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ムーンゲイザー

Rita

待ち合わせ

目覚まし時計が鳴る前に私は目を覚ました。

カーテンを開けると朝焼けに染まった薄桃色の空が見えた。

まるで、今日これから始まる冒険に空もワクワクしているみたいだ、と思った。

昨夜はドキドキしてなかなか寝付けなかった。

何を着て行こう、何が必要かな、あれこれ考えながらバッグに荷物を入れた。

一泊旅行ができるほどの大きめのボストンバッグは母親からのお下がりだ。

レトロなチェック柄が気に入っている。

持ってみるとずっしり重い。

入れすぎたかな、と思って見直してみたが、どうしても減らせなかった。

女の子は荷物が多い生き物なのだ。

それにしても、ツムギはいつも突然決める。

もう少し前もって言ってくれたら、準備もできたのに、と少し腹立たしくも思ったが、
そういうところに惹かれている自分もいて複雑な気持ちだった。

昨夜、急に海に行くことが決まって、家に帰って母親になんて説明しようか迷ったあげく、私が言った言い訳は

「ようちゃんと朝から図書館で勉強する」だった。

「ようちゃん」とは部活が一緒で仲良くなった女の子で、男の子のようにさっぱりして明るい子だ。

一番の親友と言ってもいい。

ようちゃんには昨夜電話して口裏を合わせてもらうよう頼んだ。

案の定、いろいろ突っ込みを入れられたが、新学期が始まったら詳しく話す、とだけ言った。

母は「図書館で勉強?
夕香ちゃん、そんなことするの初めてじゃない?」
と少し怪訝そうだったが、

「たまってる宿題、一気にやろう、と思って。」
我ながらナイスな言い訳が浮かんだ。

15歳の女の子が同い年の男の子と日帰り旅行に行くのは至難の業だ。

ツムギはそれを知ってるのだろうか、アメリカでは普通のことなんだろうか、などと思っていたら、もう約束の時間が近づいていた。

私は急いで駅に向かった。

まだ朝早いのに、太陽はすでにジリジリと音を立てるように照りつけていた。

今日も暑くなりそう。

駅に着くと、ツムギはすでに先に来ていた。

私を見つけると、いつものあの笑顔で手を振った。

暑さを全く感じさせない、完璧な爽やかさだった。

その笑顔を見たとたん、心臓の音は速くなり、暑さも加わり、その場に倒れてしまいそうだった。

「おはよう。行こっか。」

ツムギは白いシャツにジーンズ、スニーカーに黒のバックパックを背負っていた。

私と同じくらい、大きな荷物だったので少し安心した。


駅で切符を2枚買ってもらい、売店で飲みものやお菓子を買って電車に乗り込む。

電車は空いていて、2人で並ん座った。

しばらく走ると、綺麗な山々が窓から見えた。

「わぁ、癒されるー。」

ツムギも目を細めて嬉しそうにしていた。

「日本の山っていいなぁ。」

「アメリカはどうなの?」

「すごい綺麗だよ。

でも、日本の山はなんか、うーん、閉鎖的な感じ?
よく言えば守られてる感じがするんだよなぁ。

山育ちだからさ、俺。

山見ると落ち着くんだ。」

「うん、わかるよ。

海と山ならどちらが好き?

私は山かなぁ、、」

「俺も普段は山派!

海は広すぎて不安になる時があるから。

でも時々、妙に海に行きたくなる時もあるんだ。

そんな時は何かの節目の時なのかもしれないなぁ。

悩んでたり、何かを決断しないといけない時とか。

今日は夕香子と海見たかったんだ。

ほんと、ありがとう。

急でごめんね。来てくれたの、すごい嬉しい。

1人だと、海は少し不安だから。」

私は嬉しかった。

ツムギが自分を必要としてくれている。


私達の関係は何なんだろうか、とふと思う時がある。

明らかにお互い好意は寄せているが、はっきりと告白したわけでもない。

いわゆる、友達以上恋人未満、といったところなんだろうか。

その、モヤモヤとはっきりしない感じがたまにしんどかったりしたが、ツムギが自分を必要としてくれていることがわかっただけで、もう十分だと思えた。




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