無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

一章 4 『無能と異能』

 「やだなぁー、そんなにおどろなくてもいいじゃないか?って無理もないか。そっちの世界じゃ人間以外が言葉をしゃべるなんてことなかったんでしょ?こっちの世界じゃ人間以外が言葉を話すなんて良くあることだから君も早く慣れた方がいいよ?」

 白い生き物は流暢に、また得意気に話を続けた。その状況にタクミは口をパクパクと開閉しながら呆気に取られていた。

「あ、そういえば自己紹介がまだだったね!僕の名前はフェル。気軽にフェルって呼んでくれてもいいからね。もしくはフェル様とかでもいいけど!まぁ、好きに呼んでくれていいよ。さてどこから話そうかなー・・・」

 フェルはそういいながら右の前足?で口を隠すようにして考え込んでいた。その様子は何かを推理していている探偵のようだ。

 その様子をただ茫然と、眺めていることしかできなかったタクミだったが徐々に思考回路が回復してきた。そして自分の抱えている疑問をフェルにぶつけた。

「・・・っ!いや、待てよ!そんなこといきなり言われてもわけわかんねーよ!だいたいお前なんなんだよ!そっちとかこっちの世界とかここはどこなんだよ!?なんで俺がこんなところにいるんだよ!?どうやったら元に戻れるんだよ!?」

 タクミは今思ってる疑問を出来る限りフェルにぶつけた。

「質問が多い人間だなー君は。そんなたくさん一気に聞かれても答えきれないよ」

 フェルはそんなタクミの様子を気にも留めず、やれやれといった感じで答えた。その様子にタクミは少々イラっとした。

「まず僕はさっきも言ったけどフェルだよ。なんだと聞かれたら神様に仕える精霊みたいなものだね。こう見えて僕って結構すごい存在なんだからね!」

 フェルはまた得意気になった。どうやらこいつはお調子者みたいだな、なんとなくそう思った。

 「次に今君がいるこの世界は、君が今までいた世界とはまったくの別物だよ。簡単に言えば異世界だね。つまり君は異世界に連れられて来たってことだね。ここまでは理解できたかい?」

 得意気に、だが淡々と事務的にフェルは続けた。

「次の質問だけど、えーと・・・あっ、なんで君がここにいるかだっけ?それはね・・・」

 フェルは意味深な感じで一呼吸いれた。タクミはゴクリと固唾を呑み込みフェルの次の言葉を待った。

 「それはね・・・・特に理由はないんだよね!アハハ!僕があの世界でこっちに連れてくる人間を探しているときにたまたま君が通りかかったから連れてきただけなんだ。だから理由を聞かれても偶然だったとしか言いようがないんだよ。もしかして選ばれし勇者的なのを期待した?だったらごめんね!」

 フェルはさも当然のように悪びれもせず言い放った。タクミはフェルの言葉を聞き唖然とした。

 こんな異世界だなんて所に突然に理由もわからず放り込まれて、その理由が判明したかと思えばなんとただの偶然だという現実を突きつけられてしまったのである。フェルの言葉を理解したタクミは怒りをフェルにぶつけた。

 「・・・っざけんなよ!!なんで俺がこんなところに連れてこられなきゃいけねーんだよ!しかも偶然だと!?悪ふざけもたいがいにしろよ!別に俺でなくてもいいんならさっさともといた世界に戻しやがれよ!」

 タクミの怒声が夜の森に響きわたる。だがフェルはそれに物怖じすることもなく説明を続けた。

 「別にふざけてなんかないよ?僕は事実を伝えているにすぎないんだからね。それで最後の質問なんだけど元の世界に戻る方法は僕も知らないんだ。僕はただ異世界から人間を連れてくるのを任せられているだけだからね。だからそれには答えられないよ。ごめんね」

 フェルはまるで業務的でマニュアル化されているかのよな、誠意のかけらも感じられないような言いぐさで謝罪の言葉を述べた。

 だがタクミはそんなフェルの態度はまったく気にならなかった。なぜなら・・・

 元の世界には戻れない

 その言葉が、その意味がはっきりとタクミに理解出来たからである。

 タクミは絶望から力が抜けたように膝から地面に崩れ落ち両手を地面についた。

 「なんだよ・・・そんなことってあるのかよぉ・・・いきなり異世界だなんてところに連れてこられたと思えばそれが別に運命とかでもなくただの偶然だなんて。いくら俺がどーしようもない人間だったとしてもこんな扱いあんまりだろ・・・」

 地面にポツ、ポツと水滴が落ちる。タクミの涙であった。

 「まぁまぁ、そんなに落ち込むこともないんじゃないかな?」

 フェルがタクミの気持ちをよそに変わらぬ口調で話し始める。

 「君をこっちの世界に連れてきた後、君について色々調べさせてもらったけど・・・君は元いた世界じゃ何にも取柄なんてなく、なんだっけ?・・・あっ、無能の匠だなんて通り名までつけられてたんでしょ?ならそんなに君が今までいた世界にそんなに固執する必要もないんじゃないかな」

 フェルは笑いながら話した。

 コノヤロォ・・・こっちの気も知れず勝手なことばかり言いやがって!

 タクミがフェルに対してもはや殺意のような感情を抱き、今にも殴りかからんと立ち上がろうとした時だった。

 「それに君こっちの世界でなら今までの君からは想像もできないような活躍ができるかもしれないんだよ?」

 フェルの予期せぬ言葉にタクミは殴りかかろうとしたその手を止めた。

 「は?この俺が活躍?・・・そんなことあるわけないだろ!俺はな!自慢じゃないがまったく何の特技も取柄もないんだよ!見た目だってご覧のとおりいたって普通以下の男なんだよ!」

 タクミは自己分析を自分で言葉にして悲しくなった。

 だがフェルはそんなのお構いなしで話を続ける。

 「それは君のいた世界での話でしょ?この世界・・・まさに今君のいる世界ではそんなことまったく関係ないんだよ。君が持っている常識も観念もすべてが通用しないと思った方がいいと思うよ」

 さらにフェルは続ける。

 「この世界では俗にいう魔法も超能力もなんでもありなんだよ。つまり異能の力に溢れているんだよ?だから、君が前の世界でいくら無能呼ばわりされていたとしても、それがこの世界でもそうなるかと言えばそうとは限らないんだよ」

   魔法?超能力?

 聞いたことのある単語だが、それをこのように当然のように使う会話はいままでしたことのなかったタクミには未だにフェルの言ってることが理解できなかった。

 「魔法だと?超能力だって?そんなもんあるわけねーだろ!あんなもん実際に存在するわけねーんだよ!そんなもんありえねーよ!」

 タクミは今まさに自分があり得ない状況にいるのに、それを棚に上げフェルに自らの考えを伝えた。

 「今さっき常識が通用しないと言ったのに・・・頭の固い人だね君は。ならこれならどうかな?」

 そう言うとフェルは長い尻尾を八の字を描くように振り回すとふぅっと息を吐いた。

 すると瞬く間にタクミとフェルの周りを円を描くようにタクミの身長の倍は超えるであろう炎が燃えあがった。

 「なんだ!?ちょっと待て!!俺を殺す気か!?」

 タクミがそう言うと、フェルはまた尻尾で八の字を描いた。

 すると今度はさっきまでうねりを上げ燃えさかっていた火柱が一瞬で透き通る鏡のような氷の柱へと変化したのであった。氷の壁には無数のタクミの驚いた表情が反射されていた。

 氷に囲まれているせいだろうか、一気に気温は下がりタクミの吐く息は白くなっていた。

 それは、もはや手品や科学という単語では到底説明の出来ない光景だった。

 「どーかな?これが魔法の力だよ。これで僕の言うこと信じてもらえたかな?」

 フェルはまたも得意気に問いかけた。

 この日、タクミは初めて魔法という存在にふれたのであった。


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