奇跡
4 戦いの終演
無双陣形『バルドル』。それはリーダーであるリーバルトが編み出した広範囲殲滅作戦時の陣形。機動力に優れたリーバルト、サクヤ、カグヤを囲むようにしてナリアとリングが攻撃することにより単体にも全体にも大きなダメージを与えられる。欠点も一つしかなく、『ビギニング』が行う最大規模のスタイルだ。
「リーダー、いける」
「私も大丈夫」
囲むように位置移動したリングとナリアから通達が入る。
「カグヤ、サクヤ、そっちは?」
「俺はいつでもオーケーだ」
「さっきの反動が少しあるけど…まぁ大丈夫」
サクヤもカグヤも準備は出来たようだ。最もカグヤは調子が優れないらしいが。
ある兵士は『ビギニング』の包囲網から逃げ出せずにいた。彼の奇跡は短時間の高速移動だった。そのため伝達班の隊長が、今回は特例で戦闘に参加した。のだが。
「クソッ!なんだあいつら!?」
『ビギニング』の作戦である無双陣形『バルドル』は想像を遥かに越える恐ろしさだった。身体に触れられるだけで殺される女や分身して単騎で広範囲を殲滅する男、そして奇跡を一切使わない奇跡使いが、暴れていて少し気を抜けば隣で味方が死んでいる。そんな状況をさらに援護するかのように遠くから水で出来た槍や爆発する植物の種が飛んでくる。
「クソッ…クソッ!こんなのに勝てるわけないだろ!」
少し目を離しただけで味方がどんどん死んでいく。
「こうなったら…」
兵士はある算段をたてていた。一瞬の隙をついて一気に駆け抜ける。そして皇国に入り皇帝に報告する。そうすれば死も免れるし少しなら報酬も貰える。伝達班で鍛えた視力と状況判断力をフル活用し、隙を見つける。
「…そこだぁ!」
見えた。種が爆発して味方が吹き飛んだ一瞬の隙、たかが数秒だが彼の奇跡からすれば何十秒の隙だ。
「高速移動ッ!」
短時間の間高速移動する奇跡を発動し一気に駆け抜けようとしたその時だった。
「悪いけど逃がさない。無」
今まで奇跡を使わなかった敵が自分の身体に触れて奇跡を使ってきた。その瞬間、力が急に抜けた。
「奇跡を強制的に解除するタイプの奇跡か?」
この時彼はそう心の中で考えた。しかし、『ビギニング』の中に奇跡を半永久的に無にする奇跡を使いがいることは知らなかった。
「ならもう一度…高速移動!」
再び奇跡を使うが発動しない。そこへ水の槍が降り注ぎ、その兵士はなぜ奇跡が使えなかったのかという疑問を持ちながら死んでいった。
「もう殲滅したんじゃない?」
カグヤが最後の一人を奇跡で殺すとそう言った。確かに立っているのは『ビギニング』のメンバーだけだ。他は全員死んでいる。
「ああ。相変わらず『バルドル』は有効だな」
「ちょっと、やり過ぎた」
「同意見」
攻撃をやめたリングとナリアが走って向かってきた。サクヤも気づけば隣にいる。
「で、こいつらどうするリーダー?」
「放置してもいいが…使えるものをもらってあの集落の人達に渡すか」
「異議なし」
「何でもいいから休みたい。緑使いすぎたから在庫がもうないし」
「じゃあ一旦戻ろうか」
必要な物を死んでいる兵士から剥ぎ取ってサクヤの分身に渡す。これだけの鉄があれば少しは集落も強化されるだろう。
「…ということです」
「それは…なんという」
集落へ戻った『ビギニング』はそれぞれ別行動を始めた。サクヤとリングは集落の子供達の遊び相手、ナリアは新しい植物の配合をしに集落に用意された簡易拠点へ、リーバルトとカグヤは戦場で起きたことを長に話していた。もちろん鉄も寄付した。
「何から何まで本当にありがとうございます」
「いえ、そんなに深々と頭を下げないでください。これが仕事なので」
「ところで、一つお願いがあるのですが…」
「何でしょう?出来ることなら最大限お手伝いします」
「どうかこの集落に残って我々を守っていただきたい」
長の頼みにリーバルトとカグヤは難しい顔をしてお互いを見合った。そして何かを決めたように頷き会うと長に言った。
「残念ですが、それは出来ません」
「なぜでしょうか?」
「…『ビギニング』は近いうちに皇国に宣戦布告する予定です。もしここに残って活動すれば真っ先にここが狙われてしまいます。だからここには残れません」
「皇国に宣戦布告!?」
「はい。皇帝の首を落とさないとこの現状は変わりませんから」
「…」
長は絶句している。それはそうだ。自分達トップにして自分達を支配している張本人の首を落とすと言ったのだから。しかし、長は腹をくくった。『ビギニング』は自分達への被害をなくそうと頑張っている。ならここへ引き留めるわけにはいかない。
「わかりました。無理な相談をしてすいません」
「おきなさらず。では夜もふけたのでこの辺で」
そう言うと長の家を出ていった。そして、それから長は『ビギニング』に会うことはない。
「リーダー、いける」
「私も大丈夫」
囲むように位置移動したリングとナリアから通達が入る。
「カグヤ、サクヤ、そっちは?」
「俺はいつでもオーケーだ」
「さっきの反動が少しあるけど…まぁ大丈夫」
サクヤもカグヤも準備は出来たようだ。最もカグヤは調子が優れないらしいが。
ある兵士は『ビギニング』の包囲網から逃げ出せずにいた。彼の奇跡は短時間の高速移動だった。そのため伝達班の隊長が、今回は特例で戦闘に参加した。のだが。
「クソッ!なんだあいつら!?」
『ビギニング』の作戦である無双陣形『バルドル』は想像を遥かに越える恐ろしさだった。身体に触れられるだけで殺される女や分身して単騎で広範囲を殲滅する男、そして奇跡を一切使わない奇跡使いが、暴れていて少し気を抜けば隣で味方が死んでいる。そんな状況をさらに援護するかのように遠くから水で出来た槍や爆発する植物の種が飛んでくる。
「クソッ…クソッ!こんなのに勝てるわけないだろ!」
少し目を離しただけで味方がどんどん死んでいく。
「こうなったら…」
兵士はある算段をたてていた。一瞬の隙をついて一気に駆け抜ける。そして皇国に入り皇帝に報告する。そうすれば死も免れるし少しなら報酬も貰える。伝達班で鍛えた視力と状況判断力をフル活用し、隙を見つける。
「…そこだぁ!」
見えた。種が爆発して味方が吹き飛んだ一瞬の隙、たかが数秒だが彼の奇跡からすれば何十秒の隙だ。
「高速移動ッ!」
短時間の間高速移動する奇跡を発動し一気に駆け抜けようとしたその時だった。
「悪いけど逃がさない。無」
今まで奇跡を使わなかった敵が自分の身体に触れて奇跡を使ってきた。その瞬間、力が急に抜けた。
「奇跡を強制的に解除するタイプの奇跡か?」
この時彼はそう心の中で考えた。しかし、『ビギニング』の中に奇跡を半永久的に無にする奇跡を使いがいることは知らなかった。
「ならもう一度…高速移動!」
再び奇跡を使うが発動しない。そこへ水の槍が降り注ぎ、その兵士はなぜ奇跡が使えなかったのかという疑問を持ちながら死んでいった。
「もう殲滅したんじゃない?」
カグヤが最後の一人を奇跡で殺すとそう言った。確かに立っているのは『ビギニング』のメンバーだけだ。他は全員死んでいる。
「ああ。相変わらず『バルドル』は有効だな」
「ちょっと、やり過ぎた」
「同意見」
攻撃をやめたリングとナリアが走って向かってきた。サクヤも気づけば隣にいる。
「で、こいつらどうするリーダー?」
「放置してもいいが…使えるものをもらってあの集落の人達に渡すか」
「異議なし」
「何でもいいから休みたい。緑使いすぎたから在庫がもうないし」
「じゃあ一旦戻ろうか」
必要な物を死んでいる兵士から剥ぎ取ってサクヤの分身に渡す。これだけの鉄があれば少しは集落も強化されるだろう。
「…ということです」
「それは…なんという」
集落へ戻った『ビギニング』はそれぞれ別行動を始めた。サクヤとリングは集落の子供達の遊び相手、ナリアは新しい植物の配合をしに集落に用意された簡易拠点へ、リーバルトとカグヤは戦場で起きたことを長に話していた。もちろん鉄も寄付した。
「何から何まで本当にありがとうございます」
「いえ、そんなに深々と頭を下げないでください。これが仕事なので」
「ところで、一つお願いがあるのですが…」
「何でしょう?出来ることなら最大限お手伝いします」
「どうかこの集落に残って我々を守っていただきたい」
長の頼みにリーバルトとカグヤは難しい顔をしてお互いを見合った。そして何かを決めたように頷き会うと長に言った。
「残念ですが、それは出来ません」
「なぜでしょうか?」
「…『ビギニング』は近いうちに皇国に宣戦布告する予定です。もしここに残って活動すれば真っ先にここが狙われてしまいます。だからここには残れません」
「皇国に宣戦布告!?」
「はい。皇帝の首を落とさないとこの現状は変わりませんから」
「…」
長は絶句している。それはそうだ。自分達トップにして自分達を支配している張本人の首を落とすと言ったのだから。しかし、長は腹をくくった。『ビギニング』は自分達への被害をなくそうと頑張っている。ならここへ引き留めるわけにはいかない。
「わかりました。無理な相談をしてすいません」
「おきなさらず。では夜もふけたのでこの辺で」
そう言うと長の家を出ていった。そして、それから長は『ビギニング』に会うことはない。
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