世界を救う番長冒険録

キャスティ

第一章 やべぇ・・・脳ミソおかしくなったか?!

ーーーーー。
ーーーーーーー。
ーーーて!ーーーぇ!
ーーーーーって!ーーーーねぇ!
頭の中で誰かが叫んでいる。聞いたことのない声だが、どこか懐かしい様な暖かい様なそんな雰囲気を感じさせた。彼ーー朝霧蓮(あさぎりれん)は深い眠りの中にいた。
(うるせぇな・・・センコーか・・・?)
そう思ったが自分が起こされた時がない事に気付いてその思考を止めた。
(もう少し寝かせろよ・・・)
彼はいわゆるーーー不良だった。学校でも友人は作らず、他校の生徒と喧嘩する毎日。時には大人相手にも引けを取らない程の実力を持っていた。周りの同級生は近寄らず、大人達はゴミと言い、彼は世間から遠ざかった場所で独りで居た。それが当たり前だと、普通だと理解した上でーー。
(ん・・・?俺に話しかける奴なんか今まで居たか・・・?)
再び眠りに着こうとした思考が止まる。俺に話しかける存在など他校の不良しかいない。それか、何回か誘われたどっかのなんとかって組の下っ端のーー
(誰だっけ・・・?あんまりウザかったからシメたら静かにはなったけど・・・)
と、唐突に今までの記憶が爆発的に蘇ってきた。自分がなぜ寝ていたのか。なぜ記憶が飛んでいたのか。その原因を思い出した。
『ぬぅうぅぅうあぁぁぁぁ!!???』
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!???』
今までの人生でこれだけの声を出した事があっただろうかと疑問に思う程の声量で叫んだが、聞きなれない声に戸惑いを覚えて声のする方に振り向いた。
『・・・きゃあ?』
そこには間違いなくクラスの女子とは違う、全く違う女性が居た。強いて言うならばクラスのオタク達が盛り上がっていたなんかのアニメのキャラクターみたいな容姿をしているな。と思う程、現実離れしていた。髪は金髪ロングストレート。目は透き通った青空の様な色合いをし、何より目を引いたのはその服装である。チェック柄のシャツは見えてはいるがその上に着ていたのはーーー
(鎧・・・?でもテレビとかで見る重苦しいのじゃないな?)
そしてその腰にはまるで本物の様な細剣が携えてあった。
(おいおい・・・さっきまでコンビニの近く居たのに・・・どこだ?ここ?)
あまりにも場違い過ぎる風貌に呆れ果てていた朝霧だったが唐突に謎の少女がまるで太陽の様な明るさの笑顔を向けて話しかけてきた。
『良かったぁぁぁ♪︎全っ然起きないから死んでるのかと思ったよぉ・・・』
(は?死んでるのかと?・・・って!)
『お、おい!あんた!あの山なんだ?!』
朝霧が見たものはテレビでも見たことの無い壮大な山脈だった。
『え?ジルトリリア山脈だよ?知らないの?』
(知るわけねーよ・・・聞いた時もねー名前出してきやがって・・・)
頭が混乱してきたがここでパニックになっても仕方ないかと諦め、状況の整理を始めた朝霧。その隣で興味津々に覗き込んでくる謎の少女。あまりにも歪である。
(えーっと・・・?確か、コンビニの近く歩いてたら本が落ちてて見た事ないハードカバーの本だから拾おうとして持ったらいきなり光りだして・・・気がついたらここに寝てた・・・のか?)
最悪だった。なにも分からなかった。しかもその本は手元にない。全くの情報不足だった。
(マジかよ・・・なんもわかんねー・・・コイツに聞けばなんか分かるかもしれねーけど・・・)
そう思って隣の少女を見やったがその時少女は俺を通して奥を見据えていた。さっきまでの笑顔をどこかに無くしたように、鋭い眼光で。
『お、おい?どうしたんだ?』
『しっ!まずいなぁ・・・ウルフの群れだ・・・数は・・・4つ・・・何とかなるけどこの人庇いながらだとちょっとキツいかも・・・』
(庇う・・・?なんだってん・・・)
その瞬間、朝霧の背後から犬の様な遠吠えが聞こえた。振り返ると大型犬よりも大きな狼がこっちに向かって走り出してきた。
(うおっ?!でけぇ!?なんだありゃ?!)
即座に立ち上がり身構えたが見たことも無い生物に冷や汗を流した朝霧だったがーーー
『キミは逃げて!全力で!向こうの方角に行けば村があるからそこまで走って!』
そういうと謎の少女は細剣を抜くと狼の群れに走り出した。その体格から想像もできない脚力でみるみると狼との距離を縮めていく。
(す、すげぇ・・・女であんな早く走るヤツ見た時ねぇよ)
感心していた朝霧だったがすぐに状況を把握して言われた方角に走ろうと振り返ったが、その足は動かなかった。
(逃げる・・・?俺が?たかが少しでかいだけの犬っころ相手に?・・・ハッ。冗談じゃねぇ。俺は朝霧蓮。喧嘩不敗。喧嘩上等。例え相手が人だろうが犬だろうが俺の背中に・・・後退の二文字はねぇ!!)
そう考えた朝霧は少女が駆けた方向に向き直り、駆けた。そして驚愕した。
(なんだこれ?!身体が・・・軽すぎる?!足が、呼吸が、いや、全身が力に溢れてやがる?!)
朝霧は先程の少女よりも早い速度で駆けた。いや、正確には駆けたと言うより飛んだに近い表現だ。100メートルはあった距離をほんの瞬きの一瞬で詰めたからだ。
(ここがどこかまだわかんねーが・・・とりあえずあの女とゆっくり話す時間が必要だな。その為には・・・!)
そう考え駆けた瞬間に目の前に牙を涎で濡らし、餌を見つけ喜んでいるかの様な狼と目が合った。
(あいにく、テメェらなんかの餌になるつもりはねぇよ!!)
そう思い、いつもの通り先制攻撃としてただのパンチを鼻の頭に向かい繰り出した。ただのパンチである。だが次の瞬間、朝霧は目を疑う光景に遭遇した。
パンッーーーー
弾けるような音をしてその狼は頭部を無くしていた。正確には弾け飛んだ。残された身体が脳からの信号を無くした為数度痙攣を起こしその場に倒れた。
(・・・な、なんだ・・・こ、これ・・・?)
一番理解出来ない状況になりここに来てから何度目かのパニックになりかけたが、凛とした声に我に返った。
『なんで来たの!?ってかウルフ倒したの?!ってか強すぎないっ?!』
そう言いながら細剣で華麗に牙と爪を躱す少女が叫びながら近づいてきた。
『キミ、強いね!ウルフ相手に素手で勝っちゃうなんて!』
『ウ・・・ルフ・・・?』
『そ、そ!こいつらの事。ここら辺の旅人さんとか作物荒らすモンスター(魔物)。困ってんだけど中々しつこくて・・・』
『俺・・・殺した・・・のか・・・?』
『ん?そだよ?モンスター(魔物)だもん。倒さなきゃ殺されるよ?』
『・・・』
『どったの??』
『殺さなきゃ・・・ダメなのか・・・?』
謎の少女は驚愕した。この人は何を言っているのだろうと。モンスター(魔物)は倒さなければ我々が殺されてしまう。そんな当たり前の事は子供でも知っている。弱肉強食。そう。まさにその通りだ。弱いから殺される。ならば強くなる為に考えなければならない。そう教わり、強くなる為に訓練をしてきた謎の少女ーーーセレナはようやく気がついた。そう。彼の服装である。この世界にはない服を着ている。つまりーーー
(あの子ね・・・まぁた勝手に召喚して。後で怒られても庇ってあげないんだからね?)
そう考え、結果が見えた為、先程の答えの意味も理解出来た。
『いい?キミはさっき殺したのは事実。でもそれは間違ってない。人が人を殺すのはダメだけど、モンスター相手なら殺しても怒らないし、むしろ褒められる。・・・それに、大丈夫。ーーー私があとは守るから。』
そういうと先程までの華麗な動きから一転。激流の如く剣が振るわれ瞬く間にウルフの一匹が倒された。先程までの華麗に捌いていたのは朝霧が逃げる為の時間稼ぎだったのだ。
(・・・良かった・・・のか?モンスターとか言ってたが・・・ゲームかよ・・・なんなんだよこの世界・・・っ?!)
物思いに耽っていると視界が揺れた。ウルフに体当たりをくらい、地面に転がったのだ。馬乗りになり餌に食らいつこうとするウルフ。その瞬間、朝霧がーーーキレた。
『あぁぁ!!!うぜぇな!人がっ!考え事っ!してっときにっ!ワンワンうるせーんだよっ!!』
そう言いながら腹を蹴り上げ、起き上がりざまに横薙ぎにハイキック、落ちた所にかかと落とし、トドメに拳を突き立てた。
『ハァハァ・・・まだやんのかこの、犬っころ!!』
その気合の裂帛に押されたのか残ったウルフは距離を取り始めた。
(この人すごい・・・!気合だけでウルフに勝ってる・・・!)
セレナはこの様な人間を同じ勇抗者(エルダー)で見た時がなかった。気合だけでモンスターを押すなど、それこそ神域の存在とも思えてしまった。
(リン・・・アナタ凄い人呼んだかもしれないよ(笑))
そう考えていると、ウルフは逃げだした。後を追うつもりは無いが行けば住処が分かるかも?ぐらいには思ってしまったが、今はこの世界に来た新たな異世界人を案内しなくては。と、考えた行動をとった。
『キミ、もしかして違う世界から来たの?』
唐突に確信を付いたような質問に朝霧は目を白黒させた。
『は?!違う世界とか・・・ファンタジーにも程があるだろ?』
そう。そう言わないと最後のダムが壊れてしまう。直感で思った。ダメだ。認めたら笑うしかなくなる。だがーーーーー
『ん~。服。全然違う。山。知らなかった。』
『それは・・・』
『じゃあ質問を変えるね?あなたの生まれた世界と国はなんて言うの?』
『・・・地球で日本』
『じゃあ違うね♪︎ここはアルトリウム。で、ここら辺の地名はユユミ。どう?聞き覚え、ある(笑)??』
絶望するしかなかった。笑うしかなかった。呆れるしかなかった。見た時も聞いた時もない場所に世界。これが異世界でなくてなんなのか。朝霧は説明出来なかった。
『・・・なんでこんなとこ来たんだよ』
本音で聞いてしまった。わかるわけが無いのに聞いてしまいたくなった。理由があるなら教えて欲しかった。求める答えが無くとも。
『あ、多分私の友達が召喚したんだと思う(笑)』
『すぐにそこに案内しやがれ!!!!』
朝霧の絶叫は遠い山々ーージルトリリア山脈にコダマして帰ってきたのであった。

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