スキルを使い続けたら変異したんだが?

クルースニク

第五話 レナ・スズミヤ

 とりあえず俺はレナを連れて、秘密話におあつらえ向きな休憩施設……無人の小屋へ来ていた。負ければ装備を失うというリスクの分、運営もそれなりに安全地帯を用意しているようだ。
 小屋の中は質素な作りで、木張りの床にテーブルと椅子が数脚並べてあるだけ。山にある避難小屋のようだった。

 そこに腰を下ろし、俺とレナは一息ついていた。
 一息つくと言えば、今感じている疲労感はゲームのやりすぎによるものなのだろうか。それともゲーム自体に設定されているものなのだろうか。
 もしかしたら、スタミナという隠しステータスでも設定されていたりするのかもしれない。
 そんなことを考えていると、

「ねえねえ、カミシロ君はこれからどうするの?」

 向かいに座り、上機嫌に笑うレナが問いかけてきた。
 彼女とはここに来るまでの間に自己紹介を終え、すでに感謝の言葉ももらっていた。

 そして、俺が想像していた深窓のお嬢様というイメージは完全に覆されていた。
 まあ、MMOで見た目とのギャップはあって然りなんだけど。

「予定通り先に進む……って言いたいところだけど、このレベルじゃな」

 他のプレイヤーからはフレンド登録しない限り、ステータスや装備の詳細を見られることはない。しかし、レベルはプレイヤー名の横に並んで表示され、完全にバレてしまう。

「だよね。先行プレイヤーでもまだレベル40付近が最大みたいだし、目立ち過ぎちゃう。
 第一、そんな人たちでも倒せなかったゴーレムを無名の私たちが倒したなんてバレたら、チーター扱いだよ」

 ざっくばらんに、レナが俺とほぼ同様の意見を口にする。
 こんな感じで、フレンド登録を終えてから急に口調が変わったのには驚いた。たぶん、レベル50になった時よりも衝撃を受けた気がする。

 だからと言って、別に彼女を助けたことを後悔はしない。……しないが、何かちょっと騙された気分がするのはなぜだろう。

「……それで、レナはどうするつもりだったんだ?」

「私? とりあえず、戦闘のレベル上げの必要はなくなったから、生活スキルのレベルでも上げようかなって考えてた」

「生活スキルか。そういえば、俺まだ調合すら一回もやってないな」

 他のRPGでもあまり生活や生産関係のスキルに手を付けたことはなかった。
 どこか面倒で、魅力を感じられなかったのだ。しかし、このVRMMOなら、それもちょっと楽しいかもしれない。

「スキルって言えば、あなたがゴーレムを倒した技ってユニークスキルなの?
 ちょっと見せて欲しかったんだ」

 レナが興味津々という様子で、身を乗り出してくる。

 ユニークスキル。
 ユニーク装備や、ユニークモンスターと同じ。この世界でただ一つのスキル。

 やはりそうなのだろうか。あれから、まだ一度も確認していなかった。
 まさか、消えてたりしないよな?

 不安に思いながら俺はタブレットを呼び出し、スキル画面から戦闘タブをタップする。

スキル1:クリムゾンブレイズ

 あった。赤いフォントが特別感を演出して……って、あれ?

「おお、これがあの……って、あれ? 他のスキルの設定画面が消えてない?」

 覗き込んだレナがそう指摘する。
 そう。スキル1の下にまだ他のスキルの設定画面があったはずなのだ。
 それが、消えていた。

「って、スキルポイント-350っ!?」

 俺のタブレットを勝手にいじっていたレナが、突然声を上げた。
 馬鹿なと思いつつ、確認すると確かにSPが-350と表示されている。

 そこで、ふと俺はゴーレムを倒した直後に表示されたメッセージを思い出す。

ブレイズソードとSP600を消費し、クリムゾンブレイズを習得しました。

 レベル50までに手に入れた250のSPと計算すると、数値が合う。

「多分、ユニークスキルの習得に使われたみたいだ」

「SPを600も使われたってこと?
 これじゃあ、レベル120になるまで他のスキルを習得出来ないわ。ユニークスキルと引き換えと考えると安い方なんでしょうけど」

 そう言って、彼女はまた勝手にクリムゾンブレイズの文字をタップする。
 まあ、俺も見たいからいいんだけど。

クリムゾンブレイズ
消費MP:1240
威力:999
発動速度:S

 MP全消費型か。そんなことを考えていると、彼女はもう一度スキル名をタップする。表示が切り替わった。

クリムゾンブレイズ。
決戦スキル。
発動時、使用者に攻撃上昇、防御上昇、速度上昇、状態異常無効、敵防御無効の効果。
四連撃後、レベルに応じて効果時間を持続する。

 すげえ、破格のスキルだ。流石、世界に一つだけのスキル。
 でも、決戦って?
 その疑問の答えは、画面を下にスクロールすると出て来た。

効果時間終了時にターゲットが生存していた場合、使用者は死亡する。

 ……え? え?

「……文字通り、勝敗を決めるスキルね。
 相手を倒せば勝ち、でなければ負け。ああ、これは使いどころが難しいわ」

 使いどころが難しいというか、これしかスキルないんですけど……!?


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