花弔風月

T木S夫

私とカノジョの大晦日 一

 十二月二十六日。私とカノジョはそれぞれの実家へと帰省していた。私達の家は駅一つ分離れているため、久しぶりに私の隣にカノジョが居なかった。

 最早在る事が当たり前と成ったカノジョの温もりが少しばかり恋しい。

 で、今、私は父と母、それに妹のつぐみと共に夕飯タイムである。メニューは母特製のカレーライス。たまねぎたっぷりでとてもマイルドな仕上がりと成っている。ちなみに我らの足元では、我が家の愛猫、ジュゲムが黙々とカリカリを食べている。四ヶ月前より少々ボリュームが増していた。冬毛が伸びたからだろうか?

「兄ちゃん。大学生活はどう?」

 左に座るつぐみが脈絡も無く聞いてきた。こちらへと顔を振り向かせた勢いで、トレードマークのポニーテールが小さく揺れる。

「どうもこうも普通。講義受けて、実験して、レポート書いて、後は寝たり麻雀したりテレビ見たり」

 右手のスプーンでカレーを頬張りながら大学生活を思い返したが、これくらいしかやった事が無い。大学生などこんな物だ。

 つぐみは〝ふーん〟と曖昧に返事をした後、質問を続けた。

「風香さんとの同棲生活はどうなの?」

 瞬間、僅かだが、父と母の体が強張った。

 我が家では私とカノジョの同棲生活はある種のNGワードとなっているのだ。

 それというのも、私がカノジョの彼氏になった時、我が両親は大層反対し、一悶着あった経緯があるためである。

 まあ、最終的には夜を徹して行われた第八回家族会議によって両親が折れたのだが、その話は別にここでしなくても良いだろう。

「……う、うむ。どうだ。風香さんとの共同生活は上手く行っているか?」

 スプーンを止めて父が私を見た。父の右手側に座る母もこちらを見ている。

 考えてみるが、冷静に見て、私とカノジョの同棲生活は良好に進んでいると言って良いはずだ。

「まあそれなりに上手くやっていると思うよ」

「ラブラブー?」

「はいはい、ラブラブ。クリスマスもデートしたよ」

 つぐみの言葉を軽く流し、私は父と母へ言葉を送った。

「心配かけているし、父さんと母さんが俺とカノジョの関係を良く思っていないのも分かる。けど、風香さんとの事は、俺なりにしっかりとやる。だから、大丈夫だよ。多分ね」

「無理はしなくて良いし、何時でも帰って来て良いのよ」

 母がとても心配そうな瞳を私に向けた。

 彼らが私を愛してくれているのは重々理解しているし、まだ二十の若者である私がカノジョと同棲する事に気が気でないのだろう。

「大丈夫。四年間しっかり彼氏やっているんだから。それに結構楽しいし」

 私は家族に笑って見せた。この話題をこれ以上話させないためである。

 カノジョの彼氏と成った毎日はとても大変だが、ちゃんと楽しい時もあるのだ。

「そうか。なら構わん。今日はゆっくりと休め」

「うん。心配掛けてごめん」

 父の言葉に小さく頭を下げた。

 この四年間、私とカノジョの関係を許してくれている家族には頭が上がらない。彼らは何時でも私達を引き剥がしても良いというのに。

「兄ちゃん。後で詳しくラブラブ同棲生活を聞かせてよー」

「……風呂入ったらな」

 左手でヒラヒラとこちらに詰め寄るつぐみを払い、私は再び右手でスプーンを持ち、カレーライスを食べ始めた。

 やはり、母のカレーは最高である。

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