クラスにハブられた僕は罪を背負いながら頑張ります

煮干

楽しい一夜

 僕は寝ていたようだ。目が覚めると、まだ優の背中だった。


「どこ行くの?」


 僕が問いかけると、優は首だけ僕に向けて、笑顔で答える。


「もう少し森に近づこうかなって考えてるよ。明日の朝にはここを出て、俺たちの隠れ家に行くからね」


 俺たち......てことは、ヴァンスさんもいるかもしれない!


 そうなると明日が楽しみだが、森に入るとなるとなると身の毛がよだつ。なにせあの森には嫌な思い出しかない。


「あ!ちょうど森が見えるし、ここら辺にしよう。日もくれそうだから、僕は食材調達!」


 そう言うと、リアはもと来た道を走り出した。優は大きなため息をついて、僕を下ろす。


「望、俺はたきぎ集めに行くけど大丈夫か?一人で怖くないか?」


 優は膝に手をつき、体制を低くすると、心配そうに僕の顔を見る。でも、ここまで心配されるのは心外だ。だいたい僕だって大きくなったんだから一人でも怖くなんかない。


「大丈夫!」


 僕は優のお腹を押して、早く行くように促す。


 そうすると優は、森へと走り出した。時々、後ろを振り向いてくるから僕は笑顔で手をふる。


 早く行け、そう思いながら。



 辺りが日暮れ間近の赤一色に染まる。後少しで夜になるというところで優が帰ってきた。


 優は木の枝を両手で抱えるように持ってくるが、その倍を水竜は運んできてる。


「......優、湿ったら使えないんじゃないの?」


「あ......」


 優の両手で抱えられていた木の枝が落ちる。優は驚いて声もでないようだ。さらに膝から崩れ落ちて両手をつく。心配になった僕は優のもとに駆けつけた。


「優、とりあえずこれだけで何とかしよ?」


 そう言って優の背中を優しく撫でる。としゃぶつを出すときにしてあげるような感じにゆっくりと、優しく......。すると、優は糸目の目尻にうっすらと涙をうかべて、僕に抱きついてきた。


「俺はいい弟をもった!」


「ちょっとお兄ちゃん離れてよ!」


 その時ちょうどリアが帰ってきた。優はまだ気づいてないため、僕が急いで押し返して離れようとする。けれど、優は力強く抱き締めて離してくれない。


「ただい......そういう関係だったんだ......」


 リアの背負っていたかごが落ちる音が聞こえて、ようやく優も気づいたようだ。


「リア......これには訳があってだな......」


 優がこれまでの経緯を話すと、リアは大きなため息をついた。


「大丈夫だよ、魔術を書くことさえできれば火はつくから」


 そう言ってリアは、優の持ってきた木の枝のなかで一番大きいのを選ぶと、何かを書き始めた。わずか数分で書き終わり、リアが息を吹きかけると火がついた。


「でもこれって不動だよな?」


 優が言うと、リアは火に手を近づける。


「危ない!」


 僕が叫んだときには遅く、リアの手は火に触れる。見ていられなくなって目をつぶると、リアの笑い声が聞こえる。


「正解、不動だよ」


 僕が目を開けると、リアはなんともないように笑っている。


 優を見ると、察してくれたのか説明をしてくれた。


「魔法は動と不動があるんだ。で、今のように何にも影響を及ぼさないのは不動。影響を及ぼすのが動なんだ。」


「あ!思い出した!確かだけど、不動は幻と考えるといいってリアが教えてくれた!」


 そう言ってリアを見ると、自慢げに胸を張っている。


 こんなリアだけど、僕にとっては魔術を教えてくれた先生だ。


「そうだね、そう考えるのもありだな。俺たちのところでは教え方が違うからな」


 てことは、優は違うところで魔術を習ったんだ。一体どこなんだろう......?


「ノゾム。これを動にして」


「無理だよ!」


 突然のリアの無茶ぶりをすぐさま否定する。


 まだ自分の能力に気づいて日が浅いうえに、できたのもまぐれの一回だけ。そんな僕にできるはずがない。


「できなくても文句言わないでね」


「いいよ、できなかったら火が消えちゃうだけだから」


 リアは笑顔で、木の枝をどんどんと火に投げ入れる。優の持ってきた木の枝だけでなく、水竜が持ってきた木の枝も一緒に。


 早くしないと火が木に隠れてしまう。早くしろと願っても一向に木の枝は燃えない。結局、火は木の枝に隠れてしまった。


「ダメだねぇ、ノゾムは......」


 やれやれといわんばかりにリアは大きなため息をつく。そしてまた、木の枝に書き始めた。


「だから言ったのに......」


 あれから試行錯誤を繰り返すも実らず。原始的な方法も試したが、火がつくことはなかった。


「だいたいリアが最初からそうすればいいのに......」


「確かにそうだけど、ノゾムのこれからを考えたら成長してほしいんだ」


 いつものふざけた口調ではなく、真面目なトーンで話す。一瞬ドッキリとしたが、リアにもリアなりの考えがあったんだと考えると申し訳なくなる。


「よし!ちゃちゃっと食べて、明日に備えて寝よう!」


 リアはまた、いつもの調子で話す。そして、かごから食材を取り出すと、慣れた手つきで料理を始めた。



 ふくれたお腹をさすりながら横になる。


 リアの手料理はどれもおいしくて、食べ過ぎてしまう。優も一口食べてから、無言でもくもくと食べ始めた。


「いやぁ......リアを仲間に入れて正解だよ。これから毎日美味しい手料理を食べれるなんて幸せだ」


「て、照れるなぁ」


「照れ隠しでナイフ振り回さないで!」


 そんな楽しい食後の時間は終わり、いつしか死んだように僕たちは寝ていた。


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