世界を救う番長冒険録

キャスティ

第二章 理解出来たが、理解したくない!

アルトリウムーーそれは魔法とモンスターが存在する世界。どこかの世界の様に超高層ビルや、マンション。大きな道すらも埋め尽くす車。濁流の様に歩き出す人間。そんな風景はここには無かった。あるのは大自然。村。そしてーーー
『あっさだよー!!!起きろー!れーーん!!!』
朝から妙にハイテンションの少女ーーセレナはエプロンをして片手にフライパン、片手にフライ返しを持って叫んでいた。
『蓮ってばーー!!起きないと頭から魚の腸を絞った汁をかけちゃうぞーーー?!!』
そう言いながら太陽の様な明るさの笑顔を絶やさず浮かべていた。
『起きてるよ・・・朝からうっせーな・・・』
絞った汁をかけられたくないのか(誰もかけられたくない)のそのそと遅い動きで
2階から降りてくる男ーー朝霧蓮は若干の不機嫌な顔でセレナを睨みつけた。
『朝はえーよ・・・しかもうるせーし・・・お袋かなんかかよ・・・』
『やだ♪︎奥さんだなんて♪︎まだ付き合ってもいないのに♪︎でもそう言われたいのもあるから嬉しいな♪︎』
『・・・(ダメだこいつ・・・)』
2人がいるのは昨日の事件があった場所から数キロ先にある小さな村の一軒家。誰も住んでないので1泊だけ村長に頼んで借りたのだ。そこで情報交換(主にセレナの情報を得るため)の時間を得るためだった。ーーー結果は、
『はぁ・・・だる・・・』
『そんなこと言わないの!ご飯食べたら私の友達ーーリンに会いに行くから!そしたら帰れるかどうかも聞くし!』
そうなのだ。昨日の話し合いの結果、朝霧は異世界に来た。それも唐突に。その原因に1番可能性があるのがセレナが言うリンなる友達だそうだ。彼女(?)は召喚術に長けていて異世界の強い力を持つ人間を召喚していたらしい。理由はモンスターに対抗する為だ。だが、本来なら召喚された場合、召喚陣の中で目覚めるのがセオリーらしいが朝霧の場合平野のド真ん中だった。何かあったのか理由を聞くのも合わせて一度会った方がいいとの結果になったのが昨日だった。
(まぁ・・・帰れるなら帰りたいが帰っても結局な・・・)
そう考えながら洗顔を終えると、異変に気づいた。そう。臭いのだ。何の匂いかと聞かれれば百人居たら百人が同じ答えを言うだろう。焦げ臭いのだ。
『な、なにしてやがるっ!?』
『~♪︎あ、やっと来た♪︎ご飯出来てるよ♪︎ちょーーーーっと焦げたけど美味しいから♪︎さ、食べよ♪︎』
出された物を見て朝霧は目眩を起こした。ちょっと?では無い。完璧だった。完璧に真っ黒だった。
『チナミニコレハナンダ?』
『え?スクランブルエッグだよ?』
臆面もなく素直に笑顔で答える目の前の不思議っ子。恐らく彼女の中ではちょっとらしい。
『・・・材料はまだあるか?』
『え?だからもう作ったってば』
『こんなダークマター食えるの悪の親玉だけだ!』
そういうとおもむろに食在庫を見る朝霧。後ろでは文句を言っているセレナが居るがまるで耳には入ってこない。
(なんだ・・・異世界とか言うけど食材は日本と大して変わらないじゃないか)
そう考えると朝霧は手早く料理を始めた。最初は文句を言っていたセレナだったが朝霧の手際の良さに文句を言うのを忘れて料理の流れを見つめていた。
ー。
ーー。
ーーー。
ーーーー。
『出来たぞ』
『うわ!蓮凄い!こんな綺麗なオムレツ見た時ないよ!』
テーブルに並べられたのはレタスとトマトのサラダ、オムレツ、ハッシュドポテト、カリカリのベーコン、バターがとろけるトーストが並んだ。ちなみにダークマターはゴミ箱の中である。
『お前普段からあんなん食ってんのか?』
そう言いながらゴミ箱を指さした。
『ん?普段は寮だから食堂で食べてるよ?』
(どうりで破壊的な訳だ・・・)
『逆になんで蓮はこんなご馳走作れるの?ビックリしたよ!』
『・・・別に。普通だ』
2人は少し遅くなった朝御飯を食べて出立の準備に入った。
『そういえば蓮は元の世界で何か訓練してたの?』
おもむろにセレナが訪ねてきた。
『なんでだ?』
『昨日の戦闘見てたけど、格闘に長けてる流れるような動きだったから』
『・・・別に。喧嘩に明け暮れてただけだ。毎日喧嘩しかしてないからな。身体に染み付いた動きなんだろうよ』
『そっかぁ♪︎じゃあ武器とかも使った時ないんだよね?』
『いや、使う時もあったな。前に10人ぐらいに絡まれた時木刀やらナイフやら持ってきた奴がいてな。逆に奪って使ってやったな』
『ううん。そうじゃなくて・・・こういうのとか』
そう言いながら細剣を抜いて見せてきた。
こういうのは使った時ないでしょ?と言わんばかりの顔をして見てきた。
『・・・確かに。そんな物は俺の居た世界じゃ持ち歩くだけで犯罪者だ』
そもそもそんなもの持ってるやつはどっかの大金持ちか趣味がヤバいやつだけだと思った。朝霧自身、喧嘩は己の身体でこなしてきた。そのせいか武器を持つことに若干の抵抗はあった。
『別にいらねーよ。俺はコイツがいる』
そう言いながら自分の拳をセレナに突きつけた。絶対の自信がそこにはあった。
『確かに昨日の戦闘でもなにかに頼ろうとする素振りもなかったもんね』
『・・・元々独りで戦う事しかしてこなかったからな。誰にも頼る事はない』
『仲間や友達は?居たでしょ?』
『・・・いねーよ』
その場に何とも言えない雰囲気が流れた。沈黙が重苦しく、地雷を踏んでしまったとバツが悪い顔をしているセレナに呆れながら朝霧が催促した。
『そろそろ行かねーか?話すなら歩きながらでも出来んだろ?』
『・・・うん、ごめん』
『謝る必要ねーよ、バカ』
『バカじゃないもん!』
そう言いながら荷物を整理し出立の準備を再度始める2人だったーーーーー
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
『では!いざ学園都市イザベルへ!!』
『待て』
『んぁ?』
『そもそも場所まで聞いてないし、なんだその学園都市ってのは?』
今回の騒動の関係者の可能性のあるリンに会いに行くのは方針で話したが場所まで聞いていない。それにーー
『それにどうやっていくんだ?まさか歩いて行くつもりか?』
『そだよ?まぁ途中で業者さんが居たら護衛引き受けるから乗せてーって頼むつもりはしてたけどね♪︎』
『こっからどんくらい離れてんだ?』
『ここからだと南東に20キロぐらいかな?』
『1日で行けるわけねーだろ!!』
『行けるよ♪︎だって私半日でここまで来たもん♪︎』
それが早いのか遅いのか分からない朝霧は不安にしかならなかった。
『まぁいいや・・・案内頼むぞ、バカ』
『だからバカじゃないもん!!そんなこと言うなら蓮置いてくからね!』
そう言うとセレナは一人で先に歩き始めた。まるで怒った子供の様に大股で歩きながら肩を揺すっている。その姿を見て朝霧は自分が笑っている事に気がついた。
(俺・・・こんな風に笑えるんだな・・・)
そう思いながらも、今更だなと考えた朝霧は一人先に行くセレナに追いつき、その歩を進めるのであった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
『・・・俺は元の世界では独りで生きていた』
唐突に朝霧は先程セレナが謝った話題の説明をし始めた。理由はセレナが聞きたいが聞き辛いと言う顔をさっきから何十回も向けてきているからであった。
『親とも上手くいかなくてな・・・ダチなんか作る余裕も無かった・・・それが気取ってるって思われて、カンに触ったのか先輩から喧嘩売られて・・・倒したら噂が噂を呼んでな』
『それで独りで居る生き方を見つけたんだ・・・』
『あぁ・・・別に嫌だったわけじゃなかったさ。元々独りで居る方が楽だったし、何より喧嘩して勝った時はまた強くなったって思えたしな』
『でも生活とかは大変だったんじゃないの?』
『一人暮らしだし、夜はバイトしてたからな』
『バイト?ってなに?』
『あー・・・働いてたって意味だ』
『なるほど!じゃあご飯とか作るの上手いのも・・・?』
『あぁ・・・全部独りでやってたからな』
『そっかぁ・・・』
そういうとセレナは自分の歩く足先を見つめながら何かを考えていた。その表情から察することは出来なかったが決して朝霧を馬鹿にしてる表情ではなかった。大人達のゴミを見る様な目は一切なく、何か思いつめた様な感情を朝霧は捉えていた。
『・・・あたし・・・も、さ。違う世界からここに呼ばれたんだよね。』
『・・・』
『もう半年ぐらいなるかなぁ・・・リンに正式に召喚されてから。元々の世界と似た所が多かったからそこまでパニックにはならなかったけどね』
『似てる・・・?』
『ん。魔法もあるし、モンスターもいる。人が困っているのを見たら助けるし、ご飯が美味しいのも一緒!・・・それに元の世界では私も独りだったし・・・』
そう言うとタッと走り出し小さな岩の上に飛び乗りこちらに振り向いた。
『だからおんなじ!蓮も私も!異世界から呼ばれたの!これって仲間じゃない♪︎??そりゃ、魔法があったか無かったかは問題あるかもだけどこの世界に呼ばれたのは事実なんだし・・・』
(なるほど・・・それが言いたかったのか)
彼女は他にも理由を喋っているが蓮には届いていなかった。初めて仲間と言われたので戸惑っているのもひとつの原因ではあるが、戸惑いよりも心にあるのは疑問だった。
『なぁ、俺なんかと仲間になってそんな嬉しいのか?』
朝霧は素直な気持ちで質問をした。元々の世界では誰も朝霧と関わろうとしなかったからである。強いて言うなら喧嘩を売る時に関わるぐらいだ。それが似てるという理由だけで仲間意識を持つまでに昇華するものなのか。朝霧には理解が出来なかった。
『え?ダメ??』
『ダメではないが理由が分からん。そもそも似てるだけで他人だ。仲間ってのはお互い信頼してから始まる関係じゃないのか?』
セレナは朝霧の言葉に目をパチクリしながら数秒考えたが、すぐにいつもの笑顔になり答えた。
『私は信頼してるよ?蓮、優しいし何より戦闘においては素人かもしれないけど絶対強くなるし。・・・ゴニョゴニョ(まぁ顔もカッコイイし、背も高いし、理想にしたいタイプだよねぇ♪︎♪︎)』
最後の方は聞き取れなかったが、セレナは朝霧の事を信頼しているようだった。それは疑いようがなく、真っ直ぐに捉えた青空の様な目が言葉の信憑性をより高めていた。
(優しいとか初めて言われたぞ・・・なんだこれ、めっちゃ恥ずかしいんだが!)
朝霧はそっぽを向いて歩を進めた。気恥しい気持ちと素直な言葉に圧倒され、どうしたらいいか分からなかったのだ。
『ねー、ねー、蓮は信頼してくれる?昨日あったばかりでこんな事聞くのも変だけど』
セレナは上目遣いで朝霧の隣から聞いてきた。
(なんなんだこいつ!?狙ってるのか?!クラスの女でもこんな事してこなかったぞ!?)
朝霧はあまりの恥ずかしさにぶっきらぼうに答えた。
『・・・信頼してやるよ。えーっ、と・・・セレナ・・・』
そう答えるとセレナは飛び跳ねるように喜び、手を握ってきた。
『・・・っ!うんっ!これからいつまでか分からないけど宜しくねっ!!』
手をブンブンと振りながら感情を表すセレナについていけない朝霧だったが、不思議と居心地のよい気持ちになった。本人はその気持ちに気付いていないが。
(こいつの言いたい事は理解したが・・・理解出来ねーな・・・こいつの感情は・・・)
そう、心で諦めにも似た結論をもつ朝霧だった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く