思い出に殺される夜

月曜日、朝から気温は30度近くあった。
梅雨明けはしてないけれど、太陽はじりじりと眩しい。

夜中にザッと降った雨の水たまりが、陽に反射して揺れてる。

僕は背は高いほうなのに、猫背だからかっこわるいらしい。

朝は強いほうで、早朝の海釣りが好きなだけあり、会社にも誰よりもはやく着く。

同僚の1つ年下の桐谷が、気怠そうに事務所に入ってきた。
「おはよー…ざいます。」ドサっと鞄を机に置いて、僕のほうをみる。
「新人さん、楽しみですね。」とにやりと笑った。

その後もぞろぞろと社員が揃いはじめ、それぞれデスクのパソコンに向かい、書類の整理や、スケジュールの確認をしだす。

9時を過ぎた頃、別室で打ち合わせをしていた、社長と専務、有野さんと新しい女の人が事務所に入ってきた。

事務所内の視線がそこへ集まる。
桐谷はにやにやと頷いている。

「産休の有野さんの代わりに、今日から入社してくだった夏井さんだ。」

「はじめまして。夏井よると申します。

「よる」はひらがななんです。

はやく仕事に慣れるよう、頑張りますのでよろしくお願いいたします。」

と夏井さんはにこっと笑った。

少しつり目の端正な顔立ちで、少しパーマのかかった長い髪を後ろに結んでいる。

後れ毛が妙に色っぽく感じる。

なのに何故だろう。

夏井さんをみていると、もう二度とこの人には会えないような気がする。

その不思議な感覚のまま、その日は外回りのスケジュールが立て込んでおり、夏井さんとはひとことも会話をすることなく1日が終わった。

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