万物《オムニア》を統べる者 -禁忌の双極-

幼馴染と同棲して早7年。イチャイチャしている中に乱入してきたのは、どうやら我が従妹のようです。

「……ただいまー。あー、さむ」


「まー。……ねね、あっくん」


玄関に入り靴紐を解くやいやな、裾をクイクイっと引っ張られる。それに視線を上げれば、見えてくるのは雪肌の華奢な腕。更にはフリルをあしらった服の袖に、淡藤色の髪。
 そんな彼女に対して、俺は靴紐を解きながら返す。


「何?」


「ゴハンは?」


……はぁ。と俺は深い溜息を吐き、立ち上がりながら鈴莉すずりを見下ろした。

淡藤色の髪は祖母譲りらしく、廊下まで届きそうなくらいに長い。俺の身長よりもかなり小さい彼女は、JC-いや、JSにも見間違われそうなほどに華奢な体型だ。その身体にはヒラヒラのフリルをあしらった服を纏っている。その姿はまるで、魂を与えられた西洋人形のよう。

高校生ながら幼気な顔付きも相まって余計に幼く見られがちだったが、彼女にはその年とは思えないほどだと人々に示すモノがあった。


-それ即ち、胸。


ただの胸ではない。そこら辺の人間とは比べ物にならないほどの、超弩級戦艦並のお胸様だ。鈴莉以外はゴムボートに過ぎない。

……閑話休題。今は鈴莉の問い掛けに答えるとしよう。


「うん。……俺たちは今まで何処に行ってたっけ?」


そう。今日、2月16日は、


「私の誕生日の為にホールケーキを買ってきてました!不二家で!」


ケーキが入っている袋を掲げる鈴莉は元気が宜しいようで何より。だが-


「そうだね。不二家でケーキ買ったよね。じゃあ何で夕飯が用意してあると思った?」


「えと……メイドさんとか?」


「居たらいいよね、メイドさん。あいにく、鷹宮家にはメイドさんは居ないんだ。残念だったね」


「ちょ、ちょっと!そんな哀れむような目で見ないで!もしかしたら来るかもしれないじゃん、メイドさんっ!」


玄関前でギャーギャーと叫ぶ鈴莉を横目に、俺はリビングまで移動する。置いていかれるのが嫌なのか彼女も直ぐに後について来た。


「むぅ......えいっ♪」


「わっ!?」


不満そうな声の後に聞こえてきた可愛らしい掛け声と共に、突如俺の背中にはおぶさるような感覚と首元に腕を回す感覚が伝わってくる。前につんのめりそうになりながらも何とか踏みとどまると、未だ変わらずのしかかっている鈴莉に視線を向けた。

だが、鈴莉はニコニコ顔のまま何も言わない。……何だよ、用事があるなら早く言ってくれ。さっきから2つのお胸様が俺の背中に密着してるんですけど。そろそろ限界なんですけど。何、誘ってるの?それは夜中にしてくれるかね。


「……ほら、夕飯作るから待ってな。今日は特製ディナーだぞ?」


割りと本気で耐え切れなくなった俺は『切り札』を出し、鈴莉へと突き付けた。純情な彼女はそれに直ぐに掛かってくれる。


「いぇーい!待ってる待ってるー!!」


「よし、いい子。パジャマに着替えて待ってて。その間に作っとくから。ケーキは冷蔵庫に入れときな」


お胸様地獄(?)から解放された俺は鈴莉の頭を軽く撫でつつ、着替えて待ってるように促す。鈴莉もそれに素直に応じ、ケーキを冷蔵庫に仕舞ってから2階の自室まで移動していった。
 何か、甘いなぁ……。俺。まぁ、今日ばかりは仕方ないかなぁ。




「まだぁー?」


「あと1食。ってか、待ってるって言ったのは誰だよ......」


冬といえばコレ!的なふんわりモコモコのしろくま着ぐるみパジャマに着替えた鈴莉は、リビングのイスに座りながら、まだかなー、まだかなー、と気持ちを全面的に出して呟いてる。隠す気は更々無いらしい。
 そんな鈴莉を横目に、俺はオーブンからタレを幾重にも塗ったチキンを取り出した。
 キッチンの空きスペースに所狭しと並んでいるのは、全て鈴莉の為のご馳走。普段は手が掛かって作らないモノも、今日ばかりは、だ。それに―


「あっくん、顔が緩んでるよ?」


「......ん」


鈴莉に言われて気付いたが―ヤバイヤバイ。顔に出てたか。
 ほら、異性に頼られたり必要とされるのは男として嬉しいモノじゃん?必然的にニヤけちゃうのも仕方ないだろう。


「ほら、出来たよ。運んでー」


「はーい!」


先程出来たチキンと予め作っておいたシーザーサラダを両手に、俺はリビングへと行きながら鈴莉に運ぶように言う。それを聞いた鈴莉は何時にもなく俊敏な動きでぱっぱと全ての皿をテーブルに運び終えた。
そして互いに向かい合うようにイスに座り、何時もなら『いただきます』 の挨拶をするところなのだが、今日だけは違う。


「鈴莉」


「うんゅ?」


このシチュで俺に名前を呼ばれるとは思っていなかったのか、鈴莉は声にならない声を上げて俺の瞳めを見つめる。俺もそれに見つめ返し、告げるは端的に。


「......17歳の誕生日おめでとう、鈴莉」


「......うんっ、ありがとっ!」


食卓を見回せば、芳醇な香りを湯気と共に立てているチキンや、シーザーサラダ。更にはグラタンやたらこパスタと、みんな手の掛かる料理ばかりだ。そこに共通しているのは、全て鈴莉の大好物だという事。
 そんな大盤振る舞いの食卓を見て、鈴莉は1つ、疑問の声を上げた。


「......ん?これ、全部あの短時間で作ったの?」


「いんや。殆どが仕込みを終えてたし、後は火を通したりドレッシングをかけたりすれば良いだけだったから。調理にはそんなに時間を掛けてない」


「ほぇー......」


鈴莉はそう呟くと、1分ほど黙って俯き始めた。何かを考えている様子だが―何を考えているのだろうか。何時になく頬は赤くなっているようだし、常日頃から見ている俺の目からしても不自然だ。


「どうした、鈴莉。頭でも痛いのか?」


「あの、あのさぁ―私からも言いたいことがあるんだけどっ!」


「うん、何だ?」


俺の心配を他所に、鈴莉は押し切るように、意を決したように声を上げた。
 だがその顔からは真剣さというモノがさほど感じられない。生まれつきおっとりとした顔付き、というのが理由―なら良いが。


「私たち、同棲してから今日で7年でしょ?」


「......そうだな」


だがそこは俺も意向を汲み、佇まいを直す。


「学校の皆には付き合ってる、とかカップルだ、とか言われたりしたよね?」


「......うん」


何だこれ。雲行きが怪しい―というか、先が読めてきたぞ。


「だったらそれ―本・当・に・し・ち・ゃ・わ・な・い・?・」


「......つまるところ?」


「あっくん......私と付き合って下さいっ!」



~to be continued.


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