異世界スキルガチャラー

黒烏(クロイズク)

降りしきる雨の中で 1

第2部 1章 「出発までの8日間」




翌日、啓斗は床の上で目を覚ました。
と言っても本当に床で寝ていたわけではなく、床に敷いた布団の上で眠っていたのだ。
場所はルカの病室である。
こうなった経緯は全て話すと長くなるので、要約してお伝えする。
要するに、昨日の夕食時にルカが啓斗に一緒にいてくれるよう懇願したのである。
啓斗は結構本気で拒否したのだが、ルカの潤み切った瞳と涙声、そしてそれを見ていたゼーテが「アンタ、女の子のお願いも聞けない無責任で薄情な奴だっけ」と辛辣に言い放ったせいで断りきれなくなってしまったのだ。
そんな訳で啓斗は(ゼーテが「親切にも」予め用意していた)布団を借り、ルカのベッドのすぐ傍で寝るに至った。
ルカは発言の意味を分かっているのかいないのか「ベッドで一緒に寝ようよ」と言い出したが、流石にそれは駄目だという意見で(ルカ以外)全員一致した。
上記の経緯を経て、啓斗はルカの隣(正確にはルカが寝ているベッドから約1m離れた床に敷かれた布団の上)で目を覚ましたのである。

「……………」

スッと立ち上がり、無言のまま首と肩を回してほぐす。
連日の戦いで体が休まっていないのか、ゴキゴキと嫌な音を立てた。

「痛っ……」

顔を顰めながら、啓斗は隣を見やる。
ルカはまだすよすよと静かな寝息を立てて眠っており、起きる気配はない。

『はい、啓斗様おはようございます!今日も元気に頑張りましょー!』
「……雨降ってるな」

いきなり現れたナビゲーターをスルーしながら、窓の外を見ると、静かに雨が降り注いでいた。

『ちょ、無視しないでくださいよー!啓斗様について全部アドバイスできるのは私だけなんですよー!?』
「……ん? あれはなんだ?」

啓斗は、SRスキル【百里眼】を行使してズームイン、アウトを繰り返しながら国中を見渡していた。
すると、偶然ズームインして眺めた街に、多数の影を見た。

「……魔物か。街の機能が一部停止したからな。そこを狙ってきていると」
『あのー、無視しないでくださいよぉ。私だって居ないもの扱いされたら拗ねますよ?』

どうやら、ヴァーリュオンの状態を目ざとく察知した魔物の集団が街を襲おうとしているところらしい。

「…………」
『啓斗様ー、あのー話聞いてますー?』

啓斗は一瞬だけ思案した後、静かに窓を開けた。
そして窓枠に手を掛けると、そこから外に向かって飛び出した。

『うわ、ちょっと!おもむろに何してるんですか!』
「魔物を見つけた。街に被害が及ぶ前に始末しに行く」
『へ!?……まあ、そういう事でしたらスナっちに準備させときます』

ナビゲーターはそれだけ言うとホログラムを消した。
ルカと啓斗が寝ていた部屋は王城3階、地上20m以上に位置しているが、彼は躊躇い無く飛び降りることを選択した。
落下しながら頭の中で移動スキルの使用順番を組み立てる。

(まず着地で……それからダッシュ力とジャンプ力の上昇に……)

そんなことを考えながら啓斗は、風を切って地面へと近づいていく。
すると、頭上から声が聞こえた。

「ケイト君! 黙って出てっちゃうなんてひどいよ!」
「……ルカ!?」

なんとルカが全身を大の字に広げて啓斗に続き落下してきていた。

「ルカ、なんで来た!」
「だって、置いてかれたくなかったんだもん! わ、落ちてく感覚ってなんか気持ちいいー!」
「おい、着地のことちゃんと考えて飛び降りたんだろうな!?」
「あ、忘れてたー!」

呑気に言ってのけたルカの計画性の無さに呆れながらも、啓斗は落ち着いてスキルを連続使用した。
まず、啓斗の右手の指5本全てから白い糸のようなものが発射される。
糸はルカの両手両足と胴体に当たり、粘着音を立てて彼女にひっついた。

「わぁ、何これ!?」
「ルカ、あまり動くな! 初めてだからコントロールが難しいんだ!」

そのまま右手を握り込んでグイッと思い切り引っ張る。
ルカは啓斗に向かって引き寄せられ、彼に抱き抱えられる形で腕の中に収まった。


SRスキル【スパイダー・イジェクト】
「スパイダー」シリーズのスキルの1つ。
手の指1本1本から超強力な粘着性を誇る魔法の蜘蛛糸を射出する。
あくまでも魔法なので、消える時はすぐに消える。


「ここで……くあっ!」

豪快に水飛沫をぶち上げながらヴァーリュオンの歩道に着地する。
蜘蛛糸は既に消しており、ルカの体には痕一つ無い。


SRスキル【吸収:着地衝撃】
「吸収」スキルシリーズの1つ。
高所から落下した時、着地の際に生じる衝撃の99%を吸収し、その後、推進力に吸収分を1度だけ上乗せする。


啓斗は着地の衝撃をスキルで吸収すると、同時に【ダッシュアップ】と【ハイジャンプ】を併用した。
その圧倒的な推進力で、啓斗は一瞬で約1km前方へ「跳んだ」。

「うおおおぉっ!?」
「ちょ、ケイトくーん!?跳びすぎだよぉー!!」

超人的な跳躍力と走力で、啓斗はそのまま目的の街までルカを抱えたまま走っていった。

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