに歩いたからか・・・なっ!?」

 自分が寝ていたことに気づくと同時に今の状況に戸惑いを隠せなかった。辺り一面、太陽はすっかり沈んでしまった後で夜になってしまっていた。

 「しまった!!完全にやっちまった!こんなわけわからん所で、しかも森の中で夜を迎えちまうなんて・・・」

 さっきここは地球ではないところに違いないと自分で認識したばかりなのに、うっかり寝込んでしまった自分の愚かさを嘆なげいた。

 夜の森は昼の時とはまったく違う雰囲気を漂わせている・・・まさに不気味。

 いかにも何か出てきそうな雰囲気をタクミは少なからず感じ取っていた。

 「やべぇ・・・これはやばい!!・・・こんな所にはいられねーよ!!」

 タクミは暗闇の中で恐怖を感じていた。。

 ・・・・・・ーン・・・・・・オーーーーーン・・・・・・・

 遠くの方で獣の遠吠えみたいなものが聞こえてくる。

 遠吠えを聞き取ったタクミは、緊張から体を硬直させ周りをゆっくりと警戒するように見渡した。そして昼間見た荷車を引いていた生き物のことを思い出した。

 あんなドラゴンみたいな奴がいるんだ・・・もっと他の凶暴なやつだっているに違いない!ここにいるのはやばすぎだろ!

 そう本能的に感じたタクミは、森の中は危険と考えとりあえず林道の方へと走っていった。

 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・ったく、どーしたらいいんだよ!」

 ひらけた所にたどり着いたタクミは息をきらしながらふと夜の空を見上げた。

  夜空はあんまり変わんねーんだな・・・・・

そこには昼間見た太陽も謎の緑の惑星もなく、見慣れたものだがそれぞれの輝きはタクミが見てきたどんな夜空よりもずっと輝いている星たちと、これまた月とそっくりだがなんとも言い難い神々しさを秘めた光を放つ満月があった。

 「実は寝てる間に地球に帰ってきたりしてねーかな・・・・」

 そんなことを呟いていた時である。

 「クーン・・・・・・」

 足元の方から聞きなれない・・・だが聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。

 タクミは、ハッと気づいて急いで視線を鳴き声のする方へと向けた。

 そこには数時間前に目撃したあの真っ白い光を帯びた生き物がタクミの3メートル程先にタクミの方を振り返るかのような姿でいたのだった。まるでタクミが見つけるのを待っていたかのようだ。

 「・・・っ!!あいつだ!間違いない!俺がこんなことになったのは絶対あいつが原因に間違いない!あいつともう一回目を合わせれば・・・」

 そう言いかけた時、その生き物はさっと身軽に森の方へと入っていったのである。

 「あ、おい!くそっ!待て!コノヤロー!」

 タクミはやっとつかんだ元の世界に帰れるかもしれないその手掛かりに、必死にしがみつこうとして先ほど命の危険を感じて逃げ出してきたばかりの森に再び自身の身を投じた。

 「絶対逃がさねーぞ!!」

 そう心に強く決めたタクミは、届きそうで届かない距離を保ちながらひょいひょいっと木と木の間を身軽に駆け抜けていく謎の生き物を、見失わぬように必死に追いかけた。

 少々の小枝なんかは気にせず突破していった。  

 しばらく追いかけ走り続けていると、森の中の拓けた場所に出た。そこには大きな湖があった。湖は星空の中でも特に光り輝く星と綺麗な満月をその水面に映していた。

 そしてその湖のほとりでさっきまで必死に追いかけていた真っ白い光をまとっている生き物が初めて会った時と同じような体勢でその緑色の目輝かせ巧の方へ見つめ止まっていた。

 最初は一瞬で気付かなかったが、その瞳は緑色というよりは翡翠ヒスイ色と表現する方が正しいような淡い輝きをしていた。じっと見られると吸い込まれそうな瞳だ。だがそんなことは今のタクミにはどうでもいいことだ。

「はぁはぁ・・・・はぁ・・・ふぅーー、やっと観念したかコノヤロー!さっさと俺を元の世界へ戻しやがれ!」

 タクミは息を切らしながらも、呼吸を整えやっと目標としていたものを捕えられようとしたことに少し勝ち誇ったかのような笑みを浮かべながら目の前の生き物に叫んだ。

 その白い生き物は2,3歩とタクミの方へと近づいてきた。

 「クーン・・・・・クーン・・・・」

 そしてその翡翠色の淡い瞳をタクミの視線と合わせながら鳴いている。まるでそれはタクミに話しかけているかのようだった。

 「・・・?はぁ?なんだこいつ?なんか言ってんのか?そんな鳴き声で鳴かれてもわかるわけねーだろ。ていうか、さっきからこいつと目が合ってんのになんで最初みたいにあのまぶしい光も何も起きないんだよ!」

 タクミが不満そうにそう言うと、その生き物は何かに気付いたようなハッとしたような表情をした。

 そして次の瞬間その生き物はピュッと風をきってタクミの方に素早く駆け寄ってきて、あっという間にタクミの首元に嚙みついた。

「・・・・っ!?いてぇ!なにすんだこいつ!いきなり噛みつきやがった!」

 突然の出来事と痛みでタクミは噛まれた場所を左手で押さえその白い生き物を睨みながら叫んだ。

 噛みついてきた生き物は勢いそのままにタクミの2メートル程後ろに着地してこちらを振り向き口をひらいた。

「やぁ、ごめんごめん!まず言語が違っていたんだから伝わるわけないよね。今、君に噛みついたのは言葉を交わすのに必要な行為だったんだ!ごめんよ!」

 驚くことに先程までクーンと鳴くだけだった白い生き物がしゃべったのであった。

 それはなんとも無邪気な少年のような声だが、知性を感じるしゃべり方をしていた。

 タクミは予期せぬ出来事の連続に目を丸くする。

 「・・・は?なんだ!?今・・・こいつ喋った!?え!?俺の空耳!?はぁぁぁ!?」

 タクミの驚きの声が静かな森の中、響き渡るのであった。 



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