ムーンゲイザー
恋
翌朝、朝の光の中で惰眠を貪っていた私の部屋に姉の美香子がズカズカと入ってきた。
「夕香子、昨日遅かったじゃん。
しかも、男の子と一緒にいた?
あんたもついに彼ができたんだねぇ、
また話聞かせてよ!
じゃ、バイト行ってくるから〜!」
と一方的に喋るだけ喋って出て行ってしまった。
2つ年上の美香子は私とは正反対の性格で、昔から活発で社交的。
男女問わず、友達が多かった。
少々短気なところがあり、かなり激しい口調で怒られることもあったが、
モノマネが上手で一緒にいると楽しかった。
恋にも積極的だ。
現在高校2年生の彼女は今現在、夢中になっている恋人がいて話はもっぱら彼のことばかりだ。
恋をするたびにどんどん綺麗になっていく彼女を見て、自分にもそんな日が来たらいいな、
と私は密かに思ってはいたが、ルーティンのような毎日のなかでそんな素敵な出来事が起こるとは思えなかった。
しかし、あの満月の夜から(よく数えてみるとたった3日前のことだけど)私の日常は変わった。
今日は彼と会えるだろうか、と考えるだけで1日の始まりがとても楽しい気分になったし、目に映る全てが色鮮やかにキラキラと光って見えるようになった。
私はベッドに横たわりながら昨日の夜のことを思い出していた。
昨日は不思議な話をたくさんしてくれたなぁ。
人生とは、みたいな深い話。
すごく面白かったし、もっと聞いていたかった。
会ったばかりなのに、昔から知っているような、心の深い部分で惹かれているような感じもして、正直これが世間一般で言われている「恋」なのかどうか、最初はよくわからなかった。
ただ、彼のことを思うと顔が自然とゆるんで鼓動が早くなるのだから、きっとこの感情に名前をつけるならば「恋」なんだろう。
前の晩、ツムギは家まで送ってくれた。
「電灯がほとんどないけど、いつもここ通ってるの?」
と彼は聞いた。
うちは山のふもとにあり、夜になると真っ暗だ。
「うん。
ずっとここに住んでるから慣れてるけど、確かに暗いよね。」
途中まで私は自転車の荷台に座っていたが、坂道に来ると荷台から降りて、2人で並んで歩いていた。
同じ歳の男の子と2人で並んで歩くなんて、よく考えたら初めてのことだった。
並んでみると、思っていたよりツムギは背が高かった。
少し下から見上げた横顔に思わず見惚れた。
きっと彼は一般的に「かっこいい」のだと思う。
でも、周りにもかっこいい男の子はいるけど、私は今まで見惚れたこともなかったし、誰かを好きになったこともなかった。
きっとツムギに会った時の第一印象が強烈に惹かれたんだと思う。
端麗な容姿に惹かれたというより、あの一筋の涙に心を奪われたのかもしれない。
それと、人生についての話にも。
同い年の男の子とは全然違うのだ。
彼には今までどんなことがあったんだろうか。
1人であれこれ考えていると、落ちている石につまづき、思わずよろめいた。
「大丈夫?」
咄嗟にツムギに腕を掴まれ、私はドキドキした。
「ごめん。ボーっとしてた。」
「暗闇でボーっと歩いてたら危ないよ。
今日は俺のせいで遅くなっちゃったけどさ、あんまり遅い時間に女の子が一人で歩くのはやめたほうがいいと思うよ。」
普通に心配してくれていて嬉しかった。
「うーん、確かにそうだよね。
変な人いるって話聞いたことあるし。」
「俺がいる時は送るね。」
「ありがとう。
あ、そう言えば、ツムギは夏が終わると、どこに帰るの?
ここから遠いところ?」
私はずっと気になっていたことを思い切って切り出した。
「うーん、遠いと言えば遠いな。
アメリカなんだ。
ニューヨークの郊外。」
「へ?アメリカ??」
私は目が点になった。
しばらく立ち尽くしていた私を見てツムギは
「あ、ごめん。
言ってなかったっけ?」
と少し笑って言った。
「聞いてないー!
そういう大事なこと、早く言ってほしかったよ。」
自分でそう言ってみたものの、私たちはまだ出会って3日目だった。
そう思うと、私がプリプリ怒るのもおかしい話だった。
「なんかさ、会えなくなると思うと寂しいじゃん。
だったら、先のことはおいといて今この瞬間を楽しもうって思って。」
ツムギは真剣な顔でそう言った。
会えないのが寂しい、という言葉が私の心をくすぐった。
しかし、すぐに現実に戻された。
そうか、ツムギはもうすぐアメリカに行ってしまうんだ。
もう会えないじゃないか。
今この瞬間のことだけを考えるなんて、私にはできない。
いろんな感情が渦巻く中、出てきた言葉は
「そうかー、寂しくなるな。」
だった。
もっとたくさん聞きたいことがあったが、もう家に着いてしまった。
私が暗い顔をしていたので、彼は元気づけようとしたのか、
「ねぇ、明日は夕方から会わない?
そしたら、もっとたくさん話せる」
と笑顔で言った。
「うん、いいよ!」
私の顔はパッと明るくなった。
我ながら単純だ。
ころころと変わる心、これが恋なのかな。
私は昨日のことを思い出しながら、生まれて初めて感じる気持ちに想いを馳せた。
彼がアメリカに戻ってしまうという事実を知って、その気持ちを心の奥底へと押しやろうとしている自分もいる。
このままツムギを好きになってしまっていいものか、どこかで警告音がなっていたが、私の心は今日これからのことを思ってワクワクしていた。
今日は夕方からツムギに会えるんだ。
もういいや、いろんな感情に振り回されてしんどいけど、今日は彼と会えるんだ。
何着て行こう。
女の子は忙しい。
私の心は初めての恋を素直に喜んでいた。
「夕香子、昨日遅かったじゃん。
しかも、男の子と一緒にいた?
あんたもついに彼ができたんだねぇ、
また話聞かせてよ!
じゃ、バイト行ってくるから〜!」
と一方的に喋るだけ喋って出て行ってしまった。
2つ年上の美香子は私とは正反対の性格で、昔から活発で社交的。
男女問わず、友達が多かった。
少々短気なところがあり、かなり激しい口調で怒られることもあったが、
モノマネが上手で一緒にいると楽しかった。
恋にも積極的だ。
現在高校2年生の彼女は今現在、夢中になっている恋人がいて話はもっぱら彼のことばかりだ。
恋をするたびにどんどん綺麗になっていく彼女を見て、自分にもそんな日が来たらいいな、
と私は密かに思ってはいたが、ルーティンのような毎日のなかでそんな素敵な出来事が起こるとは思えなかった。
しかし、あの満月の夜から(よく数えてみるとたった3日前のことだけど)私の日常は変わった。
今日は彼と会えるだろうか、と考えるだけで1日の始まりがとても楽しい気分になったし、目に映る全てが色鮮やかにキラキラと光って見えるようになった。
私はベッドに横たわりながら昨日の夜のことを思い出していた。
昨日は不思議な話をたくさんしてくれたなぁ。
人生とは、みたいな深い話。
すごく面白かったし、もっと聞いていたかった。
会ったばかりなのに、昔から知っているような、心の深い部分で惹かれているような感じもして、正直これが世間一般で言われている「恋」なのかどうか、最初はよくわからなかった。
ただ、彼のことを思うと顔が自然とゆるんで鼓動が早くなるのだから、きっとこの感情に名前をつけるならば「恋」なんだろう。
前の晩、ツムギは家まで送ってくれた。
「電灯がほとんどないけど、いつもここ通ってるの?」
と彼は聞いた。
うちは山のふもとにあり、夜になると真っ暗だ。
「うん。
ずっとここに住んでるから慣れてるけど、確かに暗いよね。」
途中まで私は自転車の荷台に座っていたが、坂道に来ると荷台から降りて、2人で並んで歩いていた。
同じ歳の男の子と2人で並んで歩くなんて、よく考えたら初めてのことだった。
並んでみると、思っていたよりツムギは背が高かった。
少し下から見上げた横顔に思わず見惚れた。
きっと彼は一般的に「かっこいい」のだと思う。
でも、周りにもかっこいい男の子はいるけど、私は今まで見惚れたこともなかったし、誰かを好きになったこともなかった。
きっとツムギに会った時の第一印象が強烈に惹かれたんだと思う。
端麗な容姿に惹かれたというより、あの一筋の涙に心を奪われたのかもしれない。
それと、人生についての話にも。
同い年の男の子とは全然違うのだ。
彼には今までどんなことがあったんだろうか。
1人であれこれ考えていると、落ちている石につまづき、思わずよろめいた。
「大丈夫?」
咄嗟にツムギに腕を掴まれ、私はドキドキした。
「ごめん。ボーっとしてた。」
「暗闇でボーっと歩いてたら危ないよ。
今日は俺のせいで遅くなっちゃったけどさ、あんまり遅い時間に女の子が一人で歩くのはやめたほうがいいと思うよ。」
普通に心配してくれていて嬉しかった。
「うーん、確かにそうだよね。
変な人いるって話聞いたことあるし。」
「俺がいる時は送るね。」
「ありがとう。
あ、そう言えば、ツムギは夏が終わると、どこに帰るの?
ここから遠いところ?」
私はずっと気になっていたことを思い切って切り出した。
「うーん、遠いと言えば遠いな。
アメリカなんだ。
ニューヨークの郊外。」
「へ?アメリカ??」
私は目が点になった。
しばらく立ち尽くしていた私を見てツムギは
「あ、ごめん。
言ってなかったっけ?」
と少し笑って言った。
「聞いてないー!
そういう大事なこと、早く言ってほしかったよ。」
自分でそう言ってみたものの、私たちはまだ出会って3日目だった。
そう思うと、私がプリプリ怒るのもおかしい話だった。
「なんかさ、会えなくなると思うと寂しいじゃん。
だったら、先のことはおいといて今この瞬間を楽しもうって思って。」
ツムギは真剣な顔でそう言った。
会えないのが寂しい、という言葉が私の心をくすぐった。
しかし、すぐに現実に戻された。
そうか、ツムギはもうすぐアメリカに行ってしまうんだ。
もう会えないじゃないか。
今この瞬間のことだけを考えるなんて、私にはできない。
いろんな感情が渦巻く中、出てきた言葉は
「そうかー、寂しくなるな。」
だった。
もっとたくさん聞きたいことがあったが、もう家に着いてしまった。
私が暗い顔をしていたので、彼は元気づけようとしたのか、
「ねぇ、明日は夕方から会わない?
そしたら、もっとたくさん話せる」
と笑顔で言った。
「うん、いいよ!」
私の顔はパッと明るくなった。
我ながら単純だ。
ころころと変わる心、これが恋なのかな。
私は昨日のことを思い出しながら、生まれて初めて感じる気持ちに想いを馳せた。
彼がアメリカに戻ってしまうという事実を知って、その気持ちを心の奥底へと押しやろうとしている自分もいる。
このままツムギを好きになってしまっていいものか、どこかで警告音がなっていたが、私の心は今日これからのことを思ってワクワクしていた。
今日は夕方からツムギに会えるんだ。
もういいや、いろんな感情に振り回されてしんどいけど、今日は彼と会えるんだ。
何着て行こう。
女の子は忙しい。
私の心は初めての恋を素直に喜んでいた。
「文学」の人気作品
-
-
1,126
-
193
-
-
145
-
266
-
-
115
-
59
-
-
37
-
42
-
-
20
-
2
-
-
19
-
39
-
-
17
-
24
-
-
17
-
13
-
-
14
-
43
コメント