花弔風月

T木S夫

十一



 と、まあ、これが私のカノジョへの秘密である。その秘密を明かすのは五日後の立花飛鳥の誕生日の予定であったのだが、私は最後の最後に気を抜いてしまった。

 出来得る限り接触を避けていた高校生時代のクラスメイト、千原と松野に会ってしまい、彼らの口から「A組の同窓会」というフレーズを出してしまったのである。

 千原達と立花翼は同じA組の同窓生だが、立花飛鳥と望月風香は私達の二つ上の代のA組である。

 カノジョにとって立花飛鳥が彼の弟の同級生である千原から同窓会に誘われるのはおかしいのだ。

 当然、カノジョは疑問を解消しようと彼らに質問し、彼らははっきりと答えた。

「あの、間違っていたら本当に申し訳ないのですが、彼は立花翼だったはずです」

 カノジョは間抜けに声を出した。

「…………………………………………え?」

 私は大きく息を吐いて新宿駅の雑踏を一瞥した。彼らは無言でロボットの様に各々の目的地を目指している。

 カノジョが眼を震わせながら私へと顔を向け、私達の視線が合う。

「…………飛鳥、彼らが何か勘違いをしている様なのだけれど?」

 私はチャンスだと思った。

 今のカノジョの顔には動揺が広がっている。

 動揺しているという事は私が立花飛鳥であると言う事に一辺の疑いがあると言える。

 昔より随分と回復した。昔のカノジョなら何を言われても私が立花飛鳥である事に疑念を抱かなかった。

 今がチャンスなのかもしれない。私はそう思った。

 私は生唾を飲み込んで、右手で眼鏡を外し、そのまま手櫛で髪をぼさぼさに乱した。

 私は昔こういう髪型だったのだ。

「……飛鳥?」

 カノジョの瞳が疑念に揺れる。

 最大級のアラートがカノジョの中で鳴っている筈だ。

 大丈夫だろうか?

 また壊れてしまわないだろうか?

 心は死んでしまわないだろうか?

 カノジョは耐え切れるだろうか?

 耐え切れるだけ回復しただろうか?

 心配したら切りが無かった。

 千原と松野が戸惑いながら私とカノジョを見ている。

 彼らには悪い事をした。この様な修羅場に巻き込まれ、運が悪かったと思ってもらうしか無い。今度ジュースでも奢る事にしよう。

 私は一度眼を瞑って大きく息を吸った。

 大丈夫かどうかは不明である。

「…………あす、か?」

 カノジョの体が震える。トレンチコートの裾が細かに振動する。

 さあ、言ってしまう事にしよう。

 存外に呆気無く、言葉を出せた。

「お久しぶりです。望月さん。俺の事を覚えていますか?」

 私は笑えているろうか?

 また、カノジョは笑ってくれるだろうか?

 カノジョの呼吸が止まった。

 眼は見開かれ、体が強張った。

 そして、小さく言葉が紡がれていく。

「……………………や。い、や。嫌よ。嫌……嫌嫌……嫌嫌、嫌よ。嫌よ。そんな、嫌……」

 声は徐々に大きくなっていって、

 弾けた。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

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