思い出に殺される夜

その週末、土曜日の朝に海釣りをして、そのあとはたいして家からも出ずにだらだらと過ごした。

家は実家で、母親と父親、母方の祖母、県外の大学に妹がいる。

僕は、ばあちゃん子で、ばあちゃんに釣った魚を渡して、ばあちゃんがその魚を料理してくれる。

ばあちゃんは家の裏にある庭で畑いじりが趣味で、僕は子供の頃から、手伝いはしないくせに、それを眺めているのが好きだった。

「ゆうちゃん、仕事はどう?」

「んー、普通だよ。」

「好きな人はできた?」

「いないよ。」

25才にもなる僕を、子供扱いする。

有野さんが、「綺麗な人」だなんていうから、少しだけ月曜日を楽しみにしている自分がいた。

そんな綺麗な人に、相手にされるわけもないんだけれど。

ばあちゃんが言った。

「夏のにおいがする。夏のにおいがすると、じいちゃん思い出す。」

ばあちゃんの汚れた手袋は、もう何年も同じものを使っている。

じいちゃんは、6年前に心不全で亡くなった。つい前日まで、近くのホームセンターに車を運転して出かけるくらい元気だった。

本当に突然のことで、家族みんなが動揺した。

僕は大学にいて、父親からそのことで電話がきた時、びっくりして言葉もでなかったのと、何より心配だったのは、ばあちゃんだった。

そんな家族の心配をよそに、ばあちゃんは通夜でも葬儀でも泣くことはなかったし、気丈に振る舞っていた。笑顔をみせることすらあった。

けれど6年経つ今でも、じいちゃんの仏壇の前で、毎朝じいちゃんに話しかけている。

「今日は、夏のにおいがしますよ。」

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