異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?

66話 昇格試験



 終始無言のシスティさんに連れられて、修練場のような場所へ移動した。

 その間に俺が何か言おうとすると「この状況でナンパですか?くそ虫さん」と遮られた。

 その言葉で、何となく察しが着いた。恐らく昨日の見知らぬギルドの職員の事だろうと。

 でもそれを知ったところでもう遅い。弁解の隙も与えてくれない。

「もう少しすれば支部長が来ると思いますので、それまでお待ちください。それでは私は仕事に戻りますので」

「え、あ、あの....」


 俺がなにか言おうとしても、見向きもせずに修練場から出ていった。



「まいった..」


 本当に全部自業自得とはいえ、どうしたもんかなぁ...

 悩んでいると、ミスラが隣でクスクスと笑っていた。

「どこが面白いんだよ...」

「す、すみません..だって祐が女性に見下されてるのを見るの初めてだった気がして...ぷっ」

おい

「最初の頃は見下してたのはどこのどいつだよ」

「私のはノーカンですよ」

どういう理屈だ。




「お待たせしてすみません。佐野さん」


 すると、俺達が来た方向から支部長のウェストさんともう1人、冒険者らしき男性が修練場に入ってくる。


「いえ、そんなに待ってませんよ。それで、俺は何をすればいいんですか?」


 修練場なんかに来た時点でだいたい予想はついていたが、一応聞いておく。


「そんなに時間は取らせませんので安心してください。佐野さんにはギルドランク金への昇格試験をしてもらいます」

やっぱりそういう系か。


「....まぁ、だいたい察しはついてますが、どういう試験ですか?」


「俺と戦って、金ランクに相応しい力量があるかを確認する。俺が認めれば合格だ」

 支部長の後ろに立っていた男性が前に出て話す。


「失礼、自己紹介が遅れた。俺の名前はギザルド。ギルド本部の金ランク冒険者だ」

「佐野 祐です。よろしくお願いします」

 ギザルドさん。身長は180程度で、灰色の髪に鋭い目付き、まるで狼を思わせるような威圧感がある。そして俺を見るギザルドさんは懐疑的な目をしていた。

 お互い挨拶が終わると支部長が再び口を開く。

「では早速始めましょうか。お二人共、準備は出来ておりますか?」

 支部長の言葉に俺とギザルドさんは頷く。


「修練場の真ん中の方へ移動してください、始めの合図は私がしましょう」


 俺はその言葉に従い、修練場の真ん中へ歩いていく。その間、俺とギザルドさんの間に会話はない。



「準備が出来たようですね。この試験は佐野さんの力を試すものです。ですから佐野さんは魔法、スキル、剣、なんでも使っていいので自分の力を示してください。もちろん、本気で」


「.....は、はぁ........」

 本気、か。ステータス的にいえば、俺は圧倒的な力がある訳では無い。となるとやはり、変わってくるのは技術面でどこまで出来るかという所になるが.....


「安心しろ、お前が本気を出したとしても、誰も傷を負う心配はない」

「.......」

 少しだけイラッと来たが、この時点ではなんとでも言える。過信してる訳じゃないが、経験なら詰んできた。


「分かりました。本気でやります」

「それが懸命だ」

 どこまでも人をイラつかせる奴だな。まぁ、本人は事実を言ってるだけって感じで煽ってる感じではないけれど。



「時間は無制限、本気でとは言いましたが魔法の場合は範囲をしっかり考えて打ってください。それでは──試験開始っ!」


 俺は次元水晶から黒曜剣を抜刀する。ギザルドも同様に腰に帯刀していた剣を引き抜く。


(やっぱり剣でくるか)


 何となく感じた。魔法は使わなそうなイメージは当たってたようだ。


 だが俺は「本気で」やると言った。だから相手が剣を使うとしても俺は俺の方法で戦う。


「『身体強化ブースト』〝ファイアー!〟」


 体全体の基礎的能力の強化に加え、初級魔法とは思えない規模の〝ファイアー〟がギザルドを襲う。

「甘い!」


 だがギザルドは剣を体の中心に持っていき、上段の構えを取ると同時に、ふり抜く。


 火炎放射のようにギザルドを襲った炎は、剣の勢いにより真っ二つに割れて消え失せる。もちろんギザルドは無傷。


「....む、いない......?」

 先程祐がたっていた場所を見ると、そこには誰もいないことに気づいたギザルド。その時点で〝ファイアー〟は陽動だということに気づく。

「こっちだ!〝付与エンチャント ファイアーブレス!!〟」


 右側から回り込んできた祐が刀身に吹き出すような炎を纏わせる。これにはギザルドも目を見開き、回避する。

「チッ....〝ファイアー〟〝ウィンド!!〟」

 立て続けに次の魔法を放つ祐。今度は先程の炎に、ウィンドをぶつけて威力と範囲を拡大させ、剣では対処できないほどの熱量になった炎をギザルドに向けて放つ。




 それでも涼しい顔を崩さないギザルド。


白狼流はくろうりゅう───千牙斬せんがざん


 ギザルドは剣を片手に持ち替え、ギリギリ目で終えるほどの速さの連撃を無数に放つ。



 炎は一瞬で消えはしなかったが、ギザルドの周りはまるで魔法でバリアされてるかよ様に炎が一切届いていない。


 やがて魔法の効果時間が切れ、炎が自然と消えると、またもや無傷のギザルドがこう言い放つ。


「この程度ではダンジョン攻略も骨が折れたのではないか?」

 それは暗に、「よくこんなに弱いのにダンジョンを攻略できたな」と言われている。


「....これからだろ」


 本音だ。どれくらいやっていいのか分からなかったからこそ、小手調べから始めたのだ。

「そろそろ俺からも行くから、防御しろよ?」

 言われなくてもしてやる。と思ったその瞬間、ギザルドが消えた。


「んなっ!?」


 人間の速さじゃない。初見なら絶対に見切るのは無理だっただろう。

 だが、その瞬足のごとき速さは、ケンタウロスで経験済みだ。目は一点を見ず、常に全体を均等に把握し、あと頼れるのは反射速度だけ。


ガキンッ!

「ほう、止めたか」


トクン




「もう合格にしてくれてもいいんだぜ?」


「抜かせっ!」


 ギザルドは再度距離を取り、剣を突くように構える。



「白狼流──群刀。一刀!!」


 そして、ギザルドは純粋な突きを放ってきた。だが、早すぎるため受けるのは不可能。避けるしか選択肢がなかった。危なげなく避けた俺は、反撃しようのする。だが───


「二刀!!」


 立て続けに突きを放ってきた。しかも今度は同時に見えるほどの2連撃。

 ギリギリ躱し、今度こそ反撃しようとするが、

「三刀!!」

(くそっ!何回やるんだよっ!!)

 流石に横の動きでは避けきれないと察した祐は、後ろに飛んで下がるが、ギザルドはそれを許すはずもなく、一瞬で間合いを詰める。

「四刀!!」

 次は同時の4連撃。後ろに飛んだら次は確実に当ててくる程の圧を感じ、ようやく慣れてきた目で一撃目と二撃目は剣でいなし、三撃目は少々ギリギリで躱す。



ドクン



「幻刀っ!」

 四撃目は間に合わないと察し、1人だけ幻刀で分身体を出現させ俺にタックルさせて無理やりな緊急回避。四撃目は分身体に突き刺さったが、その結果ギザルドは勢いが止まった。


「......ほう、手応えのある分身か。面白い、それを沢山出せば勝てるかもしれんぞ?」


「バカ言うな、全部切り捨てられて無駄に魔力を使うだけだろ」


「その通りだ。だが、多少は俺を疲労させられるだろう」


(対人の戦いがこんなにきつかったのか........)

 ダンジョンじゃ知性のある魔物はいても、巧みに攻撃してくる魔物は居なかった。ダンジョンを出た時に会った盗賊達は論外。結果、ダンジョンとは違うタイプの苦戦をしてるかもしれない。


 高度な駆け引きを迫られる戦闘。だが、何故かそれを楽しく感じてる自分がいる。そして、何となくわかる。この高揚感は、きっと前世のものだ。


ドクンッ!


 


***




(中々筋はいい、だが何故だ。こいつの剣には何かが足りてないような....)



 いや、元々は新人冒険者、ダンジョン攻略者とはいえ、技量足らずなのは当たり前ではある。だが初心者の経験足らずの剣とも思えない。まるで、経験だけが先行して精神が追いついていないような......


(何をばかげたことを考えてるのだ。全く意味が分からんではないか)


 ギザルドは違和感を感じていた。けどそれが明確に分からない為、モヤモヤしている。だがこれはあくまで試験、関係の無いことは考えずに、正確な力量を測るべきだと。

「疲労?....はっ!それはこっちのセリフだぁ、お前は俺を疲れさせることさえ出来ねぇよ」


(....な、なんだ....?急に性格が変わっていないか?)


 ギザルドは一瞬驚きはするが、それだけ。戦闘の中で性格が荒々しくなるものなど幾らでもいる。だから疑問は感じない。


「ならば来るがいい、力を示せ」

「生意気だなぁ....俺はお前の大先輩だぞ?」

 本当に、性格が変わりすぎている。先輩という言葉には疑問しか湧かないが。



 祐は突っ込んだくる。先程とは打って変わって魔法に頼らない戦法。何を考えている。

 そして、そのまま剣を横薙ぎに降る。


速さはない、回避も可能。だが、何となく俺はその剣を受けたくなった。


ガキィィンッ!


 剣と剣がぶつかる。それと同時に祐は言葉を放つ。


「滅竜式、二の太刀────〝雷破らいは〟」


 次の瞬間、俺の体は軽々と吹き飛んだ。


「ぐっ!」


 剣を地面に突き立てて何とか勢いを殺して止まる。


(なんだ....今のは)


 あいつの横薙ぎを完全に受け止め切った後にきた衝撃、一切の剣に力が篭ってないあの状況でこんなことが出来るはずがない。



「なぁ」


「....なんだ」


「お前さ、冒険者じゃねぇだろ?」


 これは驚いた。いや、当てずっぽうか?

「何故、そう思う?」

「誇りが冒険者ごときのもんじゃねぇからだよ。どちらかと言えば....お偉いさんの護衛騎士とかそんな所か」


「ほぅ、これは驚いた。まさかそこまで気づかれているとは」


 ここまで正確に言い当てられては、当てずっぽうという訳では無いだろう。


「だが、何故そんなことがわかった?今までも自分の正体を隠して冒険者を名乗ることがあったが、ここまで正確に言い当てたのはお前くらいだぞ」

「だから言ってんだろ、俺はお前の先輩、いや大先輩だって」


「........ならひとつ言わせてもらおう。お前の技は、騎士の誇りなど微塵もないものだと」


 剣術であんな芸当はできない。動かしていないどころか、力さえ加えていないのだから。だから、あんなことをできる要素はただ一つ。魔力だ。つまりあれは、完全に魔力に頼った技。剣術でもなんでもない。


「あぁ、あんなのは剣術じゃねぇよ。だから『流』じゃなくて『式』って言ってんだろ?俺はただ、手段として持ってるだけだ。火力は申し分ねぇからな」


「そこに騎士の誇りがないと言っているっ!白狼流───千牙斬っ!」



 俺は佐野 祐の目の前まで一瞬で間合いを詰め、無数の剣を繰り出そうとした。が、佐野 祐は漆黒の剣を地面に突き刺し一言。


「雷破」


 地面が抉れ、足場が揺れる。


「これ如きで.....止められると思うなぁっ!!!」


 俺は技を継続させる。


「滅竜式  五の太刀─────無千むせん


 途端、見えない無数の斬撃がギザルドを襲う。


「ぐはっ!」

 軽く10回はまともに受けてしまい、技が中断され、何も出来ないまま動きが止まる。

 傷は深くはないので戦闘続行は問題なくできそうだ。

「.....もはや、剣までも使わないか、どこまで誇りを捨てている」

「......誇り..ねぇ。.........んなくだらないもん。早めに捨てといた方がいいぞ」


 こいつの言葉には、嘲りや侮蔑は一切ない。それが分かっているからこそ、何を考えているのか分からない。そもそもやはり、騎士ではないのかもしれないと思ってしまうほど。

「何故」

 気づいたら聞き返していた。


「お前が誇りを持ってたところで、守れるものなんて何も無いんだよ」


「.....ふっ......どうやら取り越し苦労だったようだ。お前にも信念があるように見えたが、そのお前の言葉でも、俺は誇りを捨てることは出来ない。騎士とはそういう生き物だ」

「.....あっそ。んで、どうする?続けるか?」


 気づけば最初に感じていたモヤモヤとした感覚は無くなっていた。今のこいつは精神と経験が完全に噛み合っている。

「....あぁ、最後に土産だ。取っておけ。白狼流奥義────阿修羅!!」


 完全同時攻撃の六連撃。突き、振り下ろし、横薙ぎ、居合、切り上げ、袈裟切り。一本で受けきるには同等以上の反応速度と速さ、そして力が必要だ。先ほどの剣を使わない魔力の斬撃では力不足で剣を止めることは難しい。俺を狙ってきたのなら先程同様にまともに受けてしまうだろうが、無視だ。どんなに斬られてもこの奥義だけは絶対に中断しないという覚悟がある。誇りと言ってもいいかもしれない。


「おもしれぇな。それじゃあ俺も少し、奥の手を出すぜ。     瞑刀めいとう


 祐は目を瞑った。そして中段の構えをしてただひたすら動かない。


(諦めた....?いや.........)


 何か、尋常でないものを感じたが、それを見てみたいと思ってしまうが剣士の性だ。


「うぉぉぉぉぉっ!!」


 祐に迫る六連撃。回避困難、防御はさらに困難。そんな技を前にして、祐は───



 全てを正確に、ギザルドの奥義を上回る速度でいなした。


 それに加え、逆袈裟斬りで反撃する。


「なっ!?......ぐっ.....!」


 完全同時六連撃なんてものを放ったあとに、カウンターを防ぐ術なんてないギザルドはそれをまともに受ける。



(今のは....魔力ではなく、正真正銘の剣術........)

「今のは.....なん..だ」

「ただの我流だよ」

「そう....か」


 嘘をついているようには見えない。真実だろう。だが、それならば.....


(何が誇りを捨てろだ.....お前こそ、自分自身の剣への誇りを捨てきれていないでは....ない...か)



 そこで俺の意識は飛んだ。




 

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