クラスにハブられた僕は罪を背負いながら頑張ります

煮干

指折りの魔法使い

爆発音も爆風も、リアの悲鳴も聞こえない。

目を開けると火の玉は止まっていた。その部分だけ、まるで時でも止まったかのように...。男は目を見開き動揺を隠しきれないでいた。

「何でだよ...どうして止まったんだよ!お前か!お前のせいだろ!」

男はわめき散らして僕を見る。目から並々ならぬ殺意を感じて足がすくむ。

「それは僕の魔法だ!」

リアの主張もなむなしく、男には届かない。

なおも男は僕を見る。他のことは眼中にないようだ。

「死ねぇ!」

再び男の魔法が放たれる。足がすくんで逃げることも立ち向かうこともできない。さながら蛇に睨まれたカエルのように動けない。できるならあの奇跡がもう一度起こしたい。たった一度のまぐれがもう一回あるなんて考えられないが、今はそれにすがるほかない。

「ノゾム!」

リアの悲鳴と肌に伝わる熱気で死を悟る。恐怖から目をつぶった。

結局奇跡は一度きりか...

「止めろ!水竜!」

低く、澄みきった空気を切り裂くような鋭い声が森に響く。目を開けると水でできた竜が目の前を通りすぎて火の玉を消し去る。驚き、辺りを見渡すとこん色のローブに身をまとった青年がいた。

「誰?」

髪は白く、身長は僕よりはるかに高い。

その人が誰か僕は知らない。

「久しぶり望。」

視界がボヤける。頬を涙がつたう。我慢なんてできず僕は号泣した。声も殺さず泣いた。もう二度と会えないと思っていた友達が目の前にいる。永遠の別れをした兄弟がこうやってここにいる。十一年前のあの事を忘れているかのような明快な笑顔。

「どうした望!?どっか痛いのか?」

優の問いかけに無言で首を横にふる。近づいてきた優が優しく僕を抱き締めると、顔が胸にうずまる。息が苦しいけど優の心臓の律動が心地よい音楽に感じた。手から伝わる温もりが僕の体に染み入る。

「おい...お前らは今の状況分かってんのか!」

男の一言でハッとする。見上げると、優はいとおしそうに僕を見つめてる。

「お兄ちゃん...敵が怒ってる...。」

僕の不安な気持ちをくみ取ったのか、髪の毛がくしゃくしゃになるくらい強く頭を撫でた。

「そうだな...でも大丈夫!お兄ちゃんに任せなさい!」

僕を後ろに隠すと、優は男を見据えて右手のひらをかざす。

男はナイフを腰から抜き取ると、優に向かって襲いかかろうとする。

「荒れ狂え水竜...全てを貪り、喰らい、全てを無に還せ...。」

詠唱が終わると優の手から水が現れ、逆巻いて竜の形になる。竜は咆哮すると、男をくわえて空へと消えていった。

「あの人どうなるの?」

「俺も分かんない。それよりもその人の手当てをしなきゃね。」

優はリアに近づくとかがんで傷を見る。

「んー...ちょっとまずいな...。とりあえず冷やすから我慢してくれ。」

そう言うと今度は左手のひらを傷に近づける。すると水が現れて球体になり、リアの足を包み込んだ。リアは小さなうめき声をあげ、歯をくいしばる。

「後はこのままにしておいて...俺は少しエルフの長にこの事を説明してくる。望、その人のことをしっかりと見守ってるんだぞ。」

「うん!」

僕が力強くうなずくと、優は笑顔で手をふり走り出すと、あっという間に見えなくなった。

「あれが君のお兄ちゃんなのかい?」

「うん...大好きなお兄ちゃん...。」

ハッとして口をおさえる。顔が赤くなり、熱を帯びる。リアはいたずらな笑みをうかべていた。

「大好きなお兄ちゃんねぇ?後で言おうかなぁ?」

「や、やめてよ!言葉のあやみたいなやつで...」

「そっか。でも君のお兄ちゃんはすごいよ。あれだけの魔法を操れるのはこの世界でもそういない。もしかしたら僕の知るなかで一番だよ。」

すごいお兄ちゃん...嬉しくて口角がひくついているのが自分でも分かる。

「あ~...ニマニマしちゃって...。」

「してないよ!」



優の声は自分の好きな声をあててください。

(ちなみに私はイケボと考えてます。)


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