異世界スキルガチャラー

黒烏

ヴァーリュオンを発つ日

第2部 2章 「機械帝国マギクニカ」




「…………はっ!?」

ガバリとベッドから飛び起きたルカの目に最初に飛び込んだのは、右手に革製のグローブをはめている啓斗だった。

「ああ、起きたか。ルカ、体調はどうだ?」
「えーっと……うん、大丈夫。熱も下がったし、治ったみたい」
「なら良かった。今、午前5時だから、急いで着替えて準備しろ」
「分かった!」

そこでルカは、啓斗の服装全てが変わっているのが分かった。
いつもの軽装ではなく、生地のしっかりとした布製の長袖シャツを着て、なめし革の使われたズボンを履いている。
フード付きのマントを羽織り、3箇所に収納場所があるサイドパックを腰に着けている。

「うわぁ、格好いいね。その服」
「ん? ああ、お前も着るんだぞ。似たようなのをな」
「そうなの? やった、お揃いだ!」
「……みんなこれを着てるぞ。ゼーテ曰く「適度な防御力と機能性を兼ね備えた旅行服」だそうだ」

左手にもグローブをはめ終わると、啓斗は開け放しのクローゼットを指さす。

「さっきゼーテが一式置いていったから着替えてくれ。終わるまで俺は部屋の外で待ってるから」

そう言うと素早く部屋からいなくなる。ルカも遅れてはいけないと、急いで着替えに袖を通し始めた。


少しして、馬車の乗り場に到着した2人は、先に来ていたゼーテとラビアと合流した。
ゼーテは啓斗たちと似たような服装だったが、ラビアの方は何やら紺色をした作業着のような格好だった。

「おはよう、ルカ。昨日は具合悪そうだったけど、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、ちょっと疲れちゃってただけ」
「ならいいけど、あんまり無理は駄目よ。それでラビア、例のは?」
「あーはいはい、えーっと……コレですね。ルカさん、コイツをどうぞ」

ラビアに手渡されたのは、鉄製の弓と矢筒だった。

「昨日のうちに作っといたぜ。矢は馬車にたんまりあるし、この弓ならケイ兄から渡されたはずの「失敗作」も威力を発揮してくれるはずだ」
「良いの? ありがとう、ラビアちゃん!」
「どういたしまして。それじゃ、オレは向こうのサポート要員用の馬車なんで、また後で」

他の馬車へと走っていくラビアの背を見送り、啓斗たちも馬車へ乗り込む。

「団長に無理言ってこの馬車は私たち3人用にしてもらったから、特に問題は起こらないはずよ」

1番先に乗り込んで、次に乗るルカに手を貸しながら、ゼーテは啓斗に向かって言った。

「すまないな。わざわざ気を使わせた」
「別に。私も他の団員とはあんまり仲がいい訳じゃないし」
「ん? お前は確か、近接戦闘部隊隊長だったはずだろう。人望はあるんじゃないか?」
「戦場で私の命令は聞く、くらいの信用よ。女の団員からはあんまり好かれてないわ」
「どうして? こんなに優しいのに!」

ルカの純粋な質問に、ゼーテは答えたくなさそうにしながらも返事をした。

「……シーヴァあのバカのせい。アイツ、黙ってたらイケメンでしょ? だから、ずっと一緒にいる私が気に食わないみたいなのよね。根も葉もない噂も立てられてるみたいだし、勘弁して欲しいわ」
(俺から見たらその噂は根も葉もあるように感じるんだがな……)

啓斗はそう強く思いながらも、口に出せば蹴られるか何かされるのは確実なので、心の内でなんとか止めた。

「……あと5分で出発。2人とも、座って揺れに備えて。けっこう長旅になるわよ」
「そういえば、具体的にどれくらいの時間で到着する予定なんだったっけか?」
「今から出発して、だいたい午後6時到着が目安。ちょっと早くなっても最低10時間以上はかかるわ」
「そりゃ、長旅だな。馬車の中が広いのが幸いか、横にもなれそうだ」

啓斗が馬車に乗り込んだ直後、ジェイド王を乗せた馬車から合図の笛が鳴る。
全ての馬車が王城から一斉に走り出し、遂にマギクニカへ向けて出発した。









壊れた車や、欠けた機械のパーツ、故障したロボットなど、様々な「ジャンク」が所狭しと捨てられた場所で、1人の少女がスパナを手に機械をいじっていた。

「ニャハフフフ。今日も使えるパーツがたーんまりあるニャー♪」

少女の髪は「深紅」と呼ぶに相応しいほどにあかく、その頭にはピンと立った猫耳が生えている。
薄汚れたシャツ、ズボン、ブーツを身に付け、そのズボンに空いている小さな丸い穴からは、髪や耳と同じく紅い尾が見えている。

「これでまた開発が進むニャー。あー、でも、市販のパーツも無いとやっぱりダメかもニャ」

そんな独り言を呟いていると、上から小さな飛行機のようなものが降りてくる。
プロペラが4つ付いたその姿は、一言で表現するならば「ドローン」という言葉が最も適切だろう。

「ンニャ? なんだ、ローグかニャ。何の用だニャ、今忙しいニャ」
『そう言うなって。話が聞こえてたよ、また金がいるのかい?』
「盗み聞きとは悪趣味だニャ。まさか、またアタシのカラダ狙ってるのかニャ?」
『ちっげーよ! まあ、いつかは欲しいけどさ……ってその話じゃなくて!』
「ニャハハ、ジョーダンジョーダン。それで? 良い儲け話なのかニャ?」
『流石、話が早いね。実はさ、今日の午後6時にあの魔法王国から国王が直々に来るんだって。自分んトコの騎士団全員引き連れて、大層なもんだよね』
『そこでさ、王様が自分で来ちゃってるんだから、オタカラも持ってそうじゃない? だからさ、ちょーっとにでも遭ってもらって、こっそり金品パクっちゃえば、しばらく困らなくて済むんじゃない?』
「ほほー、隣の国の王サマのオタカラとニャ。……よし、乗った! ただし、取り分は8:2だニャ」
『それってこっちにほとんど利益無くない? まあ、君のために持ってきた話だし、 いいけど』
「ニャハハ、久しぶりに大儲けできそうな気がするニャ! 楽しみだニャー」
『それじゃ、こっちも準備するから。後で詳しい話するよ』

ドローンが飛び去ると同時に、少女は機械から取り出していたボルトやモーターなどを、近くに止めていたバイクの荷台に積み込んだ。

「さーて、今日もお仕事開始だニャー♪」

バイクに颯爽とまたがると、ドルルンという音と共にエンジンが掛かり、そのままどこかへ走って行った。

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