ヒロインバトルロワイヤル!
リムとアプリコット
夢か現か…………微睡みの中にいたリムは引き戻される。
ぐいっと引っ張られているような感覚。
「うっ……吐きそうだし……」
頭が回る。
ここはどこ?
目を開けると、そこは先程までとは全く違う場所。まるで森のような……木に囲まれた場所にいた。
周りには人っ子1人いない。
もしかして、ここが『FAIRYTAIL FIELD』?
リムは記憶を遡る。
まるで夢を見ているようだったから、どれくらい前のことなのかはわからない。非現実的だとは思ったが、リュミエール王国そのものが不思議に包まれた国。何でもありだからなぁ……と、彼女はため息をついた。
もしかして、招待状が来たことすら夢だった……?
リムはおもむろにニット帽に手を伸ばす。深くかぶったピンク色のそれは、長年愛用しているもの。
手を入れると、カサリと音がした。招待状だ。
……じゃあ、まだ私はお城に行っていない? お城に行く夢を見ていただけ?
だったらここはどこ?
「わかんないんだし……」
その時、耳元で声がした。
『やっと皆さん意識が戻ったみたいですね』
「ひっ!」
誰かいると思ったが、振り向いても誰もいない。
何があってもなかなか声を上げることのないリムが、この時ばかりは恐怖を感じた。
誰の声か?
その出処は、いつの間にかつけられたインカム……のようなもの。耳にはしっかり嵌っているが、マイク部分は耳から1、2センチ程しか伸びていない。不良品かと思ったが、そうでもないらしい。
『城のメイド、メイベルです』
……女王様は?
リムは思った。というか、城のメイドということは……やはり自分は城に行っていたのだ。夢ではなかった。
『女王様は他にも職務を沢山抱えてらっしゃるので、この件は私が担当することになりました。
これから毎晩、亡くなった方の報告をさせていただきます。皆さんお互いがどこにいるのか分かりませんよね? 私が皆さんの架け橋ということで……
ご理解いただけましたか?』
シーン。向こうからは何も聞こえない。
『おっとそうでした、返答してくださった皆さんありがとうございます。返答は他のヒロイン候補者には聞こえないようになっています。返答次第でどこにいるかわかったら大変ですから。
もし私に個人的な質問がある場合、耳たぶあたりについているスイッチをオンにしてください。私が他の方との外線を一時的に切りますので』
複雑な説明に、リムが眠くなってきた目をこすった、その時。
ガサガサッ!
出かけた欠伸を引っ込めて、リムは音の方を振り向く。その手はニット帽にかかっていた。
「ニャアオ」
木の向こうから出てきたのは黒い猫だった。
「なんだし……」
ほっと息をつく。
死ぬだとか物騒な話を聞かされたばかりなのだ。眠いと思うのはいつも通りだが、それでもいつもより気が張っている。
ニット帽にかけた手を、ゆっくり下ろそうとする。
はて……?
それにしても、なぜ猫?
念を入れ、ニット帽を外しておく。中から覗くグレーのお団子。
ニット帽の穴を上に向け、リムは手を突っ込んだ。真剣な眼差し。背筋はピンと張っていた。
「ふぅっ」
息を吐いて、勢いよく振り向く。
黒猫!?
さっきの猫が、飛びかかってきていた。
鋭い爪がリムの喉元を狙う。
…………いや、黒猫じゃ、ない。
「チッ……バレた」
黒猫、もとい猫耳の彼女は空中で顔を歪めた。しかしその手は依然としてリムを狙う。
ダメだ、このままじゃ死んでしまう。
「まずは君が私の餌第1号になるのかなっ!」
「早々でやられるなんて、カールソン家が廃るんだし!」
リムは勢いをつけてブリッジ、そのまま勢いを殺さず足をあげ、彼女の腹を蹴り上げた。
「かはっ……」
彼女は呻く。
リムは立ち上がり、手についた土を払った。その間、ニット帽は宙に浮いていた。
「やっぱりそれ、なんか入ってるのかな?」
彼女は言った。
「さっきからいじってたから、何か出てくるのかと思いきや……まさか道具を使わないなんて、これは予想外なのかな」
「誰だし? 全く、猫だと思って一瞬油断した自分が憎いんだし」
「アナタの敵なんだな……ここでも、現実世界でも」
「? どういうことだし」
「アナタさっき言ってたのかな。『カールソン家が廃る』と。……私の名前はアプリコット。アプリコット=フラン。アナタの家、カールソン家は私の家の政敵なのかな」
「へぇ……」
「ここで会えたのもなにかの運って言うのかな?
──アナタは……リム=カールソン、お前は私が殺す」
「政治のことはよくわからないんだし。けど……殺されるのはゴメンだし。殺られる前に殺ってやるんだし」
ニヤリ、微笑んだアプリコットは舌なめずりをした。
そういえば、ここに来る前にも変な奴がいたような。もしかして、こんな奴らばかり集められているのか? リムはそう思ったが、すぐに考えを改めた。城でよく話していた金髪や赤髪は違う気がする。
「何考え事してるのかな?」
アプリコットは顎をひけらかし、笑った。
真っ白な細い腕の先にある、狂気のような細い指。その爪はまるで猫のように尖っていて、引っ掻かれたら一溜りもない。
リムは宙に浮いたニット帽を取ると、目を細めた。
中から短剣を2本右手で取ると、帽子を腰に挟んで戦闘態勢に入る。
「殺してやるのかな!」
言い終わるが先か、アプリコットはリムに飛びかかった。その勢いは猫よろしく、しなやかな肢体がリムの上に覆いかぶさるようにして先手をとる。
かろうじて立つリム。体力がないのが苦である。
アプリコットの手を短剣でしのぎつつ、リムはどう抜け出そうか考える。
キィン! カン! カン!
爪と剣の出す音が、静かな森に響き渡る。リムの剣さばきは上手く、2本の短剣で見事にしのいでいた。
と、その時。
「っ?!」
リムは崩れ落ちた。
どうして? 全てしのいでいたはず……。
閉じかけた目が捉えたのは、アプリコットの足だった。その先は獣のように大きくなっており、手と同じくらい鋭い爪を持っている。
注意が足りなかった……。
リムは目を閉じる。
「もっと骨のあるやつと思っていたのかな」
落胆した声が、リムの上にかけられる。
「ま、どちらにしろ勝ちは決まったってことなのかな」
アプリコットは戦闘に使った爪をゆっくりと舐めていく。
「じゃ、サヨナラなのかな。……リム=カールソン」
倒れたリムの上に、アプリコットが覆いかぶさるようにし、手を振りあげた時。
アプリコットの背中に、鋭い痛みが襲った。
「!?」
アプリコットが思わず振り向き、リムから目を離す。リムはその隙にアプリコットから離れる。傷ついた足のせいで、思うように走れない。
アプリコットは困惑した。振り向いた先には、何も無いのだ。ただ空虚な世界が広がるだけ。
しかし、アプリコットの背中には、依然として痛みが続く。鋭利な刃物のようなものに、何度も何度も刺されている。
アプリコットはとうとう立っていられなくなった。吹き出した血がじわじわと地面を染めていく。
「油断大敵、なんだし」
アプリコットがなんとか頭を動かし声の方を見ると、そこにはニット帽に手を突っ込んだリムがいた。
彼女も彼女で息が荒い。先程アプリコットにやられた際の傷が抉れ、時間を追うごとに痛みが増す。魔法でも使っているのだろう……。
リムは何やらニット帽から取り出すと、それを自分に振りかけた。そして宙に浮く。
足が使えないから飛ぶことにしたのだ。もう1つ、今度は武器を取り出す。
アプリコットの背中を襲う刃物はもう姿を消していた。
飛びながらやってくるリムの姿に、アプリコットは恐怖を覚えるしかなかった。もう動けない。避けることも、立つことすら……。
眼前に迫り来るカーブのかかった刃。その向こうに見えるリムの笑顔。
「死神……」
アプリコットの最後の言葉だった。
「一時は危ないと思ったけど……なんとかなったし。それにしてもこの傷をどうにかしなきゃだし……」
鎌をニット帽の中に戻し、再び先程使っていた短剣を2本取り出す。短剣の先から鞘までアプリコットの血がついており、その争いの悲惨さを物語っている。
ニット帽をかぶり直し、リムは身を翻した。
ぐいっと引っ張られているような感覚。
「うっ……吐きそうだし……」
頭が回る。
ここはどこ?
目を開けると、そこは先程までとは全く違う場所。まるで森のような……木に囲まれた場所にいた。
周りには人っ子1人いない。
もしかして、ここが『FAIRYTAIL FIELD』?
リムは記憶を遡る。
まるで夢を見ているようだったから、どれくらい前のことなのかはわからない。非現実的だとは思ったが、リュミエール王国そのものが不思議に包まれた国。何でもありだからなぁ……と、彼女はため息をついた。
もしかして、招待状が来たことすら夢だった……?
リムはおもむろにニット帽に手を伸ばす。深くかぶったピンク色のそれは、長年愛用しているもの。
手を入れると、カサリと音がした。招待状だ。
……じゃあ、まだ私はお城に行っていない? お城に行く夢を見ていただけ?
だったらここはどこ?
「わかんないんだし……」
その時、耳元で声がした。
『やっと皆さん意識が戻ったみたいですね』
「ひっ!」
誰かいると思ったが、振り向いても誰もいない。
何があってもなかなか声を上げることのないリムが、この時ばかりは恐怖を感じた。
誰の声か?
その出処は、いつの間にかつけられたインカム……のようなもの。耳にはしっかり嵌っているが、マイク部分は耳から1、2センチ程しか伸びていない。不良品かと思ったが、そうでもないらしい。
『城のメイド、メイベルです』
……女王様は?
リムは思った。というか、城のメイドということは……やはり自分は城に行っていたのだ。夢ではなかった。
『女王様は他にも職務を沢山抱えてらっしゃるので、この件は私が担当することになりました。
これから毎晩、亡くなった方の報告をさせていただきます。皆さんお互いがどこにいるのか分かりませんよね? 私が皆さんの架け橋ということで……
ご理解いただけましたか?』
シーン。向こうからは何も聞こえない。
『おっとそうでした、返答してくださった皆さんありがとうございます。返答は他のヒロイン候補者には聞こえないようになっています。返答次第でどこにいるかわかったら大変ですから。
もし私に個人的な質問がある場合、耳たぶあたりについているスイッチをオンにしてください。私が他の方との外線を一時的に切りますので』
複雑な説明に、リムが眠くなってきた目をこすった、その時。
ガサガサッ!
出かけた欠伸を引っ込めて、リムは音の方を振り向く。その手はニット帽にかかっていた。
「ニャアオ」
木の向こうから出てきたのは黒い猫だった。
「なんだし……」
ほっと息をつく。
死ぬだとか物騒な話を聞かされたばかりなのだ。眠いと思うのはいつも通りだが、それでもいつもより気が張っている。
ニット帽にかけた手を、ゆっくり下ろそうとする。
はて……?
それにしても、なぜ猫?
念を入れ、ニット帽を外しておく。中から覗くグレーのお団子。
ニット帽の穴を上に向け、リムは手を突っ込んだ。真剣な眼差し。背筋はピンと張っていた。
「ふぅっ」
息を吐いて、勢いよく振り向く。
黒猫!?
さっきの猫が、飛びかかってきていた。
鋭い爪がリムの喉元を狙う。
…………いや、黒猫じゃ、ない。
「チッ……バレた」
黒猫、もとい猫耳の彼女は空中で顔を歪めた。しかしその手は依然としてリムを狙う。
ダメだ、このままじゃ死んでしまう。
「まずは君が私の餌第1号になるのかなっ!」
「早々でやられるなんて、カールソン家が廃るんだし!」
リムは勢いをつけてブリッジ、そのまま勢いを殺さず足をあげ、彼女の腹を蹴り上げた。
「かはっ……」
彼女は呻く。
リムは立ち上がり、手についた土を払った。その間、ニット帽は宙に浮いていた。
「やっぱりそれ、なんか入ってるのかな?」
彼女は言った。
「さっきからいじってたから、何か出てくるのかと思いきや……まさか道具を使わないなんて、これは予想外なのかな」
「誰だし? 全く、猫だと思って一瞬油断した自分が憎いんだし」
「アナタの敵なんだな……ここでも、現実世界でも」
「? どういうことだし」
「アナタさっき言ってたのかな。『カールソン家が廃る』と。……私の名前はアプリコット。アプリコット=フラン。アナタの家、カールソン家は私の家の政敵なのかな」
「へぇ……」
「ここで会えたのもなにかの運って言うのかな?
──アナタは……リム=カールソン、お前は私が殺す」
「政治のことはよくわからないんだし。けど……殺されるのはゴメンだし。殺られる前に殺ってやるんだし」
ニヤリ、微笑んだアプリコットは舌なめずりをした。
そういえば、ここに来る前にも変な奴がいたような。もしかして、こんな奴らばかり集められているのか? リムはそう思ったが、すぐに考えを改めた。城でよく話していた金髪や赤髪は違う気がする。
「何考え事してるのかな?」
アプリコットは顎をひけらかし、笑った。
真っ白な細い腕の先にある、狂気のような細い指。その爪はまるで猫のように尖っていて、引っ掻かれたら一溜りもない。
リムは宙に浮いたニット帽を取ると、目を細めた。
中から短剣を2本右手で取ると、帽子を腰に挟んで戦闘態勢に入る。
「殺してやるのかな!」
言い終わるが先か、アプリコットはリムに飛びかかった。その勢いは猫よろしく、しなやかな肢体がリムの上に覆いかぶさるようにして先手をとる。
かろうじて立つリム。体力がないのが苦である。
アプリコットの手を短剣でしのぎつつ、リムはどう抜け出そうか考える。
キィン! カン! カン!
爪と剣の出す音が、静かな森に響き渡る。リムの剣さばきは上手く、2本の短剣で見事にしのいでいた。
と、その時。
「っ?!」
リムは崩れ落ちた。
どうして? 全てしのいでいたはず……。
閉じかけた目が捉えたのは、アプリコットの足だった。その先は獣のように大きくなっており、手と同じくらい鋭い爪を持っている。
注意が足りなかった……。
リムは目を閉じる。
「もっと骨のあるやつと思っていたのかな」
落胆した声が、リムの上にかけられる。
「ま、どちらにしろ勝ちは決まったってことなのかな」
アプリコットは戦闘に使った爪をゆっくりと舐めていく。
「じゃ、サヨナラなのかな。……リム=カールソン」
倒れたリムの上に、アプリコットが覆いかぶさるようにし、手を振りあげた時。
アプリコットの背中に、鋭い痛みが襲った。
「!?」
アプリコットが思わず振り向き、リムから目を離す。リムはその隙にアプリコットから離れる。傷ついた足のせいで、思うように走れない。
アプリコットは困惑した。振り向いた先には、何も無いのだ。ただ空虚な世界が広がるだけ。
しかし、アプリコットの背中には、依然として痛みが続く。鋭利な刃物のようなものに、何度も何度も刺されている。
アプリコットはとうとう立っていられなくなった。吹き出した血がじわじわと地面を染めていく。
「油断大敵、なんだし」
アプリコットがなんとか頭を動かし声の方を見ると、そこにはニット帽に手を突っ込んだリムがいた。
彼女も彼女で息が荒い。先程アプリコットにやられた際の傷が抉れ、時間を追うごとに痛みが増す。魔法でも使っているのだろう……。
リムは何やらニット帽から取り出すと、それを自分に振りかけた。そして宙に浮く。
足が使えないから飛ぶことにしたのだ。もう1つ、今度は武器を取り出す。
アプリコットの背中を襲う刃物はもう姿を消していた。
飛びながらやってくるリムの姿に、アプリコットは恐怖を覚えるしかなかった。もう動けない。避けることも、立つことすら……。
眼前に迫り来るカーブのかかった刃。その向こうに見えるリムの笑顔。
「死神……」
アプリコットの最後の言葉だった。
「一時は危ないと思ったけど……なんとかなったし。それにしてもこの傷をどうにかしなきゃだし……」
鎌をニット帽の中に戻し、再び先程使っていた短剣を2本取り出す。短剣の先から鞘までアプリコットの血がついており、その争いの悲惨さを物語っている。
ニット帽をかぶり直し、リムは身を翻した。
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