戦力より戦略。

haruhi8128

裏技は心躍る

「抜けられたよー!!」
「ぐふぅっ!」

街を出たところで落ち合った俺にリオンが激突気味に抱き着いてきた。

「流石でしたご主人様」
「まぁ、あれでとりあえず手打ちにしない奴が領主なんてできないだろ」

俺が指示したのは1つ。
「俺を解雇した」と伝えるだけ。
大抵こういう場合は責任の所在を肝にして要求してくる。
今回実害がないので、失礼があったやつを責任取らせて解雇したと伝えればそれ以上の要求はしにくい。
ってかそれ以上したら流石に過剰要求だ。
馬鹿はともかく、その程度の打算が出来ない領主ではないだろう。

俺は夜のうちに窓からドロン。
で、街の外で合流すれば万事解決だ。
情報通信技術が発達していないこの世界でリオンが誰を雇って誰を解雇したとか伝わりはしない。
まぁ、知ってる奴ならそもそもリオンが誰かを雇うなんてしないことは知ってることなんだけど。
こういう抜け道使ってる時が一番楽しいよな。
我ながら性格悪い。

「このまま次の領主の治めるところまで行ってしまおう。どのくらいかかる?」
「馬車で1日で到達は出来るかと」
「ナイスだ」
「しかし、近場に街もないので野宿という形になってしまいますが」
「時にはいいだろ。むしろ、贅沢しすぎだ」

そろそろお金があるっていっても節制しないと。
普通の生活に戻れなくなる。
それで野宿というのも極端だが。
キャンプと思えばいい。


「ご主人様、スープが出来ました」
「悪いな」
「いえ、むしろ私達としてはご主人様を働かせていて居心地が悪いのですが……」
「このくらいはさせてくれって」

しっかりと買ってきていた米をとぎ、飯ごうのようなもので炊いているのだが、ここ辺りは俺に任せて欲しい。
なにせ米の国だぞこちとら。
一家言あるんだ。

「おいしいねー!」
「これは……!」
「ご主人様、あとでやり方を教わってもよろしいでしょうか……!」
「あー、また今度な。おかずも美味いぞ。ありがとな」

俺の炊いた米は好評だった。
俺はこういう直火で炊くメリットはおこげが出来ることだと思っている。
炊飯器とかだとちょっとこれは再現しにくいし、出来たとしてもここまでのクオリティにはならない。
小学校の林間学校でその魅力に取りつかれて研鑽を重ねたからな。
その努力を披露する機会はとうとう訪れなかったわけだが、ここで役に立つとは。

「最初の見張りは俺がやるから、先に寝ててくれ」
「そんな……」
「だから、ちょっとは俺に働かせてくれって」

まさか俺からそんな言葉が出るとは。


皆が寝静まったのを確認する。

「オーシリア、まだ起きてるよな」
「当然じゃ。起きておけと言われて寝るわしではないわ」

いや、お前けっこう寝るだろ。
よっこらしょと火元から腰を上げ、周りに張ったステッド・ファストの外に出る。

「残念ながら、手を出させる気はないから大人しく帰ってくれないか?」
「……ばれていたのか」

物陰から出るわ出るわ数十人。
体格からして全員男か。

「……人さらいか?」
「知ってるかにいちゃん。勘のいい奴は長くは生きられないんだぜ?」
「何言ってんだ。勘で生き残るに決まってんだろ」

どうやらそのまま帰っていただくというわけにはいかないようだ。

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