異世界スキルガチャラー

黒烏

(sideルカ) 壊滅した故郷

「う……そ……」
 
里へと続く道をひたすら歩き、中央広場までどうにか辿り着いたルカだったが、そこで見たのは、変わり果てた故郷の姿だった。
家はほとんど破壊されており、所々に狼やクモの死体が転がっている。
死体は全て矢が突き刺さっており、それがルカの仲間によるものだと示している。

「皆は? 皆は一体どこに……?」

ここでおかしいのは、生者死者に関わらず、人間が誰一人いないことだ。
ルカは、家の残骸や、崩壊していない家の中を調べ回ったが、血痕1つ見当たらない。
ついこの前のリュートタウンを思い出すような無人感だ。
オロオロしながら辺りを探し回る。
自分の家や友達の家、ディーラの家もくまなく探したが、誰一人として見つけ出すことは出来なかった。
ルカは広場の真ん中で座り込んで泣き出してしまう。

「う……うぅぅぅ……みんなぁ……ケイトくぅん……」

そのままグズグズ泣いていると、森の奥からガサリと音がした。
振り向くと、あの巨大グモが1匹近づいてきていた。
ルカはその姿を見て、最初は恐怖を覚えたが、途中からふつふつと怒りが湧いてきた。

「お前ら! ケイト君を……皆を……!どこへやったぁぁぁぁ!!??」

蓄積した恐怖を怒りに変えてクモを睨みつけ、弓を構える。

「喰らえ!」

ルカは目にも止まらぬ高速で矢を放つ。
クモの足を右側4本吹き飛ばした。そのまま接近し、身動きの取れないクモを見下ろす。

「答えろ! お前達の親玉はどこにいる!」

だが、所詮クモはクモ。魔物だとしても会話はできない。
ルカはため息をつくと、クモの脳天を射抜いて殺した。
矢を引き抜き、矢筒に入れる。折れてさえいなければもう一度使用可能だ。

「もう、泣いてばかりじゃダメだよね……ケイト君と皆を……探さないと!」

弓をしっかりと握り直し、今度は階段の上に進む。

やしろなら誰かいるかもしれない」

上っている間にクモが頭上から降ってくるが、それを射落としながらドンドン上っていく。

「邪魔だよ! どいて!」

後ろから迫るクモもいたが、振り向きざまに頭に矢を当てる。
ルカが歩いた後には、クモの死骸が大量にゴロゴロ転がっていた。





クモ達の妨害を退け、ルカは社に到着した。

「扉に侵入者撃退用の魔法陣が描かれて
る……」

社の扉には、壮大な魔法陣が描かれており、そこからは敵意を持つものを吹き飛ばす魔法が常時発せられている。
深く深呼吸し、扉をノックする。
すると、魔法陣から光が消え、音もなく開いた。


中には、大僧正だいそうじょうが変わらず座っていた。

「僧正様!これは一体どういうことですか!?」

慌てて駆け寄るが、大僧正の異変にもすぐに気がついた。

「あ、ああ……」

大僧正は、既に息を引き取っていた。体は氷のように冷たく、ほんの少しだけ開いている両目に光は無かった。
だが、その顔は苦しんだようには見えない。
そこで、ルカは彼が何か紙を持っていることに気がついた。
手から抜き取り、2つ折りにされた紙を開く。そこには、大僧正の最後の言葉が記されていた。


ルカへ
お主が旅立ってからわしはずっとお主を見守っておった。
だが、今日戻ってきたのは災難だったな。お主は絶望の光景を見たかもしれない。
しかし、里の皆はまだ生きておる。
まだ間に合う。里の皆を攫った奴は森の「遺跡」におる。
奴は、遺跡におった神官から護符を奪い、禁域を根城にして妙なことをしている。
お主なら奴を倒せるかもしれない。
だが、遺跡に入るには護符が必要だ。
儂のものを持っていけ。首にかけてある。


要点だけをまとめた感情のない文だ。
だが、それほどに余裕がなかったのだとルカは解釈し、大僧正の遺体から首の護符をそっと取る。

「僧正様……今まで迷惑かけてごめんさい」

遺体に一礼すると、ルカは森の「禁域」へと走り出した。


「遺跡」は、地龍が封印されていると言われる、森の最奥だ。
祀っているのに封印してあるというのは変だが、とにかくルカはそういう場所だと聞かされてきた。
1度だけ入口まで行ったことのある「遺跡」へのルートを、記憶を頼りに走り続ける。
だが、途中でクモの襲撃にあう。

「もう! こんな時に!」

ルカは次々とクモを射殺いころしながら走る。
そして、ついに遺跡の入口へと到着した。
巨大な扉に護符をかざす。扉は轟音を立てて両開きに開いた。
そのまま奥に進むと、クモの巣がそこら中に張られていた。
森の本当の姿とはかけ離れたその様相に、ルカは唇を噛み締める。

「一体、誰がこんな事を……!」

最奥に辿り着くと、祭壇らしき場所が見えた。
どうやら、ここで儀式をしたりお供え物をしたりするらしい。
祭壇を見上げていると、後ろで何かが着地する音が聞こえた。
またクモか、と振り返る。しかし、そこにいたのはクモ男・・・だった。
普通の人間の目の周りに無数にある複眼、6本の手と2本の足。

「おうおう、ようやく巫女のお出ましだなァ?」

クモ男は舌なめずりをしながら言う。

「クカカカカ……予想どォり弱そうな女のガキだ、仕事が楽でいいぜェ」

そして全ての目をルカに向ける。

「魔王様の指令でねェ。ここの巫女をひっ捕らえるように言われたんだが、やっと出てきたなァ?」
「このままだったら、このエルフ共を全員串刺しにして見せしめにしなきゃならなかった所だァ」

そう言って指を鳴らすと、頭上から無数の糸玉が降りてくる。

「み、みんな……!」

そこには、昔からの顔見知りや友達など、16年の間生活の全てだった人々が捕まっていた。

「さァて、じャあやりますか。大人しく捕まれば、コイツらの命は助けてやるよォ? クカカカカカカ!」

不気味なクモ男はそう言って笑う。
ルカは、戦うべきなのか、皆を確実に助けられるなら捕まるべきなのか、揺れていた。

コメント

  • Kまる

    ルカ!がんばれぇぇぇ!

    1
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