異世界スキルガチャラー

黒烏

「テロリスト」を騙る者

「さあ、大人しくあの仲間の女がどこに行ったか吐いてもらおう。万が一、ジャンクヤードに逃げ込まれでもしたら後々面倒だからな」
「ハァ……だからさっきも言ったが、ここで大人しく白状するようなタマだったらテロなんて考えねぇよ、このアホ」
「口だけは達者だな、クズのくせに」

まだルカが屋上で戦闘している時、に捕らえられた啓斗(現在の人格はともかく、少なくとも肉体は啓斗だ)はミューズに尋問されていた。

「貴様の正体が何者なのかは知らないが、ヴァーリュオンの住人というのも嘘だな? 大方、悪名高い犯罪者であるベネットの名をかたってこちらを信用させて潜り込み、このホテルを襲撃するつもりだったんだろう。だが、ここのセキュリティは最高だからな、貴様はこの通り捕縛されたわけだ」
「ハッ、言ってろ。俺の相棒をここから逃がした時点でお前らは負けてんだよ」
「……どういうことだ?」

ミューズが訝しげな表情をしたのを逃してはならない好機とし、自分とルカをヴァーリュオンの仲間たちと切り離す工作を開始する。

「どういうことってよ、俺じゃなくてあっちの女の方が主力なんだよこのバカ警官。お前さんの言う通り、俺たちはヴァーリュオンの住人じゃあねぇ。かといってココの住人でもねー。だから魔法ってやつは使えるんだ」
「……そういうことか。ヴァーリュオンの馬車隊が遅れていると言ったが、やったのは貴様らか!」
「お、脳みそはしっかり働いてるみてーだな。ああ、お前の言う通り。パスポートも始末した奴からパクったモンだよ。まんまと騙されたな、ハハハッ!」
「この……くっ……!!」

今にも歯ぎしりの音が聞こえてきそうなほどの苦悶な表情を浮かべ、ミューズが睨みつけてくる。その顔を見たかったとでもいうように、ニヤリと笑う。ミューズは彼の顔から、その真意を読み取ることができなかった。

『……クク、イヒヒヒヒ! アッハハハハハ!!』
(なに笑ってやがる。こっちは必死こいてあのドラゴン女が役目果たすまで時間稼いでんのによ)
『クヒヒ……ごめんごめん! だってさ、ここまで自分捕まえてる奴を煽りながら噓八百並べ立てられる人間なんてそうザラにいないって!』
(そりゃ、褒めてんのか? それとも俺を小馬鹿にしてんのか?)
『も、もちろん褒めてるって! キミほど肝の据わってる人間は今までボクが見た中でも随一だよ』
(そうかよ、じゃあもっと煽ってやりますか)

そんな会話を脳内で交わしつつ、この目の前にいる男か女か分からない見た目と声質をした警官を騙し続けることに集中する。
そして、体の自由が少しだけ戻っているのが分かる。何とか立ち上がって走ることくらいはできそうだ。

「んで、お前は俺をこれからどうしようってんだ? 先に言っとくが、俺は死んでも仲間の居場所は吐かねぇぜ?」
「……今すぐ射殺してやってもいいんだぞ」
「お、いいねぇ。ほら、やれよ。ただし、それをやったらお前さんの上司やらから相当のお咎めがあるんじゃないか?」
「貴様、それを知ってて!?」
「訳ありで事情はほんの少しだけかじっててな。俺を殺したら都合が悪いのはそっちなんじゃないのか?」
「ぐうっ……」

更に険しい顔になったミューズを内心でほくそ笑みながら睨み返し、その感情を昂らせる方向に持っていく。
そうした沈黙が数秒続いた、その時だった。
天井が崩れる轟音とともに、大地震が発生する。

「なっ、これは!?」
「っしゃ! ここだぁぁぁぁ!!」

ミューズがバランスを崩した瞬間を狙い、なりふり構わず立ち上がってミューズを弾き飛ばし、解除していた【爆熱拳バーニングフィスト】を再発動して窓に拳を叩き付けた。
爆発と共に窓ガラスが木っ端微塵に吹き飛び、そのまま外に向かってダイブする。

「よし、間一髪だ……どおっ!?」

いきなり体に何かが突き刺さる。それは、鉤のようなもの。その先には、鋼鉄のワイヤーが伸びていた。

「おいおい、マジか。こういうのって人間に向かって撃つもんじゃねーだろ。ゴフッ……」
「絶対に逃がしはしない。この私の警官としての誇りにかけて、貴様を必ず刑務所に叩き込んでやる!!」

ワイヤーフックショットを放ったミューズが叫ぶ。
その瞬間、ホテルそのものが大爆発した。









「ふふふ、ずっと覗いてたけど、やっぱり彼を観察するのは面白いなー。でもなー、何となく刺激が足りない気がする。あ、そうだ。ちょっとちょっとー」



「はい、お呼びでしょうか。我が主君」
「うん、キミにマギクニカ侵攻の先遣隊っていう『建前』であそこに潜入して、異世界人君の周りを引っ掻き回してきてくれないかな。キミなら建前の仕事も、僕の仕事もこなせるでしょ?」
「私は、主君のためならば、を殺す任務であろうと必ず遂行する決意でございます」
「そこまではしなくていいから。じゃ、じゃあ早速行ってきて。部隊が必要なら適当に連れて行っていいよ」
「承知しました。では、任務に移ります。必ずご期待に添いましょう、ベルフェゴール様」

ベッドの上で水晶玉を寝っ転がりながら眺めるベルフェゴールと、その横で敬礼する黒い軍服に身を包んだ長身の女性。

「それじゃ、期待してるよ。頑張り次第じゃ副官にしてあげるから頑張ってねー」
「身に余る光栄にございます。それでは」

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