異世界スキルガチャラー

黒烏

1900連目 ヴァーリュオン城書庫にて

「この【ゼノ・ヒール】ってスキル、MP消費が大きいことに目を瞑ればかなり強力なんじゃないか?」
「そうね、ちょっとズルいけどかなり良いわ。ちょっとだけ褒めてあげる」

昼、啓斗はゼーテとルカを交えた3人で廊下を歩きながら会話していた。
今日はゼーテが調べ物を手伝って欲しいというので、城の書庫へと向かっている。

「本当、アンタが一言唱えただけで左腕の骨折が綺麗さっぱり無くなるとか驚きだわ」

ゼーテは左腕をグルグル回したり突き出したりして動きを確かめていた。
昨日、啓斗が試しにゼーテに【ゼノ・ヒール】を行使したところ、折れた腕が完璧に治ってしまったのだ。

「シーヴァに使ってやらなくて本当に良いのか? お前はアイツと一緒にいたいんじゃないのか?」
「…………そこに関しては触れないでちょうだい」
「そうだよ。言いたくないことを無理やり言わせるのは悪いことだよ」

ゼーテ本人と何故か彼女の味方をするルカの拒絶を受け、啓斗は聞き出すのを断念した。

(……あんな昔の話した直後にシーヴァ治しちゃったら、アイツ絶対余計なこと話すに決まってる! んなことされたら心臓がもたないわよ!)

心に中に渦巻く怒り(とそれに匹敵する羞恥心)を表情に出さないように押し留めながら、ゼーテはせかせかと書庫へと続く廊下を先頭に立って歩いていく。

「ちょ、ゼーテさん速いよー!」

もう走り出すんじゃないかという勢いで早歩きしていくゼーテを追って、ルカも廊下の奥へと消えていった。

「……全員元気だな」
(はは、そうだねぇ。ボクも彼も元気だよー)
「お前に言った覚えはないが?」
(全く、相変わらずツレないなー。ボクは君で君はボクだよ? お互い自分なんだから仲良くしようよ)
「言っとくが、まだお前達を信用したわけじゃない。俺が正体を思い出すまでは馴れ馴れしい口を利くな」
(はは、怖いね。その冷酷さがあったからボク達をここまで監禁できたんだろーなー)

それだけ言うと脳内に直接響かせてくる「内面」の声は消えた。

『はい、こんにちはー! いやー、最近仕事が多すぎてなかなか暇が……って、置いてかないでくださいよー!』

前触れなくいきなり真横に現れたナビゲーターを完璧にスルーし、啓斗は少し走って書庫へと向かった。

『啓斗様、最近私への当たり強くないですか!?』
「知るか。あと纏わりつくな」

周囲をグルグル回りながら話しかけてくるナビゲーターを鬱陶うっとうしそうに払いのけながら走り、啓斗は書庫に辿り着いた。


巨大な扉を開けて中に入ると、公共図書館などでよくする古い本の香りが身を包む。

「……これは凄い」
『うっひゃー……』

書庫の様子は、啓斗の予想を超えるものだった。
壁という壁が全て本棚になっており、さらにその壁自体も5メートル以上はある。
さらに、見える限りだけで言っても確実に6、7階(啓斗がいるこの1番下は4階だがそこをカウントはしない)上まであるため、もう途方もない。

「あ、来たわね」

すると、ゼーテが奥から何やら巨大な本をルカと2人がかりで運んできた。
国語辞典の倍はありそうな分厚さとそれにふさわしい横幅を備えたその本をドサッと中央にあるテーブルに置き、表紙をパンパンと叩く。

「それは何の本なんだ?」
「……この世界には「魔王」がいるって話は知ってるでしょ? 大幹部とも戦ったって話だし」
「ああ、文字通りケタ違いの強さだった」

啓斗は脳裏に浮かぶ凄惨な光景を頭を振ってどうにか隅に押しやりながら言う。
ルカも表情を崩さないようにしているが、顔色が明らかに悪くなった。

「実はね、今いる魔王は「2代目」みたいなのよ」
「魔王が、2代目……?」
「ええ。この世界に伝わってる伝承だと、約300年くらい前に魔王は「勇者」に討伐されてるらしいの。でも、ここ十数年でおかしいくらい魔物が増えてる」
「しかもその魔物どもが統率取れてるのが厄介なところ。普通はけっこう馬鹿な魔物たちが規則的に動くのは、指揮系統の一番上が復活したからだって考えてる」

そう言うとゼーテは本の表紙をバンバン叩き出した。

「で、この本に魔王とその部下についての情報が載ってるらしいんだけど、謎の言語で書いてあって読めないのよ」
「所々は読める言語で書いてあるから、そこから繋げてなんか魔王に関する「物語」だってことまでは分かってるんだけど……」

表紙を叩く勢いをさらに強めながらゼーテは続ける。

「世界中のいろんな人が解読しようと躍起になってここに来るんだけど、結局解読できずに帰っちゃう。で、ダメ元だけどアンタならワンチャンあるかなって思って」
「なるほど、まあやってはみるが……期待はするなよ」
「ええ、だからダメ元だって言ってるでしょ。あ、ルカはちょっと上に一緒に来て」

啓斗が本の前に座ると同時にゼーテとルカは途方もない高さの階段を上がって行った。






5分後。

「……こりゃ、無理だな」

本を閉じて呻き声を上げた。
呆れるほど多いページをめくってドンドン流し読みしていった啓斗だったが、なんと書いてあるかは一切分からなかった。
というのも、本当にこの本に書いてある文字が意味が分からないのだ。
簡単に述べると、この世界の言葉を全て適当に混ぜて無理やり文章にしてある、というような雰囲気なのだ。
しかし、ゼーテが所々読めると言っていたのも何となく分かる。単語の一部が日本語だったり英語だったりしているからだ。

「だが、どうにもな……」

行き詰まった啓斗は上を見上げて考える。
(城の外観から見て確実におかしいはずだが)天井の見えない無限の階段を眺めていると、1つだけ案を思いついた。

「ついさっき無視したばかりなんだがな……」

そう言った瞬間に本人・・が真後ろに姿を現した。



『フフフ……私を頼らないといけない状況なんですかぁ?』
「……そうなるな」

背後にいるので姿は見えないのだが、満面の笑みを顔に貼り付けているであろうことは容易に分かる。

『ほぉ、この本はまた難しい暗号で書かれてますねぇ』
「読めるか?」
『はい勿論。しかし解読にちょびっとだけ掛かりますので、その間にガチャでも引いといて下さいね』

ナビゲーターが啓斗の目の前に移動し、本の表紙をじっと見つめ出す。

「それ、読めてるのか?」
『お気になさらずー。さっさとガチャ引いてくださーい』

啓斗を見向きもしないナビゲーターを横目に、啓斗は今日の分のガチャを引く。
URの光球である虹色は1つだけ排出された。


URスキル【サモン・ビークル】
魔力を注入することで動く乗り物を召喚する。
召喚できる乗り物は2種類あり、最高2人乗りのバイク型と4人乗りの車型がある。


「……召喚できても運転出来ねぇんだよ」

苦い顔をしながら呟く。
と、ナビゲーターがいきなりこっちを振り向いた。

『オッケーです。だいたい解読出来ましたので、私がお聞かせします……が、1つだけ条件が』
「なんだ?」
『内容は他言なしでお願いします。けっこう機密事項で、聞くべきじゃない人もいますから』
「…………分かった」

長考の後に啓斗が頷くと、待ってましたとばかりにナビゲーターは話し出す。

『じゃあ行きましょうか! えーっと、語り出しは………………』

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