ムーンゲイザー

Rita

きらきら

私にとってそれは初めてのキスだった。

一つ大人になった気もしたが、同時に子どものようにピュアになった気もした。

素直に言えばこんなに楽だったんだ。

 ツムギと手をつないで海を眺めながら私はそんなことを思った。

波の音、潮風の香り。

この上なく幸せだった。

大好きな人に全てを打ち明けて、それまでモヤモヤしていたものが泡になって消えてしまったみたいだった。

大好きなツムギの横顔をちらりと見る。

風で揺れる前髪、遠くを見つめる輝く瞳、すっと通った鼻筋、可愛らしい口元。

この人に会ってから何度も見とれた横顔だ。

じっと見つめていると、ツムギは私の視線に気づいて笑った。

「そんなに見つめられると緊張するんですけど。」

「目に焼き付けてるの。
ツムギの横顔大好きだから。」

一度気持ちをさらけ出すと、どんどん素直になれるもんだ。

「え、反応に困るからやめて。」

ツムギは照れながら笑った。

「ねぇ、ツムギ、モテるでしょ。
カッコいいし、歌もうまいし、優しいし、面白いし、一緒にいて楽しいし。」

「ちょ、ちょっと待って。
そんなに褒められるの、ほんと恥ずかしいからやめて。」

ツムギは照れながら顔を隠した。

その仕草が可愛くてたまらず、私は思わず抱きついた。

「ツムギ、大好き。
ほんとに好き。もう、それだけでいいや。」

「俺も夕香子が好きだー。」

ツムギは空に向かって叫んだ。

「恥ずかしいよー。」

「誰もいないじゃん。」
ツムギは笑った後、私を真っ直ぐ見つめて言った。

「俺もさ、離れるの辛いよ、すごく。
もう、どうしようもなく辛い。

でも、夕香子が好きっていう気持ちに嘘はつけない。
それが夕香子も同じ気持ちだったことが知れたから本当に嬉しいんだ。」

そう言って私を抱きしめた。

「私も勇気出して言ってよかったよ。
こんなに好きな気持ち、なかったことにできないよ。」

ツムギに抱きしめられながら、私はとてつもない安心感に包まれた。

ずっとこうしていたいな、と心から思ったが、時は無情にも過ぎていくのだ。

気づけば、太陽はいつのまにか降りて来て夕陽の色に変わっていた。

「ねぇ、次の電車、何時だっけ。」

「わかんない、やばいね。
とにかく、駅に向かおうか。」

2人は荷物をまとめて、駅に向かった。

ここに来た数時間前とは違うのは2人は完璧な恋人になっていたことだ。

「どうしよう、電車なかったら。」

「この辺で野宿しかないかぁ、、」

「え、やだぁ、何にも持ってきてないよ。」

「その大きな荷物には一体何が入ってるんですか?」

「女子は荷物がたくさんある生き物なの!」

2人は手をつないで、あーだこーだ喋りながら、歩いた。

駅員さんに聞いてみると、一本前の電車がどうも遅れたらしく、あと数分で到着するということだった。

「すごい!よかったね!ツムギ!
私たち、ラッキーだよ。
夜までにはなんとか帰れるよ!」

「うーん、複雑だな。
野宿で夕香子と一晩明かしてもよかったのに。」

と言ってツムギは笑った。

「へ?やめてよ、変なこと言うの。」

「男子はそういう生き物なのです。」

ツムギはくしゃっと笑った。

「もう!からかわないで!
まだまだ子供のくせに。」

ツムギの変な冗談に少し戸惑いながらも、このまま電車で帰るのも寂しい気がした。

今日という日があと数時間で終わってしまう。

そして2日後にはツムギはアメリカに経ち、私は学校に通うのだ。

何にもなかったかのようにお互いの日常が始まるのだ。

そう思うと、寂しさがこみ上げてくるが、今日という素晴らしい一日を台無しにしたくなくて、その気持ちは胸の奥にそっとしまった。

電車が到着し、2人は手をつないで座った。

いつのまにかツムギは寝ていて、私の肩にもたれかかってきた。

奇跡のような今日という日の思い出が私の心のどこかに常にキラキラと輝いている、と思うだけで、生きていける気がした。

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