クラスにハブられた僕は罪を背負いながら頑張ります

煮干

もう一つの人格

 お腹いっぱい……。僕はお腹をさすりながら、満腹感にひたる。どの料理もみんな美味しかった。僕の世界の料理と遜色ないできで、味も負けず劣らずだった。


 その時、パブールさんが立ち上がる。皿を持っているから片付けかもしれない。僕も立ち上がり、手伝うことにする。


「ゆっくりとお休みになっていていいのですよ?」


 パブールさんにそう言われるも、一人でやらせるのは気分が悪い。八分の優しさと、二分の恐怖が僕をつき動かした。


「いいですよ。これぐらいはちゃんとします」


 そう言って僕が皿を持ち上げた瞬間、ふらついて倒れそうになる。とっさにリアが支えてくれて大惨事は免れた。


「無理しなくていいんだよ。僕も持ってあげるから」


 リアが上半分の皿を持ってくれる。いつにもまして優しいリアに、僕は驚きが隠せないでいた。


「どうしたの? そんなに驚いて?」


「な、なんでもないよ。ありがとう」



 やっと終わった……。最後の皿を調理室へ持っていくと、僕はその場に座りこんだ。


「手伝っていただきありがとうございます」


 パブールさんが深く頭を下げる。


「だ、大丈夫ですよ」


 そう言ったものの、自分でもわかるくらい疲弊しきっていた。リアとパブールさんは僕より確実に多い枚数を運んでいる。それなのにヘラヘラと笑っていて余裕そうだ。


「ノゾム、僕は手伝うから。先に戻ってていいよ」


 言葉を発する力がでない。僕は首を縦にふり、よろよろと食堂へ戻った。


 扉を開けると、ヴァンスと優が話をしていた。


「ちょうどいいとこに来たね。特訓の話をしていたんだ」


「君は強くなりたいんだってー?」


「うん……僕は強くなりたい……。今度はリアを守りたいんだ」


 あの時のことを思い出すと悔しさがこみ上げる。自分はなにもできなくて、最後もリアが庇ってくれた。


「そっかー。でも僕は厳しいよー」


 ヴァンスの不気味な笑顔が不安を掻き立てる。


 いけない、僕は不安を振り払うように首を振る。強くなる、その意思は揺るがない。もうあの思いをしたないために。


「たえてみせる!」


 するとヴァンスの豪快な笑いが響く。次の瞬間、ヴァンスの表情は一変する。優しかった目は鋭くなり、森に出会った時のあの目つきへと変化する。


「いい覚悟だ……。その目から悔しさも伝わってくる」


 誰……? まるで別人だ。僕が困惑していると、優が助けてくれた。


「こいつは二重人格みたいなもんだ。さっきのが本物で、今は別の人だよ」


「説明どうも。俺はブラスだ。ヴァンスからは戦闘を任されている」


 つまり、ブラスさんがもう一つの人格で、戦闘になると出てくるということか。


「じゃあブラスさんが教えてくれるの?」


 そう聞くと、ブラスさんは首を縦にふる。


 見るからに怖いこの人……。厳しい練習をするんじゃないかと考えて、僕は身震いをした。


「明日、早朝五時ぐらいに玄関に来い」


「早朝五時って言われても時計なんてないよ。どうするの?」


 この世界には不便なことに時計がない。たぶん、時間の進みは地球と一緒。太陽も月も星もある。朝がくれば必ず夜がくる。まるで、地球のようで別の世界だ。


「じゃあ朝食をくってから特訓を開始する」


「わかった」


 こうして僕の地獄の特訓の日々が始まった……。


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