異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?

58話 帰還

変化のない草原をずっと進み、飽きもあり、ようやく疲れを感じ始めた時、街が見えてきた。


 その街の光景が、そう何度も見てる訳でもないのに、俺は懐かしく感じてしまった。


 だが、感嘆が漏れたのは俺だけではなく、ここで過ごしてきて、もう戻れないと思っていたであろう、盗賊に捕まっていた人達だ。


 子供達は笑い合い、大人は抱き合って喜びを分かち合う。


 最初、俺は自分で「らしくない」事をしているなと自覚していた。名前も顔も知らない他人を助けようなんて、思ったことがなかったし、その時だって別に助けたいと思った訳では無い。仲間を危険に晒すくらいなら、そんな事しない方がいい。そう思っていた。


 ミスラに言った通り、俺は聖人じゃない。むしろ、身内さえ守れれば他はどうだって良いと思ってるクズだ。

 だから、これはただの気まぐれ。そして、その気まぐれで俺が思ったこと。それは──

「.....良かった....かもな」


 きっとこの人たちを助けなくても、俺はどうとも思わなかっただろう。この笑顔を見た後だったのなら、分からなかったが...


「後悔がないなら、いいんじゃないですか」

 誰にも聞こえない声量で言ったと思っていたのに、それを聞き取ってしまうミスラ。そして、その隣でわざとらしく鼻歌を吹くシュナ。どうやらこっちにも聞こえてたらしい。

「....なんだ、やっぱ気づいてたのか」

 盗賊達に絡まれた時からずっと2人が大人しくしていると思ったら、わざとだったらしい。

「祐のする事に異論はないですよ。たとえあの時、捕まってる人達を見捨てていたとしても、幻滅なんてしてなかった思います」

 聞いても無いことをペラペラと.....なんか全部お見通しって感じで恥ずかしいんだが.....

「....でも、ありがとな」




***




 街の目の前へ着き、そのまま入ろうとした俺へ、門番が大慌てで止めてきた。


「おい!そこの男!何をしている!!」


 なんだなんだ、何かトラブルか?この街結構治安いいと思ってたんだけどなー、誰だよ面倒を起こしてる奴は。

「おい止まれ!止まらんと斬るぞ!!」

 おいおい、暴力沙汰か?ここは早く街の中に入った方が良さそうだな〜


 そして、後ろに引き連れる52人に、早く入るように指示しようとしたが、そこで気づいた。


 52人のうち、50人が俺の事を面倒を起こしてる奴のような目で見ている事に。


.....え、まさか面倒起こしてるの、俺?


 先程から大声で何度も忠告している門番さんに、初めて目を向けると俺に向けて武装して構える姿があった。


「.....えーーっと..............なんすか?」


「なんすか?だとぉぉ!?」


「い、いや。だって俺別に何もしてないじゃないですか.....」


「身分証も見せずに、こんな数を連れて無断で街に入ろうとしてきた奴が何を言う!!詰所に来い!」


げ......それは絶対に面倒なことになる....なんとか避けなければ。


「い、いやぁ!すみません。自分世間知らずでしてっ、身分証ですね、はい!これでいいですか?」


 俺が素直になったことで多少落ち着いたのか、門番さんは剣を収め手渡されたステータスカードを確認する。


「.......ふむ、問題ないな....で?その人数はどういう事だ?」


「実は道中盗賊に襲われまして、何とか無力化したのですが、たまたま、ほんっとーに偶然無力化した盗賊のアジトが有ったんですよ。だからそこに捕まっていた人たちも助けた結果、この人数になったということです」


「......事情は分かった。ではこちらで引き取ろう。捕まっていた者は身分確認ができたのち、家へと返す」

「はい、お願いします」


 人数も人数なので、門番は応援を呼び、数人の兵士が来ると、手際よく盗賊達と捕まっていた人達を先導する。


 それを見届ける俺とミスラにシュナ。


 そろそろ収集が着きそうになったところで、一人の女性が俺のところへ来る。


「........佐野さん。改めて、私たちを助けて頂いて、ありがとうございました」

 俺の目の前へ来たレスティアさんは、感謝を述べた。

「えぇ、どういたしまして。また捕まることがないように、気をつけてくださいね」

 

「...は、はい.......あの..出来れば今度お礼を......」

「はぁ、気にしなくても良いんですけど...」

 本当はきっぱり断ろうと思っていた。別にそこまでして貰う事じゃない。感謝一つで十分だ。けど、今までオドオドしていた雰囲気のレスティアさんが、この時に限って言えば、「絶対」を思わせる雰囲気があった。

 それを見て、今度は逆に俺がオドオドしてしまった。


「是非、お礼をさせて欲しいのです。機会が御座いましたら、ギルドのすぐ後ろにある酒場へお越し下さい。私はそこに居ますので」


「.........分かりました」

 家族に紹介してお礼と言う名の拷問に掛けられるのかと思ったが、酒場と言うのなら少し安くしてくれたりとか、そんな所だろう。

 それならば、今のレスティアさんを振り切るよりは、受け入れた方が楽な気がしたのだ。了承した結果、レスティアさんは軽く一礼して門番さんの所へ小走りで走って行った。




「....じゃあ、俺らは取り敢えず...ギルドかな」

「そうですね。ダンジョンをクリアした事を言ってこないと」

「それなんだけど、大丈夫なのか?ギルド側が信じるとは思えないけど」

「安心してください。ダンジョンをクリアした証もありますし、それに」


 ミスラが何か言いかけた時──

「悪かったね待たせてしまって、じゃあ君たちも身分確認を済ませてしまおう」


「あぁ、門番さん....ん?身分確認?俺はもうしなかったっけ?」


「君は済んでるよ、だからそこの2人さ」


 門番さんは俺の後ろにいるミスラとシュナに目を向けた。ますシュナをみる。角が目立つが、この街には角の生えた人が居たことは知っている。だから予想通り、それについては門番さんは特に目立った反応を見せない。

 そして次にミスラに目を向けた。ミスラの顔より下にある2つのエベレストに。


男の性だな。


(.......って、そんなこと今はどうだっていい!それよりも!2人の身分確認の事考えてなかった!!!)


 待て、落ち着け。こんな時こそ冷静に....まず、俺がこの世界に来た時、警備の人に身分を証明するものがなくても驚いていなかった。つまり、それが無くても街に入ることは出来るということ。


 とにかく冷静に、俺は慣れてるように軽い感じで門番さんに言葉を発する。


「あー、実は旅の者なんですが、この二人はまだ初旅で身分証明するものが無いんです」


 どうだ。この何となく慣れてる感じでこの人は大丈夫だと思わせる作戦。

 きっと、身分を証明せずとも街に入る方法はあるはずだ。例えば、1人でも身分証明出来ていればいい。とかな。


「そうか。じゃあその二人は一人銅貨10枚だ」

「あぁ、これでいいか?」

 俺は、瞬時に通行料か何かだと察し、躊躇せずに皮袋に入ってる次元水晶から銅貨20枚を取り出して手渡す。

「よし、おーけーだ。通っていいぞ....っと、その前に1つ」


 安心するのはまだ早いらしい。何が来ても答えられるように一言一句聞き逃さない。


「今回盗賊がアジトとしていた場所の提示をしてくれ」


 今から無人のアジトに何の用が有るのだろう。もうあそこには財宝も何も無い。俺が回収したから...........あ、なるほど。


「あー、それはですね。あっちの方向にずっと突き進んで行くとありますよ。洞窟をアジトにしていたようです。歩きで直ぐに着きますから馬車を引く必要は無いと思います」

「そうか、協力感謝する」

「財宝の回収かなにかですか?」

「.......それは君には関係ない」

 嘘下手かよ。もうちょっと真正面から目を見て即答するくらいしろよ。まぁでも嘘をつくという事は、公式ではないと見える。けど、一応保険は付けとくか。


「まぁ、なんでもいいですけど、あそこら辺盗賊が多いらしくて、無人のアジトとなると、もう何も残ってないかもしれませんね〜」

「そ、そうか。分かったもういいぞ」


「お仕事お疲れ様でーす」


 言うことだけ言って門を通る。チラッと後ろを見ると小走りで走り出す門番の姿が見えた。恐らく小遣い稼ぎに行く準備だろう。


 ふと、二人を見ると、そこにはジト目のシュナとミスラの姿があった。

「汚イ」

「汚いですね」


「あそこで正直に、アジトにあった財宝は俺が回収した。とか言ったらめちゃくちゃめんどくさい事になってたからな?」


 最悪、「盗賊たちの遺留品は国で預かることになっている」とか言いかねない。


「そうですね。私やシュナの身分が定まってないのもありますし、この状況での面倒事は大変なことになる可能性もありますしね........それで、本音は?」

「財宝を取られるのが嫌だったから」

「そんなことだと思ってましたよ......」


 ミスラは呆れた顔をして俺を見る。


「ほらそれよりも、そろそろギルドに着くぞー」


 早くギルドで確認したいこともあるんだ。急がなくては。






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