異世界スキルガチャラー

黒烏(クロイズク)

騎士兄妹の過去 終

「………それで、悪趣味スーツ野郎が私の頭に触れたあたりから何も覚えてないの」
「その後、先に目を覚ましたのは僕だった。と言っても、次の日の朝だったがね。その話もしておこう」








「…………う、ううん……………はっ! ゼーテ!?」

シーヴァは目を覚ました瞬間、妹の名を叫んで周りを見渡した。
幸い、ゼーテを見つけることができた。急いで自分のすぐ隣に横たわっている妹の顔と手首に触れて生きているかどうか確認する。
呼吸も脈拍も正常そのもので、怪我も一切見当たらない。
魔法による昏倒ではなく本当にただ眠っているだけのようだ。

「ゼーテ、もう朝だ。起きろ、ゼー……ん、これは……?」

ゼーテを起こすために体を揺り動かした時、彼女に起きている異変に気がついた。
その体がほんの少しだが浮いている。

「なっ!?ゼーテ、一体……!?」

シーヴァは居間の棚に置いてある母親の手鏡を取り、自身の顔を見た。
そこには血の気が失せるような不気味な光景が映っていた。
左眼全体が漆黒に染まっており、そこから闇そのもののようなオーラを垂れ流している。
しかも、どれだけシーヴァが眼を元に戻そうと体内の魔力を押さえつけても元に戻らないのだ。

「眼が、戻っていない……? いや、それなら左眼も同じようになっているはず。何故だ?」

魔力がドンドン体外に漏れ出ていってしまう感覚に襲われながら、急いで対策を考える。
とりあえず左眼を閉じてみる。すると、魔力が放出されている感覚は一旦収まった。
眼を開けてみる。また放出される感覚に襲われた。
念の為もう一度ゆっくり瞬きしてみる。
どうやら、まぶたを閉じている間は眼の力による魔力の放出が収まるようだ。

「眼を覆える物があれば抑え込めるか……?」

シーヴァは棚から救急箱を引っ張り出し、中にあった怪我の手当用の眼帯を取り出して着けてみた。
しかし、魔力が放出されている感覚は一切無くなることは無かった。

「ただ瞳を覆うだけでは無意味なのか。しかし、常に片目を閉じたままというのもまた難しい」

自分を落ち着かせるために敢えて口に出して考えを整理しながら、シーヴァは改めて居間の様子を見渡してみる。
すると、床の上に2枚の布切れが落ちているのが目に止まった。
不審に思い拾ってみると、それは黒地の眼帯だった。
触れてみるとかなり上質な生地を使っているようで、触り心地は非常に良い。
そして最も特徴的なのは、眼帯の両面に見たことの無い謎の紋様が縫い込まれているところだ。
どのような紋様かは、言葉にするならばこう表現できる。
紋様は全て輝く金色の糸で縫い付けられており、伝説に語られる天使に生えているような2枚の翼と、その中央に1本の剣があった。
裏に返してみると、そちらには禍々しいコウモリの翼のような紋様と、中央には表の剣と逆さになるように縫い込まれた剣があった。

「まるで、表裏で対になっているようだが……?」

この紋様になんの意味があるかは全く分からないが、
シーヴァはこの眼帯に何かを感じた。
怪しみながらも左眼に着けてみる。すると、魔力が放出される感覚がフッと消えた。
裏返して着けてみるが、効果はどうやら同じようだ。

「……あの悪魔の置き土産と考えるのが最も自然か。しかし、なぜ2枚あるんだ?」

訝しみながらも、眼帯を天使の翼の方(これより便宜上「表」とする)が他人に見えるよ左眼に装着し直す。

「着けるのは気が引けるが、今は他に手がない。………仕方がないか。さて……ゼーテ! 起きるんだ!」

未だ眠っているゼーテをかなり強く揺する。
すると、呻き声を上げながら彼女は目を覚ました。

「……ううう、ん」
「ゼーテ、起きたか。だいじょう……っ!?」

シーヴァは目を開けたゼーテの左眼を見て言葉を失った。
ゼーテの右眼が、
急加速する心臓の鼓動を感じながら、まだ寝起きのゼーテに眼帯を握らせる。

「ゼーテ、今は何も聞かずにこの眼帯を左眼に着けろ。今すぐに」
「……え、どういう事?」
「いいから!説明は後でする!ほら、着けろ!」

シーヴァは必死の形相でゼーテを説得し、左眼に眼帯を着けさせた。

「……ふぅ、ようやっと一息つけた。しかしやるべき事は多そうだな」
「………そうね。急いで色んなところに連絡取らないと」
「ゼーテ、体調は大丈夫か?何なら部屋に戻って……」
「一緒に行く。愛情が無かったとしても産んで育ててくれた両親の死体がある家に1人でなんて居たくないに決まってるでしょ」
「……そうだな、もっともだ。じゃあ、行くか」
「そうね、行きましょ。シーヴァ・・・・
「……ん? いきなり名前で呼んだりしてどうした?」
「ううん、別に。ただ同い年の双子なんだし「お兄ちゃん」呼びは流石にもうおかしいかなって思っただけ」
「いや、別に僕は構わないが」
「私が気にするの。もうこの話は無しにして」
「……いきなり性格変わったな」
「心境の変化って奴よ」
「分かった。そういうことにしておく」








「後は詳しく話す必要も無いな。僕とゼーテはその後、叔父の家に厄介になって暮らした」
「僕達が中学3年の時に先代の王が急死し、今のジェイド王に変わった。王は「王国騎士団訓練学校」を設立。入学は15歳以上で中学卒業後かつ適性がある者とした」
「僕とゼーテはその適性試験を受けて合格。しかし、それまでに気になる点がいくつもあった」
「まず、僕の右眼にあった「銀眼」がゼーテに移っていたこと。次に、僕の魔法力がほぼ半分になっていて、ゼーテがその状態の僕と同等までに突然強くなったことだ」
「当時から疑惑を持ち続けてはいたし、調べもした。だが、これだという魔法や呪いは1つも見つからなかった」

シーヴァがそう言うと、ゼーテは目を伏せた。
啓斗はゼーテのその姿に違和感を感じたが、今は何も言わないことにした。

「訓練学校に入学した後は寮暮らしだったから、不自由は無かった。力が半分になっても他の輩より僕の能力は高かったし、その僕と同等になったゼーテも勿論優等生になった。トップクラスの生徒は学費など諸費全てが免除されてね。金に困ることは無かった」
「それで、まあ……2年間必死に勉強したり訓練したり色々して、騎士団学校卒の1期生として新設されたヴァーリュオン騎士団に入団。その後は知っての通り、北の魔物の巣を壊滅させて、君達に出会った」
「それが、僕とゼーテの人生の全てだ。僕は、絶対にあの悪魔を名乗った男を許さない」
「父と母を殺害し、僕と妹の人生をここまで狂わせたあの男を見つけだして、この手で永遠に葬るのが僕の使命なんだ」

そう力強く断言するシーヴァの眼には、一点の曇りもない「覚悟」が宿っているように見えた。

「これで話は以上だ。ご清聴、心から感謝する」
「私も特に言うことは無いわ。強いて言うなら、魔力制御が結局この眼帯以外じゃできなかったことくらいかしら。だからずっと着けてるの。格好つけとかじゃなくて、生活必需品になってるのよね、コレ」

完璧にイラついた顔をしながらゼーテはそう言った。

「それじゃ、私は部屋に戻るわね。もう用はないし」
「僕は動けないからね。ここで大人しく寝てることにするよ。それじゃ、お休み……」

ゼーテはさっさと出ていき、シーヴァはなんと2秒で寝息を立て始めた。

「相変わらず、マイペースな兄妹だな」
「ねぇ、ケイト君。私達はどうする?」
「ん?……じゃあ、外の空気でも吸いに行くか。マリーも来るか?」
「いくー!!」

啓斗、ルカ、マリーの3人も、シーヴァの病室を後にした。

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