RUKOISM

ヴォ

ヒューガリテ

「ここは・・・?」

目を覚ますとそこは木々が生い茂る森だった。
どうしてこんな所に?
私は確か、ビルから飛び下りて死んだのではなかったか。
自分の手に目をやると、ズタズタに引き裂かれている。
車椅子で階段を登れない。だから車椅子を放棄して、手だけで階段を登った、その傷だ。

つまり、これは現実。

「・・・私」

何が起きているかわからない。
ただ、1つだけ、確信があった。
私は逃れ得たのだ。あの薄暗く湿った、悪臭渦巻く地獄から、見事逃げることに成功したのだ。

「やっと目を覚ましたか」

「誰っ・・・?」

木々の向こうから声がした。目をやるとそこには金髪の女性が立っていた。
ただ、その出立ちは明らかにおかしかった。
黄金の髪の毛、濡れたように美しい碧眼、煌びやかなドレス、まるで昔、私が夢想したおとぎ話の登場人物のようだ。

「くっく、良い良い。そう構えるな」

可笑しそうに金髪の彼女は笑う。

「ここはどこ・・・?私は一体・・・?」

「お前にはわからんことばかりだろうが、私はお前のことを遥か昔から知っておるぞ」

「遥か・・・昔・・・?」

「あぁ、そうだ」

彼女は指を小さく動かした。でたらめに動かしているようにもみえ、なにか規則性を持っているようにも見えた。

彼女の指から淡い光が現れる。それは少しずつ色づき、ぼやけていた輪郭が鮮明になって。
そこに映し出されていたのは、幼い頃の私だった。

「これ・・・!?」

「ルコ、幼い時、お前は幻想の世界に思いを馳せたな?」

「何これ・・・?」

魔法・・・?いや、そんなこと・・・。

「ありえない?またそれはおかしなことを言う、これはお前が作ったんだろう?」

「私が?」

「幼い頃、助けが欲しかったのだろう?誰でも良いから、寄り添える存在が欲しかったのだろう?」

彼女は、また面白そうに、悪戯っぽく笑った。

「直ぐにでも言ってやりたかったさ、だが、お前が作り上げた私は、魔法を持っていた。・・・お前の世界に魔法は存在しない。だから私も存在できなかった」

次は悲しそうな顔をする。表情がコロコロ変わる人だ。

「だが、声はいつだって聞いていたさ。お前の悲痛な叫びを。触れてやりたかった。だが、皮肉なことに、誰よりお前のそばに居た私は、誰よりお前から遠かった」

胸が熱くなる。ドロドロに溶けた熱い何かが、私の心を巡る。
私の止まっていた時間が、ゆっくりと動き出した、そんな気がした。

「私の名前を覚えているか?」

「幼き頃、何度も私の名前を呼んだだろう?よもや、忘れたわけではあるまい?」

忘れるわけがない。
私が作った、私だけの、私の味方。

「私の名前を呼べ、もう1人にはさせない」

「ヒューガリテ・・・っ!!」

ボロボロと涙が溢れてくる。
私は思わず彼女に抱きついていた。彼女は暖かく、優しく私を包み込んでくれた。

「あぁ」

ぎゅっと、強く彼女は抱きしめてくれる。暴力の象徴でしかなかった掌が、私の頭を撫でる。

「ヒューガリテ・・・ヒューガリテ・・・!!ヒューガリテ!!!」

「あぁ、あぁ。居るぞ。私はここに居る」

生まれて16年、死んで16分。私はとうとう1人じゃなくなった。

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