花弔風月

T木S夫

 
 慶人会病院から我が家まで歩きだと一時間ほど掛かる。普通なら電車やバスを利用するが、私とカノジョどちらもその言葉を口にせず、ただ、粛々と歩いていた。

 道中何か特別な会話は無かった。簡単な当たり障りの無い会話だけで終れるとは思わなかったからだ。

 家に着く前での一時間、私達は触れ合うほど近くに居て、決して重なる事は無く、互いの事を意識したまま無言であった。


「お邪魔します」

 ジュゲムに迎えられながら、私達は玄関を潜った。

 立花家が近付くにつれ、カノジョの顔は強張り、歩調もぎこちなく成っていく。

 その度に我々は立ち止まり、しばらく経ってからまた歩き出す。

 玄関を潜ったというのに私はまだ不安なままだった。

 カノジョは認めるだろうか?

 立花飛鳥の死を認めてくれるだろうか?

 大丈夫だろうと思っていても、大丈夫だと信じる事は出来なかったのだ。

「こっちです」

「分かったわ」

 一歩一歩、死刑台へと運ぶ様にカノジョを連れてリビングへ、立花飛鳥の仏壇が置かれた場所へと足を進めた。

 リビングまでのたった七歩ほどの距離があまりに長い。

 だが、ここまで家族が、妹が、親友がやってくれたのだ。

 今日この日私は全てを終わらせなければ成らない。

 ゆっくりと息を吐きながら私はリビングのドアを開け、カノジョを通した。

「――」

 カノジョが息を吸う音がした。

 カノジョの視線はこの部屋の一角に置かれた黒の仏壇に固定され、体は強張り、足が止まった。

「……」

 私はカノジョに何も言わなかった。

 今のカノジョには何もしてはならない。カノジョだけで受け入れなければ成らない事なのだ。

 一度、強く眼を閉じて、カノジョは小さな歩幅で兄の遺骨が置かれた仏壇へと近付いていき、九歩目にしてやっとカノジョは兄の前に辿り着いた。

「……飛鳥。久しぶりね」

 私はカノジョの少し後ろで、カノジョと同じ様に正座をし、その背を見つめた。

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