異世界スキルガチャラー

黒烏(クロイズク)

「魔王」と呼ばれた男

青年は初めは戸惑い「王」になることは出来ないと拒否したが、周りの皆が口を揃えて青年以外に自分たちの安全と平和を保ってくれる者はいないと言い続けたため、不本意ながらも彼は「魔族の王」として城で暮らすことを承諾した。

「俺は、皆に傷つくことの無い生活をして欲しい」

彼は、酒が入ると口癖のようにこの言葉を繰り返していたという。
絶海の孤島で酒が生産できるというのはおかしな話に聞こえるだろうが、青年はある事をして物資を手に入れていた。
「略奪」である。
と言っても、彼は善良な人々から何かを奪うということはしなかった。
山賊や盗賊を叩きのめして物資を必要な分だけ奪い取り、残りは近くの村や街に放り込んだ。
家畜や農作物などの食料の確保は、旅の途中で農家と交渉を行って手に入れていた。
先述の盗賊やらから奪い取った金銀財宝を引き合いに出せば、ほとんどの人間が交渉を簡単に承諾して牛や鶏、米や麦などを差し出した。
そして、彼の旅が成功した最大の要因は彼の「容姿」である。
魔族には、特有の外見的特徴がない。というのも、「魔族」は厳密に言えば種族名では無いからだ。
現代では「魔族という種族が存在する」という誤解された考え方が広まってしまっているが、実は違う。
本来魔族とは、全て種族の中からごく稀に生まれてくる突然変異種のようなものなのである。
唯一挙げられる特徴としては、元となった種族が保有するであろう魔力の平均値の最低・・5倍の魔力量を有するということ。
故に、人間とほとんど変わりない姿をしたものから、獣人族・水棲族(魚の特質を持った高知能生物の総称)・鳥人族などの特徴を持ったものもいる。
そして「魔王」の青年は、人間から生まれたために容姿も人間と同じだった。
持って生まれた賢い頭と理解力、そして機転の利く性格のお陰で彼は自分が「魔族」だと学校で学んだ瞬間に理解し、それから他人に披露する必要がある魔法の威力を抑えて巧みに自分の正体を隠していた。


「魔王」は、彼だけが使える魔法を持っていた。
魔法の名称は【転送トランスファー】というものらしい。
私が入手出来た情報では、物体や生物を特定の座標にワープさせる能力であるという所までしか分からなかった。
だが、恐らくはこの能力を使って島に物資や見つけた魔族を送り込んでいたのだろう。


島の同胞達の強い要望から「魔王」となった青年は、彼なりの平和な国を作ろうと奮闘した。
各地でいざこざや問題が起きれば自分が赴いて解決策を練り、毎日自分で畑仕事をしたり魚を捕ったりと、王とは思えない庶民的な生活を送った(強いて王らしい部分を1つ挙げるなら、住居が城であるということのみだろうか)。
そんな風に平和な日々を過ごし、10年ほどが経ったある日。

突如として、彼と島民たちが全力を振り絞って作った障壁が跡形もなく消し飛んだ。
それは、後に人間の歴史では「勇者一行」と呼ばれ語り継がれた者達による所業だった。
彼らもまた、それぞれの理由をもってこの場所にたどり着いたのである。
リーダーの勇者は、生まれ持った才能の強さのせいで「悪の魔族」を討伐するという「聖なる使命」を課せられた17歳の青年。
他にも仲間が数人いたという話だが、この本に記す必要はないので割愛させてもらう。
障壁を突破されたことをいち早く察知した魔王は、島民全員を城に集めて匿い、自身は海岸に出向いて勇者たちを待ち構えた。
私が独自に調査して得た情報によると、魔王と勇者はこんな会話を交わしたらしい。

「どうもこんばんは、人族の皆さん。こんな寂れた城と無害な住人しかいない島にどんな御用で
?」
「僕たちは……ここ数年ですべての大陸を襲っている魔物や瘴気の原因とされている魔王を討伐するためにやって来ました。魔王以外には危害は加えたくありません。どうか、抵抗しないでください」
「それは難しい相談ですね」
「どうしてですか?」
「強いて言うならば……私が魔王だからでしょうか」

それから魔王は、圧倒的な力で勇者一行を返り討ちにした。
だが彼はトドメを刺さず、勇者の仲間の一人であった魔導士が緊急脱出の呪文を唱えるのもあえて止めなかった。
そうして彼らが島から脱出するのを見届けるとすぐに城へと戻り、身を隠していた同胞たちにこう伝えた。

「どうやら、もう平和な毎日を送るのは難しくなりそうだ。だから皆だけでもどうか逃げてほしい」
「俺はもう一度勇者たちの相手をしないとならないが、次はおそらく勝てない。どうか、自分たちの意思で逃げてくれ。頼む、君たちを無理矢理【転送】したくない」

悲しみを滲ませながら涙ながらにそう言う彼の姿に、その場の全員が島から退去する決意を固めた。
こうして、ただひたすらに平和を望んだ青年が創り上げた小さな幸せの島は、たったの10年という短かさで終わりを告げた。
数日がかりで島から全島民が退避したのを確認した青年は城で1人、ひたすらにもどってくるであろう勇者たちを待っていた。
そんな日々の中で、彼は食料の整理にと入った倉庫の奥に少女が一人だけ隠れ住んでいるのを見つけてしまったのだった。

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