花弔風月

T木S夫

○望月風香→立花翼

 ……何故カノジョがここに居る?

 ……轢かれたのではないのか?

 カノジョの体はボロボロで、至る所に擦り傷の後があった。右手は真っ赤に擦り剥けて、上着は肘の所が破けている。

「翼君ッ」

 カノジョの瞳はわなわなと揺れていて、その体は激しく震えていた。

 体中で恐怖を表し、ただ私だけを見ていた。

 カノジョはペタペタと両手で何かを確認するように私の頬を触る。

 そして、一通り私の全身に触れた後、カノジョは小さく呟いた。

「生きているわね? 生きているのよね?」

「あ、はい」

 私はもう何が何だか付いていけず、間抜けな返事をするしかなかった。

 一体何が起きたのだ?

 気の抜けた私の返事を聞いて、カノジョは私の頬へと当てていた両手を離し、飛びつくように私を抱き締めた。

 私はジェットコースターの様に変化する状況と突然自分を包む柔らかな暖かい感触に戸惑い、何か言葉を言おうとしたが、それは叶わなかった。

 その前にカノジョが泣き出したからだ。

「……あ、あああ、ああ……ああああああああああああああああああああああああああ!」

 泣き声は徐々に大きくなって行き、慟哭とでも言えるほどの大きさにまで成った。

 連動するようにカノジョが私を抱く力は強くなる。

 服越しでも互いの心臓の音が分かるほど私とカノジョは密着した。

 私は左手で体を支え、右手で半ば無意識に子供をあやす様にカノジョの背中を撫でた。

 未だ私は状況を飲み込めず、周りを見ると、猫のような笑顔を浮べたつぐみに、 私とカノジョの両親、それに手で謝りながらこちらへと歩いてくる沢口が居た。

「……なるほど」

 彼らを見て、私は悟った。

 私とカノジョは嵌められたのだ。

 つぐみが全員を巻き込んで一芝居打ったのだろう。

 まさかつぐみに騙されるとは。やってくれる。

 大方、私とカノジョ両方に、互いが事故に遭ったとでも連絡したのだ。

 私達はまんまと妹の思惑通り、ここに引き会わされたに違いない。

 まさか、この様な性質の悪い嘘を妹が使ってくるとは思いもしなかった。

 私は一度顔をしかめたが、すぐにそれを止めた。

 肩の荷が降りた様な心持だった。

 ずっとカノジョに会いたかった。

 しかし、私から会いに行っては成らないと思っていた。

 まるで息継ぎ無しで潜水している様でただ苦しかった。

 ダムの決壊の様なカノジョの涙はまだ続いている。

 私は一度息を深く吸って、それをゆっくりと吐き出し、

「……風香さん」

 ただ一言カノジョの名前を呼んで、右手でカノジョを抱き返した。

 今は立花翼として、望月風香に触れても構わないはずだ。

 初めてカノジョが私を見てくれたのだから。

 カノジョは温かく、折れてしまいそうなほど弱く、気付いたら溶けて居そうなほど儚い。


 ああ、私はこの人を愛しているのだ。


 すると、何故か途端に私の視界が濁った。

 一呼吸入れて自分が泣いているのだと理解した。

「……ハハ」

 何だ、私は泣けるじゃないか。とっくに涙腺が固まっていたと思っていたのに。

 カノジョを抱く力を増やし、その肩を濡らした。

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