異世界スキルガチャラー

黒烏

純粋無垢な怨念少女

啓斗、ルカ、マリーの3人は、城のバルコニーに出て風に当たっていた。

「……こうやって見渡してみると酷い有様だな。判別できる範囲で家屋がただの材木になって散らばってる場所だらけだ」
「……やったの、私、なんだよね?どうしよう…」
「どうしようもこうしようも無い。捕縛でもしに来たら反撃して逃げるだけだ」
「え、でもそんなことしたら……」
「ああ、お尋ね者になるだろうな。だが、前提として俺とお前はまずここの国民じゃないんだ。人権が保証される可能性自体が低い」
「ジンケンってなに?」
「いや、何でもない。まあ、万が一そんな事になったら俺が命かけて守ってやるから安心しろ」

啓斗はそう言ってルカに向け力強く頷いた。
啓斗のその行動は、ルカにとって安心するに値する価値があった。

「うん、分かった。私も、牢屋に入れられちゃうならケイト君と一緒に逃げる方がいい」
「そう言ってくれて嬉しい。と言っても万が一の話だ。1日経ってるのに捕まえに来ないってことは大丈夫だってことだろう」
「ゼーテさんも同じこと言ってたよ」

2人で小さく笑いあった後、啓斗はもう1人の存在を見やる。
バルコニーに飛んでいる蝶を追いかけてキャッキャッとはしゃいでいるマリーだ。

(マリーのステータスも確認しておくべきか。結構異常な能力を色々と使っているしな)

啓斗はそう考え、マリーに向かって彼の【分析アナライズ】を行使した。


マリー・ソルレイク
種族  ヴァーリュオン人
Lv 66
HP:F
MP:A
P・ATK:G
M・ATK:A(特定スキル:SS)
DEF:G
DEX:E
SPD:D(特定スキル:S)
LUK:B

魔法属性適正
火:D 水:D 風:D 土:D 光:G 闇:C 無:B

状態
【永続怨念】
永続的に状態異常「怨念」が身に発動し続ける。

状態異常「怨念」
解除されるまでの間持続的にダメージを受け続ける。
魔法行使時の魔力消費が2倍になる。
亡霊による怨念の場合、怨嗟の声や幻覚症状を引き起こす。

特殊スキル
【怨念吸収】
怨念のマイナス効果を無効化し、「呪怨」スキルが使用できるようになる。

【遺愛の守護】
呪い・誘惑・精神操作スキルの効果を一切受けなくなる。


固有スキル
夢幻ドリーミィ・記憶メモリー
自身の「記憶」と「夢」からスキルを作成して使うことができるようになる。
ただし、全て記憶や夢に100%忠実に再現される保証はない。
副次効果として、「睡眠時に必ず夢を見る」ようになり、記憶力が上昇する。


(またアブノーマルな能力だな)

解説を読み終えた啓斗が最初に思ったのはソレだった。
啓斗自身、ルカ、ナイトブライト兄妹に引き続き、強力だがかなりのリスクが潜む能力を有している。

(自分の記憶や夢からスキルを生成する能力。そして、マリーは純粋無垢で豊富な発想力を持っている)
(そしてそれを強化するように付与されている「呪怨スキル」とやらの使用権限と精神汚染系スキルの無効化スキル)
(完璧だな。だが、裏を返せばもし何らかの理由で心を乱したりしたら誰も止められないということでもある)
(……ああ、全く。どうして俺の周りには昔から)
『爆弾ばっかり集まるんだ、とか考えてます? 啓斗様』

いきなり現れて図星をついてきたナビゲーターに啓斗は心の底から驚いた。

「なんで俺が思ってることが分かった」
『いやまあ、資料で啓斗様の人生読みましたし、実際の感じから見てもそんな風に思ってるのかなーって。まあその話は後ほど。それより今はこのマリーちゃんについてですよ』
『「呪怨」スキルが自由に使えるって実は相当ヤバイですからね?周りに幽霊やら怨念体やらのたぐいがいたら仲間に引き込んだり出来ますし、相手に幻覚見せたり精神を蝕んだりとか、霊や悪魔しか使えない技がたくさん揃ってますから、自分の意思を持って制御できればひっっじょーに強力です』

ナビゲーターはいつも通りの早口でペラペラとマリーについて解説した。

『そんな感じなので、あの子とは固い信頼関係を結んでおくことをオススメします。もしくは……いえ、やっぱ何でもないです』
「なんだ? 言いかけてやめるのが1番気になるぞ」
『もっと確実にスキルを使用する方法がありますが、言ってもどうせやらないと思うのでいいです』
「なんだ?聞いて損は無いだろ、言ってみろ」
『えー……いえ、この方法はマリーちゃんに限らないので、これも後でにさせて頂きます』

そう言うとナビゲーターは逃げるようにホログラムを消した。

「全く、なんなんだ一体」

啓斗は軽く溜め息をつくと大きく伸びをした。


ルカはマリーと一緒にはしゃぎ回って遊んでいる。

「マリー、やっぱりおねえちゃんがいちばんスキ!」
「本当? ありがとう! でも、どうして?」
「だって、おにいちゃんたちがお出かけしちゃったあとでおうちにいたときにはじめてあそんでくれたから! あと、おねえちゃん、とってもがんばってるから!」

それを聞いて、ルカはなにか胸に込み上げるものを感じ、優しくマリーの頭を撫でた。
マリーはへにゃっとした笑顔を浮かべてルカに身を任せている。

「ねえ、マリーちゃんはお兄ちゃん達に会いたい?」
「うん!でも、いまはおねえちゃんたちがいるからへいき!」
「もし、帰ってこなかったら? ずっと待ってても、帰って、来なかったら?」
「へ? おねえちゃん、へんなこといわないでよ。おにいちゃんたちがマリーをずーっとひとりぼっちにしたことなんかなかったもん! ぜったいかえってくるんだもん!」
「……そうだよね。ごめんね、変な事言っちゃって」
「うん、ゆるしてあげる!ねえ、おにいちゃんたちがかえってきたらおねえちゃんたちもいっしょにあそぼう!」
「ユーリおにいちゃんもジョンおにいちゃんも、やさしくてダイスキ!! あ、おとうさんもおかあさんもスキ!はやくかえってこないかなぁー」

ルカはその言葉に違和感を感じた。マリーは既にあの誰もいなくなった街で4年もの間(幽霊になった兄2人がいたとはいえ)一人ぼっちだったはずなのだ。
それなのに今の発言。まるで本当にただちょっとした「お出かけ」をしただけのように言っている。

「おねえちゃん、いきなりなんにもしゃべらなくなっちゃってどうしたの?」
「え?あ、いや、なんでもないよ!ほら、次は何して遊ぼうか?」
「うーん、じゃあ、おにごっこ!おねえちゃんがオニね!」

言うやいなやマリーは全速力で走っていってしまった。
ルカは、自身の葛藤とマリーへの疑問を振り切るようにマリーを追いかけて走り出した。




マリー・ソルレイク。彼女は、時間の感覚がおぼろげだ。
もう、どれだけ家族を待っているかなど覚えていないし、思い出すことも出来ないだろう。
精神が6歳で止まってしまった少女はただ、待つ。
「大好きになったお姉ちゃん」や「遊んでくれるお兄ちゃん達」と一緒に。
帰ってくることのない2人の兄と、両親を、ただひたすらに待ち続けるのだ。
今のままでは少女はただ待ち続けて一生を終えるかもしれない。
もし、少女が真実に気づく時が来るのなら。
その時には、何が起こるか分からない。

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