妖精の羽

ささみ紗々

七島芳樹の話

    目の前にいるイケイケくんたちをチラリと見て、すぐに視線を本に戻す。
あの頃の俺は眼鏡をかけていていつも本を読んでいた、なんというか、「大人しいやつ」だった。クラスでの立ち位置的なのもモブキャラって感じで、なんとなく毎日過ごしてた、そんな高校生活。

    そんな俺に声をかけてきたのがあいつだった─春山柊二、今じゃ俺の親友。
柊二はいつもは自分から人に話しかけたりなんてしなくて、人との関わりは深く狭くって感じだった。そんなやつがなんで俺に話しかけたのか疑問だったから、あとから聞いてみたところ、「なんとなく、気が合いそうだったから」。
あいつもスポットライトを浴びるような存在じゃなかったけれど、人に溶け込み調和することが誰よりもうまかった。だから俺は柊二といると居心地がよかった。
少し冷めたような目も、それでいて見守るような笑顔も、全部が好きだった。


    そんなやつが、いなくなった。突然、俺達の前から。山部と岡野と、俺と柊二、4人で卒業旅行に来た山で、遭難してしまった。突然の雪に見舞われて、あいつだけ……柊二だけ。
(なんで…)
ずっと呆然としていた。あの時──

「雪だ!はぐれるなよ!」
俺は3人に呼びかけた。少し荒い息が聞こえて、少しホッとする。近くに誰かがいるという、ほんの小さな安心感。振り返って見ると、
「……柊二?」

いない。いないんだ。さっきまで、ついさっきまでそこに居たはずの柊二が。前を向く。右、左、後ろ。360°回転して見るけれど、どこにもいない。
汗が流れる。悪寒がする。どうしよう、どうしようどうしよう。あいつがいなくなったら……!

    それから俺達は雪が収まるまで待って、旅館に戻った。戻るとすぐに警察やら消防やらに電話して、助けを呼んだ。
(お願い、助かってくれ……)
祈る俺達を横目に、太陽がもう顔を出しかけていた……。

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