未解決探偵-Detective of Urban Legend-
屋上、灰色②
連続少女投身自殺事件とは久我刑事がつけた呼称で、一般に広く知られているわけではない。
無論、週刊誌をはじめ一部のメディアでは取り上げられているが、事件として報道されているというよりは、都市伝説的な、どこか浮世めいた扱いをされている。
理由は明白。
6件の自殺はすべて、普通に考えたら誰がどう見てもつながりなど存在しないからだ。
1件目の発生は9月15日。
東京都調布市、調布駅前のビルの裏手で17歳の少女の死体が発見された。
死因は、ビルから落下したことによる頭部損壊。
それ以外に不自然な外傷はなく、薬物の使用他なんらかの外的要因も検出されなかったことから、捜査開始からほどなく自殺として処理された。
それから二週間後の9月29日。
1件目とほぼ同様の時刻に、今度は神田の雑居ビルのビル同士の隙間で、頭部を酷く損傷した16歳の少女の死体が発見される。
死因もまったく同様にビルからの転落による頭部損傷。
ビルの高さは3階建てだったにも関わらず、頭部が酷く損傷しており、地面に対して頭部から垂直に落下したのではないかという見立てがされている。
1件目と時期が近かったこともあり、2件目の事件はより大きく報道された。
その多くは、現代の若者が抱える心の闇にフォーカスを当てたもので、2人の死そのものよりも、死に至るまでの間に起こったなにかについて考察するスタンスのものばかりだった。
殺人を示唆する見解は一つとしてない。
それぐらい、その2件はどう考えても自殺だったし、一見なんの問題もないように見える10代の少女がその実、自ら死を選択するほど思い悩んでいたという事実はさほど不思議ではない、というのが世論だったのだ。
そして。
その世論は、同じような自殺が約二週間おきに続いても大きくは変わっていない。
だからこそ、生前になんのつながりもない少女たちが定期的に同じような手段で自ら命を絶つのは、センセーショナルというよりはどこか不気味で、触れることが忌避される異質さがあった。
常に新しい話題を求めているマスコミさえも4件目を過ぎた頃からか大きく取り扱うことを辞め、結果として6件目を過ぎたいま、連続少女投身自殺は現代社会の闇、あるいは都市伝説の類いとして処理され、大きく取り上げられることはなくなった。
それは、警察署内でも同様らしい。
そして、久我刑事は大体“そんな事件”を抱えたときにこそ勇吾の元を訪れる。
「この6件が自殺であること自体にはなんの疑いもないんだよ。でも、自殺だからといって“本当に自分で死を選んでる”とは限らないだろ? だから、君にこの現場を見てもらいたかったんだ」
火のついていないタバコをくわえ、手すりより向こうの眼下をのぞきながら、久我さんは感情のこもらない声でいう。
「物理的な死因が精神的な死因とは限らない。そう教えてくれたのは君だからね。勇吾君」
少なからず親しみの込められた言葉を、勇吾はため息で受け流す。
確かに、それをその身を持って久我刑事に教えたのは他ならぬ自分だ。
物理的な世界に、目に見えない意識の裏側、精神の世界が干渉してくる不可思議な現象。
水島勇吾はそんな“認識を超えた世界”を専門とする探偵だ。
自ら特に看板を立てたことはないが、物理世界では解決できないこと解決することから、勇吾を知る人は彼を未解決専門の探偵、未解決探偵と呼んでいる。
無論、週刊誌をはじめ一部のメディアでは取り上げられているが、事件として報道されているというよりは、都市伝説的な、どこか浮世めいた扱いをされている。
理由は明白。
6件の自殺はすべて、普通に考えたら誰がどう見てもつながりなど存在しないからだ。
1件目の発生は9月15日。
東京都調布市、調布駅前のビルの裏手で17歳の少女の死体が発見された。
死因は、ビルから落下したことによる頭部損壊。
それ以外に不自然な外傷はなく、薬物の使用他なんらかの外的要因も検出されなかったことから、捜査開始からほどなく自殺として処理された。
それから二週間後の9月29日。
1件目とほぼ同様の時刻に、今度は神田の雑居ビルのビル同士の隙間で、頭部を酷く損傷した16歳の少女の死体が発見される。
死因もまったく同様にビルからの転落による頭部損傷。
ビルの高さは3階建てだったにも関わらず、頭部が酷く損傷しており、地面に対して頭部から垂直に落下したのではないかという見立てがされている。
1件目と時期が近かったこともあり、2件目の事件はより大きく報道された。
その多くは、現代の若者が抱える心の闇にフォーカスを当てたもので、2人の死そのものよりも、死に至るまでの間に起こったなにかについて考察するスタンスのものばかりだった。
殺人を示唆する見解は一つとしてない。
それぐらい、その2件はどう考えても自殺だったし、一見なんの問題もないように見える10代の少女がその実、自ら死を選択するほど思い悩んでいたという事実はさほど不思議ではない、というのが世論だったのだ。
そして。
その世論は、同じような自殺が約二週間おきに続いても大きくは変わっていない。
だからこそ、生前になんのつながりもない少女たちが定期的に同じような手段で自ら命を絶つのは、センセーショナルというよりはどこか不気味で、触れることが忌避される異質さがあった。
常に新しい話題を求めているマスコミさえも4件目を過ぎた頃からか大きく取り扱うことを辞め、結果として6件目を過ぎたいま、連続少女投身自殺は現代社会の闇、あるいは都市伝説の類いとして処理され、大きく取り上げられることはなくなった。
それは、警察署内でも同様らしい。
そして、久我刑事は大体“そんな事件”を抱えたときにこそ勇吾の元を訪れる。
「この6件が自殺であること自体にはなんの疑いもないんだよ。でも、自殺だからといって“本当に自分で死を選んでる”とは限らないだろ? だから、君にこの現場を見てもらいたかったんだ」
火のついていないタバコをくわえ、手すりより向こうの眼下をのぞきながら、久我さんは感情のこもらない声でいう。
「物理的な死因が精神的な死因とは限らない。そう教えてくれたのは君だからね。勇吾君」
少なからず親しみの込められた言葉を、勇吾はため息で受け流す。
確かに、それをその身を持って久我刑事に教えたのは他ならぬ自分だ。
物理的な世界に、目に見えない意識の裏側、精神の世界が干渉してくる不可思議な現象。
水島勇吾はそんな“認識を超えた世界”を専門とする探偵だ。
自ら特に看板を立てたことはないが、物理世界では解決できないこと解決することから、勇吾を知る人は彼を未解決専門の探偵、未解決探偵と呼んでいる。
コメント