戦闘力という点において極めて無能の盗賊(シーフ)のオレの追放からはじまる超快適ハーレムスローライフ~それ以外はDon't 恋~

芽中要

第一話「一団(パーティー)追放 餞別付き」

「お前さあ、この一団パーティー抜けてくんね?」
 男所帯の一団パーティーに所属している盗賊シーフのオレは仲間からそんな言葉を浴びせられた。
 これはオレにとって寝顔に冷水をぶっかけられたような衝撃だった。
 職種クラス盗賊シーフなだけで、盗みを働いているわけじゃない。モンスター以外からは。
 確かに戦闘力という点においてはほとんど、いや、まったく役に立てていなかったかもしれない。
 しかし、それ以外のことなら多少なりとも役に立てていた自負はある。
 主に料理とか洗濯とか裁縫とか。
 ……どこの家政婦さんだ、オレは。
 そんな脳内一人ツッコミをするオレに他の団員メンバーが口を開く。
「そうそう。何も一団パーティーに貢献できてないくせに、しっかり同じ取り分だけ持ってくなんておかしいだろ」
 同じ取り分。
 そう言われたけれど、そんな事実はない。
 罠の解除や宝箱の開封なんかはともかく、戦力としては役に立てていないことは重々承知していたので、オレの方から取り分を四分の一に減らすことを申し出ていたからだ。
 四人の内一人だけは「そんなことする必要はない」と言ってくれたけれど、戦力としては役に立てない申し訳なさからそれが筋だと思ったからだ。
「同じ取り分なんて受け取ってないぞ。四分の一だ。それでみんな納得したじゃないか」
「そうだっけ? だとしても、お前の働きで四分の一も持ってこうってのがおこがましいって言ってんだよ。わからないのか?」
「まったくだ。お前なんかこの一団パーティーの寄生虫にすぎないんだからな」
 寄生虫。
 駆け出しの時から歩んできた一団パーティー団員メンバーにそこまで言われなきゃいけないくらい、オレはお荷物なのだろうか。
 オレに味方はいないのか。
 そう思い、一団パーティーで唯一の良心を見る。
「ごめん。ボクは君に辞めてほしくないんだけど、多数決ってことでどうしようもないんだ」
 心底申し訳なさそうな顔をして彼は言った。
 彼は裏表があるような性格ではない。
 その思いに嘘はないのだろう。
 階位ランクが上がるにつれて段々と他の連中がオレを疎ましがる中、彼だけはそうなるどころか、逆により親密にオレに接してくれていた。
 そんな彼が再び口を開く。
「ボクは何もしてあげられない。だから、せめてこれを持っていってよ」
 そう言ってぎっしりと中身の詰まった革袋を渡してくる。
「こんなに?」
 重さからいって、オレが三ヶ月はゆうに暮らせる金額が入っていることは容易く想像できた。
 オレがしばらくは生活に困らずに済むための退職金のつもりなのだろう。
「あと、これ」
 そう言って巻物スクロールを十束追加で渡してくれる。
 これには魔法の効果が封じ込められており、使い捨てではあるものの誰でも魔法を使うことができる。
 彼が吹き込んでくれたのだろう。
「使い方は説明するまでもないよね? あぶないと思った時は上手くこれを使ってよ」
「ああ」
「もし持て余すようなら売ってお金に換えても構わないし。有意義に使ってくれるとうれしいかな」
 そう言ってにっこりと微笑む。
「そんなクズにくれてやったところで使いこなせねえだろ。やるだけムダだぜ」
「彼が絶妙なタイミングで巻物スクロールを使ってくれたからピンチを切り抜けられたのが一度や二度じゃないことは覚えてないの? もし彼が魔法を使えたら僕なんかよりよっぽどいい魔法使いになってるよ」
 心底呆れた顔をして彼は言った。
 彼だけは正当どころか過大評価なくらい、オレを評価してくれている。
 前々からそんな節はあった。
 更に。
「キミは魔法が使えないからね。回復薬くらいはいいものを持ってなよ」
 そう言って高価な上位秘薬ハイポーションを四つも渡してくれる。
「おい、そんなクズに不相応な餞別をくれてやることはないだろ。もったいない」
 オレたちのやり取りを見ていた一団パーティーの一人が口を開いた。
「これは一団パーティーの共有財産じゃなくてボクの持ち物だからね。何を上げようとどうこう言われる筋はないよ」
 温厚な彼にしては珍しく、尖った言い方でそう返した。
「そんなクズに目をかけてやったところで何も返ってこないぞ?」
「見返りなんて要らないよ。これはボクの自己満足でしているだけだからね」
 何言ってるの?
 目で他の三人を非難しつつ彼は続ける。
「それに、ボクたちが一方的に彼を一団パーティーから外すんだから、これでも足りないくらいだよ」
「ありがとう。助かる」
 オレは心の底から感謝してそうお礼を言った。
「じゃあ元気で。もし困ったことがあったらいつでも言ってよ。ボクにできることなら何でも力になるからさ」
 オレは泣きそうになった。
 彼がいいヤツすぎて。
 他の連中はどうでもいいが、彼とだけは別れ難かった。
「そんなこと言うんじゃねえよ、またクズがすり寄ってくるだろうが」
「キミたちとは関わらせないから別に構わないだろう? ボクの交友関係にまで口出ししないでよ」
 彼が他人に対してここまで強い当たりを見せるのは初めてだ。
 よっぽど今回の件が腹に据えかねているのだろう。
 こうして一団パーティーの良心による救済措置はあったものの、オレの一団パーティー追放は終わった。

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