異世界スキルガチャラー

黒烏

帰還する馬車の中で 下

『啓斗様、気絶している間に不可思議な夢を見られましたね?』

いきなり確信をつく質問を投げかけてきたナビゲーターに、啓斗は数秒の間返答に戸惑った。

『あ、予想外の質問でした? ちょっとした特殊能力です。人間の記憶の一部を覗くくらい簡単です』
「万能だな、天使様は。ああ、俺は確かに奇妙な夢を見た」
『内容を教えていただけますか?それを参考にしてこっちで調べれば何かしら分かるかもしれません』
「分かった。じゃあ、まず夢の中でいた場所から話そう」

啓斗は、無限に続くような廊下、そこにあるたった一つの牢屋、中にいた2人の人物についてナビゲーターに詳しく話した。

『うーん、ピエロマスクとジェイソンもどきですかぁ。ホラー映画っぽい組み合わせですね』
「確かにな。その意味もよく分からない」
『そうですねぇ、まず前提として、その牢屋のある場所は啓斗様の頭の中と推測されます』
「そうだな。俺も同意見だ。意識だけ別の場所に直接ワープさせられたとは考えにくい」
『ただの蛇の毒液ですからね。そんな副次効果ありませんから』
「じゃあ、あの二人は俺の意識の権化ってことになる。しかし、何者なんだ?」
『そこなんですが、私にもまだ分かりません。今、会話しながら情報を下ろしてくれるよう要請しましたが、調査にしばらくかかるらしいです』
「そうか。じゃあ………お手上げだな。40分も考えて一切何も思い出せなかったんだ。どうにもならない」
『ちょっと待ってください。あの、もう1回会話の内容を教えて貰えます?特に1番最初と1番最後の方』
「ん?ああ」

啓斗は、あの2人の言動をもう一度思い出しながらゆっくり話した。

『なるほどぉ……少しだけ分かりましたよ』

聴き終わったナビゲーターは、何やらしきりにウンウンと頷いている。

「何が分かったんだ?」
『はい。まず、ピエロさんの方が言った「久しぶり」と、ジェイソンもどきが言った「さっさと出せ」という2つのワードから、この2名は啓斗様と非常に親密だと容易に解釈できます』
「……俺は見覚えは無いんだが」
『そこなんですが、多分記憶を封じ込めてるんじゃないですかね? どこか記憶がすっぽり抜けてる部分がありませんか?』

その質問に、啓斗は数分黙り込んだ後こう答えた。

「……分からない」
『そうですか……』

彼女は少し言うか迷うような動作をした後、意を決して言った。

『では、何かトラウマでもありませんか? 思い出したくない記憶とか』
「…………うっ」

いきなり、啓斗の頭に貫くような痛みが走る。
たまらず頭を抱えてうずくまった啓斗を、ナビゲーターが心配そうに見つめた。
少しすると痛みは治おさまり、息を整える。

『大丈夫ですか?頭痛ですか?』
「ああ、心配いらない。もう消えたよ」

そうは言ったものの、冷や汗はまだ止まっていなかった。

『じゃ、じゃあ続けます?』
「ああ、頼む」
『では行きますね。ピエロが言った「鍵を持っていない」「ボク達を忘れないで」という言葉からも考える所があります』
「……鍵が何なのか、そしてどうして忘れられるのを恐れているか、という所だな」
『その通り。なのでヴァーリュオンに帰還して最初にすべきことは…………あっ!!』
「ん?どうした?」

最初にすべきことは「記憶を取り戻すこと」だと言われると予想していた啓斗は、ナビゲーターの思わぬリアクションに目を見開いた。

『やっば、忘れてました!啓斗様!』
「なに?どういう意味だ!?」
『いや、あの、そのぉ………』

ナビゲーターは視線を右往左往させて汗をダラダラ流しながら小声で言った。

『実は、啓斗様が寝てる間にシーヴァさんから連絡があったんですが、啓斗様にご迷惑をかけないようにと……独断で……通信をを切ってしまいました』

それを聞いた啓斗は、少し前に見せた怜悧な視線をナビゲーターに向けた。

「ナビゲーター、やってくれたな! 緊急の連絡だったらどうするつもりだ!?」

そう言って御者に向かって叫んだ。

「もっとスピード出せますか!?最高速でお願いしたいんですが!!」
「了解です。では、馬車と馬に加速魔法をかけます。しっかり掴まってて下さいね」

すると、馬車のスピードが極端に上がり、手すりに掴まらないと壁にぶつかりかねないほどになった。

「くそっ!頼む!間に合え!」
『あわわわわわ……急いでシーヴァさんに連絡を取らないと……』

ヴァーリュオンまであと12kmほど。
啓斗は祈る思いで窓の外に小さく見える王城を凝視していた。

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