妖精の羽
真実のDVD
△▽△▽△▽
目が覚めるとそこは真っ白な部屋だった。
「いやどこやねん」
首を曲げると、ベッドの鉄パイプが見えた。……あぁ、病院か。
そういえば、倒れたんだっけ。傍らで目を真っ赤にした梨乃が何やら呟いていたのを覚えている。ううーん…でもなんで倒れたんだっけか?
「おはようございます!いい朝ですよ〜」
声をかけながら看護師さんが部屋に入ってきた。カーテンを開けると、眩しい朝の光が目に飛び込んでくる。
「今日退院できますから!」
元気よく去っていった看護師さんの後ろ姿を目で追い、そうか、と納得する。
梨乃は昨日、倒れた俺をどうしたらいいか分からず、とりあえず救急車で運んだのだ。何しろパニック状態だったから、脳に障害ができたかもなんてことを考えて。だが俺は至って普通だし、退院しても問題ないと思われたため退院出来る。と、一連の流れか。
まぁこれはあとから医者に聞いた話なのだが。
家に戻り、俺は横になる。頭の中を占領するのは、やっぱり昨日の話……
「……あのさ、やっぱ覚えてないんだよね?あの日……遭難した日のことは」
言葉がぐるぐると頭の中を回る。
いつからか……あの日だ。初めて俺が学校で仕事をした日。あの日からなにか、何かが違う。決定的な何かといえば……そう、
"頭を鈍器で殴られたような衝撃"
これがたびたび起こる。なんの時か?いつ来る?……何か、何かの話をしている時。なんだ?
俺は、何を忘れている?
カタッ……
玄関の外から物音がした。それがやけに俺の耳に直で届くもんだから、俺は気になって、ドアスコープから覗いて見た。
真っ白なワンピースを着た女性。長い黒髪をなびかせて、寒そうに体をさすっている。彼女はそのまま、振り返って帰ろうとした。
引き止めなきゃ。
本能がそう言った。かっこつけてないよ?ほんとに言ったんだ。
俺は勢いよくドアを開ける。
「待って!」
ドンッッ!!
鈍い音とともに、重い衝撃が手に伝わってきた。今にも歩き出そうとした彼女にぶつかったのだ。
横から思い切りドアをぶつけられてよろめいた彼女は、これ以上ないくらいのしかめっ面で俺を睨んだ。
「いっっった……」
「あっ、えと、ごめん!!」
なんだろう。凄く、ドキドキする。
「お詫びにお茶でも、どう?」
いや……決して下心があったわけじゃないんだ。でもさ、いや、ほら。さすがに年頃の女性を部屋に連れてきて二人っきりって、シチュエーション的にあれじゃん?
さっきから心臓のバクバクが止まらなくて、それはもう氷を沢山入れたグラスみたいにおでこはびちゃびちゃで、表情は硬いまんまだしどっちも何も話さないし……
チラリと彼女を盗み見ると、ふっくらとしたピンク色の唇、少し目尻がたれている目、高い鼻……愛らしい顔だった。
「あの、何かついてる?」
おずおずと聞かれた俺は、急な質問に思いきり焦った。
「えっ、あっ、何も!?」
「そう……」
それにしても。初めてあったとは思えない。なんだろう。なんでだろう……
「そうだ、私、セツナです。梨乃ちゃんから聞きました、よね」
「セツナ……?あぁ、確かそんなこと言ってたような」
「そう、今日は梨乃ちゃんから、これ預かってきました。いないのかなって思ってかえろうとしたんだけど」
これ、と言って渡されたのは、一枚のDVD。
「だけどまさか、攻撃されるなんてね」
「違うんだ!あれは、ほんとに!!」
「……っはっは!!あっはっはっは!知ってるよそんなこと!ほんと、あの頃のまま!」
あっ、しまった。と、セリフをつけるならこれだという風に口元を抑えて俯いたセツナちゃんは、顔を見せないまま立ち上がり、
「すみません、もう帰りますから」
と言い捨てて、玄関へ向かった。
まだ飲みかけの麦茶。透明なグラスの中の氷が、カラン、と音を立てた。
風のように来て、風のように去っていったなぁ。そう思いながら、とりあえず俺はDVDレコーダーの電源を入れる。
『Hello』
機械からの小さな挨拶を受けて、俺は開閉ボタンを押す。
無音で開いたセット台に、さっき貰ったDVDをセット。
閉じる。『ロード中』の文字が、青い画面に小さく映し出される。
このDVDには、何が入っている?……もしかして、梨乃が昨日言っていたことに関係あるのか?俺があの日から忘れている"何か"を、これは教えてくれるのか?
知りたいという期待が強くて、でも思い出すのが怖くて、俺は電源ボタンを押しかけた。震える右手は何を迷っているのか。俺ももう、どうしたらいいのか、どうするべきなのかわからなかった。
目が覚めるとそこは真っ白な部屋だった。
「いやどこやねん」
首を曲げると、ベッドの鉄パイプが見えた。……あぁ、病院か。
そういえば、倒れたんだっけ。傍らで目を真っ赤にした梨乃が何やら呟いていたのを覚えている。ううーん…でもなんで倒れたんだっけか?
「おはようございます!いい朝ですよ〜」
声をかけながら看護師さんが部屋に入ってきた。カーテンを開けると、眩しい朝の光が目に飛び込んでくる。
「今日退院できますから!」
元気よく去っていった看護師さんの後ろ姿を目で追い、そうか、と納得する。
梨乃は昨日、倒れた俺をどうしたらいいか分からず、とりあえず救急車で運んだのだ。何しろパニック状態だったから、脳に障害ができたかもなんてことを考えて。だが俺は至って普通だし、退院しても問題ないと思われたため退院出来る。と、一連の流れか。
まぁこれはあとから医者に聞いた話なのだが。
家に戻り、俺は横になる。頭の中を占領するのは、やっぱり昨日の話……
「……あのさ、やっぱ覚えてないんだよね?あの日……遭難した日のことは」
言葉がぐるぐると頭の中を回る。
いつからか……あの日だ。初めて俺が学校で仕事をした日。あの日からなにか、何かが違う。決定的な何かといえば……そう、
"頭を鈍器で殴られたような衝撃"
これがたびたび起こる。なんの時か?いつ来る?……何か、何かの話をしている時。なんだ?
俺は、何を忘れている?
カタッ……
玄関の外から物音がした。それがやけに俺の耳に直で届くもんだから、俺は気になって、ドアスコープから覗いて見た。
真っ白なワンピースを着た女性。長い黒髪をなびかせて、寒そうに体をさすっている。彼女はそのまま、振り返って帰ろうとした。
引き止めなきゃ。
本能がそう言った。かっこつけてないよ?ほんとに言ったんだ。
俺は勢いよくドアを開ける。
「待って!」
ドンッッ!!
鈍い音とともに、重い衝撃が手に伝わってきた。今にも歩き出そうとした彼女にぶつかったのだ。
横から思い切りドアをぶつけられてよろめいた彼女は、これ以上ないくらいのしかめっ面で俺を睨んだ。
「いっっった……」
「あっ、えと、ごめん!!」
なんだろう。凄く、ドキドキする。
「お詫びにお茶でも、どう?」
いや……決して下心があったわけじゃないんだ。でもさ、いや、ほら。さすがに年頃の女性を部屋に連れてきて二人っきりって、シチュエーション的にあれじゃん?
さっきから心臓のバクバクが止まらなくて、それはもう氷を沢山入れたグラスみたいにおでこはびちゃびちゃで、表情は硬いまんまだしどっちも何も話さないし……
チラリと彼女を盗み見ると、ふっくらとしたピンク色の唇、少し目尻がたれている目、高い鼻……愛らしい顔だった。
「あの、何かついてる?」
おずおずと聞かれた俺は、急な質問に思いきり焦った。
「えっ、あっ、何も!?」
「そう……」
それにしても。初めてあったとは思えない。なんだろう。なんでだろう……
「そうだ、私、セツナです。梨乃ちゃんから聞きました、よね」
「セツナ……?あぁ、確かそんなこと言ってたような」
「そう、今日は梨乃ちゃんから、これ預かってきました。いないのかなって思ってかえろうとしたんだけど」
これ、と言って渡されたのは、一枚のDVD。
「だけどまさか、攻撃されるなんてね」
「違うんだ!あれは、ほんとに!!」
「……っはっは!!あっはっはっは!知ってるよそんなこと!ほんと、あの頃のまま!」
あっ、しまった。と、セリフをつけるならこれだという風に口元を抑えて俯いたセツナちゃんは、顔を見せないまま立ち上がり、
「すみません、もう帰りますから」
と言い捨てて、玄関へ向かった。
まだ飲みかけの麦茶。透明なグラスの中の氷が、カラン、と音を立てた。
風のように来て、風のように去っていったなぁ。そう思いながら、とりあえず俺はDVDレコーダーの電源を入れる。
『Hello』
機械からの小さな挨拶を受けて、俺は開閉ボタンを押す。
無音で開いたセット台に、さっき貰ったDVDをセット。
閉じる。『ロード中』の文字が、青い画面に小さく映し出される。
このDVDには、何が入っている?……もしかして、梨乃が昨日言っていたことに関係あるのか?俺があの日から忘れている"何か"を、これは教えてくれるのか?
知りたいという期待が強くて、でも思い出すのが怖くて、俺は電源ボタンを押しかけた。震える右手は何を迷っているのか。俺ももう、どうしたらいいのか、どうするべきなのかわからなかった。
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