花弔風月

T木S夫

 沢口がお望みの缶コーラと私が飲む為のミルクティーを買い、私達はそのままデパート近くの界隈を歩く事にした。

 時刻は既に夕飯時、そろそろ今日は解散の時刻である。

「ここら辺も随分変わったな。区画整理だっけ?」

「ああ。そういや立花は知ってるか? 定食屋の一二三堂も閉店だ」

「マジか。あそこの鯖の味噌煮定食美味しかったのに」

 私達が小学生の頃あった古本屋やラーメン屋などが随分と閉店し、化粧品店やアパートなどに変わっていて、食屋や玩具屋は区画整理でマンションに成っていく。

 時の流れは一方通行で、全ての物が変化し続ける事は分かっているが、こうも幼い頃より慣れ親しんだ風景が変わっていくのは寂しいものだ。

 コーラを一口飲んで沢口は空に向かって息を吐いた。

「この街と同じ様に、俺達も随分変わったよなぁ」

 私もミルクティーを一口飲んだ。暖かさが胃へと落ちていくのが伝わる。

「ああ、変わったな。中学生の時の俺が今の俺を見たら吃驚するだろうな」

「確かに」

 私の言葉に沢口は頷いた。

 古くから私を良く知る彼なら、その変貌振りを良く理解している事だろう。

 しばらく懐かしむ様に私達は無言で歩いていたが、区画整理をしているショベルカーが見えた辺りで、沢口が足を止めた。

「なあ、立花。そろそろ、〝戻って〟良いんじゃないか?」

「…………」

 何も言わず、沢口を見た。彼の眼は酷く真剣で、つい私は先日のつぐみとの会話を思い出した。

「お前は充分頑張ったよ。お前ほど望月さんを愛している奴はこの世界に居ないだろうさ。だがな、もう四年だぞ? 四年間、俺達の生きて来た二十五パーセントだ。立花、そろそろ〝言って〟良いんじゃないのか?」

 沢口の視線が私の左手へと注がれた。

 ああ、沢口よ。我が親友よ。お前はこんなにも俺の事を考えてくれるのか。

 沢口光輝は人に干渉しない人間である。それは親友である私も例外では無い。これは彼なりのルールであり、犯してはならない一線なのだ。

 彼と友人となって早十二年。私と彼は一度もこの一線を越えた事は無かった。

 我々は仮に互いが苦しい状況に追い込まれていたとしても、決して互いを助けようとはしなかったし、それ故に我々は親友だった。

 だから、今の沢口の言葉は彼なりの質問であって懇願ではない事を私は理解していた。

 つまり、沢口は今、改めて確認をしようとしているのだ。

 私が一体どういう選択をするつもりなのかを。

 つぐみに言った言葉を繰り返した。

「大丈夫だ。そろそろ終わらせるから。具体的に言うなら、二十二歳になったら終らせようと思っている」

「……そうか。なら、俺からはもう何も言わない。すまんな、踏み込んだ事言って」

 さすが親友。今の言葉の意味を正確に読み取ってくれたようだ。重畳である。

「良いさ」


「んじゃ、今日は帰るよ。また遊ぼう」

「ああ、またな」

 一通り辺りを物色して沢口家の門の前で、私達は短く言葉を交わし、解散した。

 沢口家に背を向けて、帰宅しようと歩いている私の頭の中ではつぐみと沢口に言った言葉がグルグルとループしていた。

 そろそろ全ての決着をつけねば成らない。

 物語はピリオドを打って初めて報われるのだ。

「まあ、やれるだけやるか」

 呟きながら、何となく眼鏡を外した。


 眼鏡の縁が消えた視界は、

 相も変わらず鮮明だった。

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