スキルを使い続けたら変異したんだが?
第六話 救えたもの
愕然とする俺に、レナがフォローの言葉を続けた。
「でもまあ、ゴーレムを倒せたぐらいだしね。このデメリットも飾りみたいなものかもよ?」
つまり、開幕ぶっぱで終わる可能性もあるということか。
「それはそれで、他のプレイヤーの目が痛いな」
羨望や嫉妬の視線で見られることは、まず間違いないだろう。
ダンジョンボスの攻略などに引っ張りだことなり、いつしか覇者ギルドのエース、真紅の騎士という二つ名を得て……ないな。
うん、ない。そんなガラじゃない。ゲームでそんな地位に縛られて、自由に動けないのも嫌だ。
「平穏に過ごしたかったら、滅多に使わないのが正解かもね。でも、このゲームを開発したスタッフはずいぶん強気だなぁ」
「強気?」
「だってそうじゃない?
普通のMMOじゃ滅多にユニーク装備やユニークスキルなんて出さないし。
手に入れなかったプレイヤーが萎えて、ゲームをやめちゃう可能性があるから」
確かに、手に入れるのが難しい装備はあっても、手に入れられるのが一つだけというゲームは珍しいかもしれない。
「実は、ユニークスキルじゃないってことは……ないか」
自分で言って、自分で否定する。
レナが同意する。
「うん、ないと思う。こんな破格のスキルを何人も使える人間が居たら、それこそゲームバランスなんてあったものじゃないし」
「ということは、ユニークスキルがあってもプレイヤーがやめない自信があったってことか、運営は。
確かに初のVRMMOだし、批判する人間はいてもやめる人間はいないかもな」
こんな楽しいゲームを、それぐらいの不都合でやめる人間がいるとは思えない。
「まあ、公平過ぎてもつまらないし。これぐらい刺激があった方が面白いか。
ところで、このスキルの習得条件って何だったの?」
「…………、さあ?」
自分でも不思議に思っていたぐらいなので、首を傾げてみせる。
レナはイタズラな笑みを浮かべた。
「またまた~。フレンドなんだし、隠さなくてもいいじゃない。一体、いつどこで習得したの?」
「さっき」
「……え?」
即答すると、彼女はきょとんとした表情で聞き返してきた。
「……ゴーレムと戦っていた時だよ。お前も見てただろ。あの時に初めて習得して、初めて使ったんだ」
「え? え? ちょっと待って。
じゃあ、あなたはあの時、初期スキルに初期装備でゴーレムに挑んだの?」
「まあ、そうなるな」
「え? 馬鹿なの?」
助けた彼女にまで馬鹿と言われるとなると、もう本当に俺はただの馬鹿だったんじゃないだろうか。
ずーんと気分を沈める俺に、なお彼女はわからないと続ける。
「じゃあ、なんで私を助けに来たの? 絶対に死ぬじゃない。あなたには私を助けるメリットなんて何一つなかったでしょ?」
今更隠してもしょうがない。
「……お前が、ゲームをやめることになったら嫌だなって思ったんだよ。
あのまま一人で死んで入口に戻ったら絶対辛いだろうしさ。
例え一緒に死んだとしても、二人なら少しは辛さも和らぐだろうって考えたんだ。
そんな心配いらなかったみたいだけど」
結局、一人で空回りしていただけだ。
あの時のことを思い出すと顔が熱い、すごい恥ずかしい。
俺の答えを聞いたレナは、ぽかーんとした表情を浮かべて固まっている。
きっと本当に馬鹿だとでも考えているのだろう。
やがて、彼女は口を開いた。
「――あなた、本当にバカね」
そう言うレナの口元に浮ぶ笑みは、俺を小馬鹿にしたものではなく、とても穏やかなものだった。
「お人好しが過ぎるわ。……でも、嫌いじゃない。
あなたが言う通りにあのまま一人で死んでたら、それからのゲームを心からは楽しめなかったかな。
アイツらに復讐したとしてもさ」
でも、と彼女はこちらの目を見つめて続けた。
「あの時にあなたが一緒に死んでくれたなら。それでそんな話を聞かされたら、私はこんな風に笑えていたと思うわ。
ああ。あんな奴らだけじゃなく、こんなバカみたいにお人好しな人間もいるんだって。心機一転してゲームに望めたんじゃないかな。
どちらにせよ、あなたには救われていたのかも。本当にありがとね」
そう微笑む彼女に。
あの時、あの覚悟は何一つ間違っていなかったのだと。そう言われた気がした。
思わずジーンときて、何も言葉を返せない。鼻の奥が熱くなって、じわっと視界が滲む。
こんな涙が出る仕様とかいらない……‼
「……そ、それで、これからどうする?」
このまま沈黙が続くと本当に零れてしまいそうだったので、俺は話題を変える。
唐突な俺の問いかけに、何も言わずに彼女は答えてくれた。
「そうね。さっきも言ったけど、一緒に生活スキルでも上げる?」
「ああ。それがいいな」
「町には戻れないし、適当な小屋を拠点にして活動しよっか」
「ああ」
感情を抑えるのに必死な俺は、何も考えずに彼女の意見に同意する。
その時は、全然気づいていなかった。
それがレナとの共同生活を意味するということに。
「でもまあ、ゴーレムを倒せたぐらいだしね。このデメリットも飾りみたいなものかもよ?」
つまり、開幕ぶっぱで終わる可能性もあるということか。
「それはそれで、他のプレイヤーの目が痛いな」
羨望や嫉妬の視線で見られることは、まず間違いないだろう。
ダンジョンボスの攻略などに引っ張りだことなり、いつしか覇者ギルドのエース、真紅の騎士という二つ名を得て……ないな。
うん、ない。そんなガラじゃない。ゲームでそんな地位に縛られて、自由に動けないのも嫌だ。
「平穏に過ごしたかったら、滅多に使わないのが正解かもね。でも、このゲームを開発したスタッフはずいぶん強気だなぁ」
「強気?」
「だってそうじゃない?
普通のMMOじゃ滅多にユニーク装備やユニークスキルなんて出さないし。
手に入れなかったプレイヤーが萎えて、ゲームをやめちゃう可能性があるから」
確かに、手に入れるのが難しい装備はあっても、手に入れられるのが一つだけというゲームは珍しいかもしれない。
「実は、ユニークスキルじゃないってことは……ないか」
自分で言って、自分で否定する。
レナが同意する。
「うん、ないと思う。こんな破格のスキルを何人も使える人間が居たら、それこそゲームバランスなんてあったものじゃないし」
「ということは、ユニークスキルがあってもプレイヤーがやめない自信があったってことか、運営は。
確かに初のVRMMOだし、批判する人間はいてもやめる人間はいないかもな」
こんな楽しいゲームを、それぐらいの不都合でやめる人間がいるとは思えない。
「まあ、公平過ぎてもつまらないし。これぐらい刺激があった方が面白いか。
ところで、このスキルの習得条件って何だったの?」
「…………、さあ?」
自分でも不思議に思っていたぐらいなので、首を傾げてみせる。
レナはイタズラな笑みを浮かべた。
「またまた~。フレンドなんだし、隠さなくてもいいじゃない。一体、いつどこで習得したの?」
「さっき」
「……え?」
即答すると、彼女はきょとんとした表情で聞き返してきた。
「……ゴーレムと戦っていた時だよ。お前も見てただろ。あの時に初めて習得して、初めて使ったんだ」
「え? え? ちょっと待って。
じゃあ、あなたはあの時、初期スキルに初期装備でゴーレムに挑んだの?」
「まあ、そうなるな」
「え? 馬鹿なの?」
助けた彼女にまで馬鹿と言われるとなると、もう本当に俺はただの馬鹿だったんじゃないだろうか。
ずーんと気分を沈める俺に、なお彼女はわからないと続ける。
「じゃあ、なんで私を助けに来たの? 絶対に死ぬじゃない。あなたには私を助けるメリットなんて何一つなかったでしょ?」
今更隠してもしょうがない。
「……お前が、ゲームをやめることになったら嫌だなって思ったんだよ。
あのまま一人で死んで入口に戻ったら絶対辛いだろうしさ。
例え一緒に死んだとしても、二人なら少しは辛さも和らぐだろうって考えたんだ。
そんな心配いらなかったみたいだけど」
結局、一人で空回りしていただけだ。
あの時のことを思い出すと顔が熱い、すごい恥ずかしい。
俺の答えを聞いたレナは、ぽかーんとした表情を浮かべて固まっている。
きっと本当に馬鹿だとでも考えているのだろう。
やがて、彼女は口を開いた。
「――あなた、本当にバカね」
そう言うレナの口元に浮ぶ笑みは、俺を小馬鹿にしたものではなく、とても穏やかなものだった。
「お人好しが過ぎるわ。……でも、嫌いじゃない。
あなたが言う通りにあのまま一人で死んでたら、それからのゲームを心からは楽しめなかったかな。
アイツらに復讐したとしてもさ」
でも、と彼女はこちらの目を見つめて続けた。
「あの時にあなたが一緒に死んでくれたなら。それでそんな話を聞かされたら、私はこんな風に笑えていたと思うわ。
ああ。あんな奴らだけじゃなく、こんなバカみたいにお人好しな人間もいるんだって。心機一転してゲームに望めたんじゃないかな。
どちらにせよ、あなたには救われていたのかも。本当にありがとね」
そう微笑む彼女に。
あの時、あの覚悟は何一つ間違っていなかったのだと。そう言われた気がした。
思わずジーンときて、何も言葉を返せない。鼻の奥が熱くなって、じわっと視界が滲む。
こんな涙が出る仕様とかいらない……‼
「……そ、それで、これからどうする?」
このまま沈黙が続くと本当に零れてしまいそうだったので、俺は話題を変える。
唐突な俺の問いかけに、何も言わずに彼女は答えてくれた。
「そうね。さっきも言ったけど、一緒に生活スキルでも上げる?」
「ああ。それがいいな」
「町には戻れないし、適当な小屋を拠点にして活動しよっか」
「ああ」
感情を抑えるのに必死な俺は、何も考えずに彼女の意見に同意する。
その時は、全然気づいていなかった。
それがレナとの共同生活を意味するということに。
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