異世界スキルガチャラー

黒烏

暗闇の中の悪魔

「それで、早く答えて貰えるとこちらとしてもありがたいのだが。生憎時間があまり無いのでね」

黄金スーツの男はステッキをクルクルと回しながら男は言う。

「効果によっては君達だけは生かしておいてあげても良い。ほら、早くしたまえ。それとも、何かきっかけが無いと発動しないのかな?」
「……出ていけ!さもないと、攻撃するぞ!」

威嚇するようにシーヴァは男に向かって叫ぶ。
だが、男は一切動揺するような様子を見せず、喉の奥でくつくつと笑う。

「クク……この状況で私に口応えとは良い度胸を備えているようだ」
「しかし、遊んでいられる時間がそう多くないのでね。手っ取り早く済まさせてもらう」
「他者の能力を見極めるには、反撃の仕方を見るのが一番だと私は思うよ」

男が言い終わった瞬間、シーヴァはいきなり居間の壁まで吹っ飛ばされた。
暗闇にぼんやりと立つもう1つの人影をゼーテは視認することが出来た。
その影は異常なスピードでゼーテにも接近すると、彼女の腹部に衝撃を与えた。

「ぐ………え………」
「んー、僕は仕事全般嫌いだけど、アンタに頼まれる仕事が1番嫌いだよ」
「そう言うな。どうせ貴様はいつもダラダラとして運動していないだろう?ちょっとしたトレーニングのようなものだ」
「まったく、トレーニングで少年少女をぶっ殺す趣味は無いよ。僕はね」

その人影の方は、黄金の男の光に照らされて姿が良く見えた。
身長は大体165cm前後と言ったところか。
顔つきはまだ幼い少年であり、服装は白と黒の縞模様が続くパジャマとナイトキャップ。
だが、全身から禍々しい雰囲気を隠す気もなく流しているのが確認できた。
(その正体はご存知「怠惰」の悪魔ベルフェゴールであるが、兄妹はこの時にその名を知る術は無かった。)

「よし、じゃあパパッと終わらせて。僕の【無関心インディフェレント領域ゾーン】も魔力消費激しいんだからホントお願い」
「本当は貴様が暗殺の仕事をこなすのに最も適任だというのが魔王様も含めた全員の意見なのだがな」
「はぁ?暗殺もマジバトルもゴメンだっつーの。僕はただなんの問題もなくダラダラするのが好きなんだからさ。魔王様ともそういう話で通ってんだから口出しは無しでお願い」


無関心インディフェレント領域ゾーン
能力範囲内の人間の思考に作用し、どんな異常な事柄が自身の視界の外で起きたとしても一切興味を持たなくなる。


「って、あれ?そういえば【領域ゾーン】が効いてるのにこの子らどうして異常に気づいたんだろ?」
「……何か理由があるのだろう。そこも見極めておかねばなるまい」

そう言うと金スーツの男はゼーテの首を掴んで体を持ち上げる。
そのままギリギリと首を絞めあげ始めた。

「さあ、どうにかしないと少女の命が危ないぞ?」

ゼーテは男の腕を掴み返して抵抗するが、男の握力と腕力は異常で、彼女の力では外せそうになかった。

(なに、この力!鋼鉄機械に掴まれてるみたいに強すぎる……!)
「あ………あ………あ………」

ゼーテの抵抗がドンドンと弱くなっていく時、ようやくシーヴァが吹き飛ばされた衝撃に耐えて起き上がった。

「や……めろ……! ゼーテに……妹に、触るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

瞬間、シーヴァの両眼に再び闇と銀光が宿る。
闇は増幅し、その引力の魔法でゼーテと黄金の男を引き剥がした。

「おおっ!?これはまた……」
「へぇ、面白いね」

引き剥がされた男は感嘆の声を上げ、寝巻きの少年も目を少しだけ見開いた。

「もっとその瞳をよく見せたまえ!」
「うわっ、早っ。食いつき半端ないねー」

男は一瞬でシーヴァの眼前に移動し、ステッキを彼の額に当てた。
すると、シーヴァはその場から1歩も動けなくなってしまった。
そのままスーツの男はシーヴァの髪を掻き上げ、まじまじとその両眼を見つめる。

「これは美しい。左眼から流れ出る底無しの深淵と、右眼から放たれる突き刺すような銀光!」
「とても美しい……が、私の求める「神眼」とはまた違うな。これは「魔眼」に属する能力だ」

声にはほんの少し落胆の色を見せていたが、その目は嬉しそうに細められている。

(動け……ない!?)

歩けないだけでなく、指一本すら動かせない。
更に、自身の両眼が能力を発動しているのは感覚として認識できているが、目の前の男に効果が異様に薄いのも分かる。
せいぜい体重を1、2キロ重くしている程度の重力攻撃しかできていない。理由は一切不明だ。

「お兄ちゃ……!」
「はーい、女の子は大人しくしてようねー」

シーヴァに駆け寄ろうとしたゼーテの服を寝巻きの少年が掴んで放り投げる。
ゼーテは今の空中を弧を描いて飛び、兄妹の両親が項垂れたまま座っているソファに激突した。

「いったぁぁ……うぅ……」

後頭部の痛みに耐えながら起き上がる。
どうやら両親の上に落ちてしまったらしい。

(やっぱり、もう冷たい……)

予想通りと言ってはアレだが、ゼノンとレイナは既に息絶えていた。
しかし、ゼーテは不思議とそこまで悲しく感じなかった。
幼い頃から見向きもされず、愛情を注がれなかった故だろうか。

(何か、戦えるものを持ってるはず!)

そう思って両親の体を急いで探る。
父が腰に提げた剣は自分の腕力では重すぎて扱えない。
母の持っている魔法触媒(扱いやすいよう加工された杖だ)も、ゼーテの魔力では利用価値が無かった。

(あれもダメ、これもダメ! 私はまた何も出来ないの!?)

すると、父が剣を2本腰に提げているのに気づいた。
疑問のままに思い切り引き抜くと、勢い余ってソファから落ちてしまった。

(なに、この剣?軽い!鉄で出来てると思えないくらい軽いわ! これなら、使えるかも!)

その「異様に軽い剣」をぎゅっと握り締めると、ゼーテは寝巻きの少年に向かって疾走した。

「喰らえ!」
「わ、え!?」

少年が思わずかざした左腕に剣を突き刺す。
剣は少年の骨や筋肉の抵抗を一切受けることなく、腕を貫通した。

「痛っ!!何すんの!!」
「キャッ!」

少年は痛みに顔を顰めながらも、そのままの勢いでゼーテを反対方向に投げ飛ばした。
ゼーテは投げ飛ばされたが上手く着地する。その場所は、偶然にもシーヴァと金スーツの男のすぐ傍だった。

「お兄ちゃん!」
「なっ……!?」

ゼーテは躊躇い無く金スーツの男に向かって剣を突き立てた。
ドスッ、という小さく鈍い音が聞こえ、刺し口から血が流れ出す。

「お兄ちゃんを離せ! この悪趣味スーツ野郎!」

そのまま何度も背中に剣を突き立て続ける。
だが5回ほど突き刺した時、突如顔面に裏拳が飛んできた。避ける間もなくゼーテの体は宙に浮いた。

「調子に乗るなよ、ただの人間の子供風情が!!」

男はゼーテが吹き飛ぶ前にゼーテの首を掴み、更にステッキを放り出してシーヴァの首も掴む。
そのまま2人共持ち上げ、首を絞める。
だが、シーヴァの黒眼の引力の魔法が男の腕を潰しにかかっているのが男には分かった。

「ちっ、素養は十二分か。ならばまずは、こうしてやろう!」

シーヴァの首が「メキャッ」という音を立てる。
シーヴァは激しく吐血すると、項垂れて動かなくなった。

「なに、気絶させただけで殺してはいない。そして、この私に傷をつけた少女よ。貴様の中に見たぞ。貴様が心の内に抱えた歪んだ「欲望」が私にはよく見える。クク、「兄に愛されたい」、「兄妹という関係がその邪魔だ」、「兄に絶対に見捨てられたくない」という貴様の考えがな」
「それほどまでにこの兄に執着するか。良いだろう、貴様の欲望を叶えてやろう!」

ぐったりしたまま動かないシーヴァから手を離す。
しかし、シーヴァの体は床には落ちずに浮いたままだ。

「あーあー、またその面倒な奴やるの?よっぽどその子供たちが気に入ったんだね」
「ああ、これは逸材だ。一瞬殺そうか迷ったが、苦難を背負わせて生かしておいた方が面白そうだと考えたわけさ」
「はいはい、じゃあチャチャッと済ませてね」

男が纏っている黄金のスーツは、未だにギラギラと輝き続けている。
しかしゼーテは、男の深紅に禍々しく光る両眼に魅入られたようになっていた。

「では、始めよう。その欲望が貴様自身と貴様が最も愛する者を縛り、生き地獄へと突き落とすのだ……」

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