戦力より戦略。

haruhi8128

毛がベタッてなると気持ち悪いよね

火がついたのも束の間、俺は重要な局面に直面していた。
「そういや、俺そんなに料理したことなかったわ」
自宅警備員ニートとして生活していた俺は掃除や洗濯などはしっかりとやっていたが、料理だけはあまりやっていない。せいぜいカレーとかが作れるレベルだ。カレールーから。つまり、
「ルーがないから作れないじゃん…」
あぁ、科学無しでは人間はこんなにも無力。なにを料理で実感してるのかって話だが。

「お腹すいたよ…」
プリンセは遂に後ろでへたり込んでいる。この頃はカイルさんの城で規則正しい生活をしてお腹いっぱい食事をしていただろうから、それの反動だな。
「とりあえずは炒めておけばなんとかなるかな」
香辛料は保存がきく。以前からある胡椒などは使えるので野菜と肉を炒めて味付けする。
「もうこれでいいや」
これが限界。量だけは確保して満腹にすることを優先する。明日はどっかで食べてから帰ってこようと誓うのだった。

「さーてと」
久しぶりのアルニィ家の風呂だ。魔界では温泉を掘ってその良さを再確認したわけだが、泳げるほどの広さの浴槽というのもまた一つの夢だ。屋内だからゆっくりできるしな。
「ああぁぁーーーあ」
どうしてこう広い浴室というのは大きな声を出してみたくなるのだろうか。けっこう厳重に密閉されている空間なので、声が良く響いて面白い。理屈ではそういうことなんだろうが、この楽しさには理屈を超えた何かがあると確信している。

「リブレさーん、入るよー」
「おーう。おぉ!?」
今、なんて!?
俺が驚愕してるうちにペタペタと浴室をこちらに歩いてくる音がする。
この家には今プリンセしかいないし、声もプリンセのものだった。つまり、こちらに向かって歩いているのはここが浴室であるということから類推すると、あられもない姿の美幼女ということになる。
で、俺は彼女とはなんの血のつながりもない16歳男性。
「詰んでね?」
完璧にお縄な案件である。

「どうしたの?」
「いや、せめてもの抵抗をと思いまして…」
咄嗟に敬語になる俺。
プリンセが近くに来た時には俺は所謂「見ざる」みたいな状態になってた。見てなけりゃ大丈夫かなって感じで。
銭湯とかでもいるじゃん。お父さんに連れられてる小さい子。あれの対応ってちょっと困るよね。どうしても視界には入っちゃうから注視しないように頑張るっていうか。

っていうかプリンセってけっこうモフモフだった気がするんだけど。お湯に入ったりすると毛がベタッてなって気持ち悪くないのかな。そもそもネコ科動物は風呂っていうか水を嫌がる傾向があるような気がする。
気になって「これは向学心によるものだから」と言い訳しながら恐る恐る目を開く。
「うそぉ!!」
なんとプリンセの姿は耳以外ほとんど人間の姿だったのだ。
「そんなこともできるの!?」
「え?なにが?」
「いや、毛とか」
「あぁ、ここまでならなれるよ。さすがに耳は消せないけど…」
なんと。
「じゃあ、なんで今までなってなかったんだ?」
「…リブレさんがこのほうがいいかと思って」
「お気遣い痛み入ります」
5、6歳の幼女に妙な気を遣われる俺…。

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