異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?
57話 ボーナスステージ II
盗賊たちをロープで縛った後、アジトの中を見ると案の定、女子供が幽閉されていた。
 取り敢えず全員解放してアジトの外へと出させた。
「これで全員か」
 数にして20人程度だった。
「あ、あの......」
「はい、なんですか?」
 幽閉されていたお姉さんに喋りかけられた。年上っぽかったので一応敬語で。
「私たちを....どうするおつもりなんでしょうか..」
 あ、そっか、外に連れ出す時一言も助けに来たなんて言ってなかったな。
「安心してください。あなた方を解放するために来ました。盗賊達ならあそこに縛ってあります」
 確かにロープで縛られている盗賊達が馬車の横に座り込んでいるのを見たお姉さんは驚いたような顔をする。
「お、お強いんですね....」
「....はぁ、まぁ」
 自分で言うのもなんだが、ずっとダンジョンにいたせいで、俺は結構人見知りだったということを忘れていた。
「あ、申し遅れました。私はレスティアと言います。...えっと.....」
「......?..........あぁ、すいません。俺の名前は佐野 祐です」
 どうすればいいか分からなくて、自分の名前を名乗る事すら忘れてしまった。賊と出会った頃は怒っていたから、そんな事気にしてる暇などなかったし。
「佐野さん、ですね。....まずはその、助けて頂いてありがとうございました」
 こんな時、どうすればいいんだろう。そう言えば、学校にいた頃も、人と接するのが苦手で友達が居なかったんだったか......
「えー...はい、どういたしまして」
「「........」」
 やばい、もしかしたらと思ってたけど、このレスティアって人も人見知りの類だ。なんか仲間意識を感じるし。
 そんなしょうもないことを考えているうちに、二人は沈黙してしまう。
 二人とも、何を話せばいいか分からなくなってるだけなのだが、それを遠目から見てるミスラとシュナには、違う空気に見えてしまったようだ。
「祐。何してるんですか?」
「え?...いや、この人と少し会話を.....」
「少し...?随分甘酸っぱい空気が流れてるようですけど?」
.......どこが?
「貴方も、気をつけた方がいいですよ。この男、ケダモノですから」
「け、ケダモノ?」
 おーい、ミスラさーん?
「祐は、ケダモノ......ケダモノって、なニ?」
 後で教えてあげるからシュナ!今はやめてくれ!
「シュナも気になってるようですね。ここで言うケダモノというのは───」
「あーもう!甘酸っぱい空気も流れてないし俺はケダモノでもない!取り敢えず聞くことがあるから二人は盗賊の監視!!!」
 不服そうにしながらも、はーいと返事して引き下がった。
「はぁ...あ、すいませんレスティアさん。騒がしくなっちゃって」
「い、いえ、そんなことはっ」
「そうですか?それなら良かった。それで聞きたいことがあるのですが───」
 不思議とミスラ達が来てから肩の力が抜けて、普通に話せるようになっていた。まさか二人ともそれを察して.......いや、ないな。あの顔は本気と書いてマジだった。
***
 レスティアさんと情報交換をした所。捕まっていた人達は全員クレイアスの住人らしい。そして、流れでクレイアスまで護衛をすることになった。ここからクレイアスまでは歩きでも半日程度で着くらしい。
 元からほっとくつもりもなかったし、クレイアスまでの道のりも分からなかったので快く受け入れた。
 捕まってた人達は家族が多いと言うのも分かった。まぁ当然といえば当然だろう。そういう人たちを襲っていたのだから。
 そして今は、総人数50人と3人で移動中。
 子供などは馬車に乗らせ、他は歩き。
 俺は周りに魔物が居ないか警戒はしながら、盗賊達を引き連れて馬車の後ろを歩く。
「あ、あの....佐野さん」
 特に会話も無く歩いていたら、レスティアさんが近くに来て声を掛けてきた。
「何かありました?」
「あ...いえ、大したことではないのですが、佐野さんのような強い方が、どのような理由でそんなにボロボロに......と、思いまして......あ、言えないのならいいんですっ少し気になっただけでしたので」
 確かに、見てみれば服は沢山の穴が空いてたり、血の跡もついている。まぁ、後者は龍の血でもあるんだが。
 それに、レスティアさんが気を使って言わなかったのだろうが、そもそも片腕がない。傷口は塞がってるが、どう考えても新しく出来たものだと分かる。
んー、正直に言っても信じてくれるはずがないよなー、賊のせいにしてもいいが、当の賊達は死んだ者以外は無傷、激戦の後とは到底思えない。どうするか.....
「ダンジョンを攻略したからですよ」
 どんな言い訳にするか考えていると、いつの間に隣に来ていたミスラがとんでもない事を言った。
「ちょ!おい、ミスラっ」
「どうせ、ギルドに戻れば公開される情報ですよ?信じなくったって後々分かります」
 え、?ギルド?
 ギルドに「ダンジョンをクリアした」と言っても、そのギルドが信じないんじゃ......
「だ、ダンジョン....ですか?」
「えぇ、そうです。レスティアさんでしたか?私はミスラ。この隣にいる祐の妻です」
「え、えぇぇ!?で、でもっ....まだ子供..............」
あ、やばい。レスティアさんの目がゴミを見る目だ。
「あっはっはっ大丈夫ですよレスティアさん。よくいるじゃないですか、お父さんのお嫁さんになるとか言う子供。つまりそういうことです」
 至って真顔で全く焦ることなく、弁明する。
「あ、あぁ!そうですよね!ごめんなさい、早とちりしちゃって....」
 良かった、危うく印象最悪になるところだった。ずっと隣で張り付くような笑顔を向ける神様がいる気がするけど、多分気の所為だな。
 危機は去ったと思い、ひとまず安心した。が、そんな時が1番危ない時であって、
「祐、愛人でも、いいヨ?」
 後ろから大きい爆弾を投下する幼女がいた。
「あ、あああ愛人っ!?」
「レスティアさん!?違いますからね!?」
「あわわわわわわ!」
 あ、ダメだレスティアさんパニックになっちゃって声が聞こえてない。
 俺は、恐らくシュナに変なことを吹き込んだ犯人を見る。
「ミスラさん...?シュナに何かおしえました..?」
 
 するとミスラは、張り付いた笑顔はそのまま、こう言った。
「大丈夫ですよ、意味を知らずに言わせてるだけなので」
「そういう意味じゃないわ!」
***
 その後、正気に戻ったレスティアさんにどうにか誤解を解くのに1時間かかった。その間ずっとゴミ、いやゴミ以下の生物を見る目はなかなかに応えた。
「佐野さん、すいません。私はまた早とちりを.....」
「い、いえいえ。誤解させるようなことを言ったのはこっちですし」
 はぁ....なんか妙に疲れたな。人付き合いって、こんなにも大変だったっけ....
 護衛だし、不安にさせない為にも悪い印象は持たせないようにしようとしたら、何故かミスラとシュナがそれを邪魔してくるように見えるのは、勘違いだろうか。
 一応聞いておこうか
「ミスラ」
「なんですか?女たらし....じゃなくて祐」
完全に女たらしって言おうとしたな。というか言ったな、最後まで。
「レスティアさんのことを言ってんのか...?俺がそんなつもりないのは分かってるだろ......?」
 伊達に一緒にダンジョンをクリアしてない。俺はミスラを、ミスラは俺を理解してきたはずだ。
「えぇ、知ってますよ。祐の事なら、沢山知りました....そして気づきました。祐は天然の女たらしだと」
天然の女たらし...なんだそれ。
「別に自覚しなくていいですよ。というか出来ないか。天然ですもんね。まぁ簡単に言えば、祐はモテる、という事です」
「バカ言うな、毎年バレンタインのチョコは家族からしか貰ったことがなくて、ラブレターだって貰ったことない、極めつけにクラスと女子の友達と言える存在が一人も....いや、一人しかいなかった俺にそれを言うか?」
 この俺のモテてない事実に驚いた、訳ではなく、それとは別の事に驚いた様子のミスラは俺に問いつめる。
「その一人だけいたクラスの友達とはどういう関係ですか?」
....え、そこ?そこなの?社交辞令でもいいから、俺に女友達が少なすぎた事にも驚いてくれない?
「...関係って言っても、幼馴染だけど........」
 なんだろう、この高校で新しく出来た女友達は一人もいないって自白しているような気分。どんな地獄だ?
「....血縁じゃないとなると、面倒なライバルですね........」
 ミスラは一人でなんか言っていたが、心にでかいでかい釘を刺された俺は、聞き取る事が出来なかった。
 
 それからちらほらと現れた魔物を倒しつつ、クレイアスまでの道のりが残り3分の2というところで、それは起きた。
「.....んー、なんか魔物の群れがこっちに来てないか?」
 まだ結構遠くだが、魔物の群れらしき影がこちらに一直線に走ってきているように見える。
 「そのようですね。ただ、ここら辺の魔物はどれも弱かったですし、魔法で吹き飛ばせばいいでしょう」
 地上の魔物は、ダンジョンの魔物と違いそこまで凶暴ではない。勿論場所によるだろうが、草原の魔物はこちらから手を出さない限り、襲ってこない魔物が殆どだ。
「でも、そもそもここら辺の魔物って群れ動いてたか?」
 そう、知性が低すぎる草原の魔物は、群れを成すことが無い。ティファから教わった知識だ。
「となると、妙ですね。ん?先頭に、何かいますよ?」
 よく見ると確かに、何か小さな魔物が先頭を走っている。そして、それに付き従う、と言うよりは追うようにして走る後ろの魔物達。
「.......あ」
 分かってしまった。群を成さない草原の魔物が、唯一群れを為しているように見える原因。
「どうしたんですか?取り敢えず魔法の詠唱をしておきますね」
「あ、あぁ、うん頼むわ」
 ギリギリで言った方がいいかと思い、タイミングを待つことにした。
 そして一直線に向かってくる魔物の群れ。
「さ、佐野さんっ!あれ!大丈夫なんですか!?あんな数!!」
 群れに気づいたレスティアさんが、急いで駆け寄ってくる。
「あー、大丈夫ですよ。それより、危ないので馬車の後ろに下がっててください」
 
「で、でででもっ!」
 レスティアさんはきっと度重なる不安で、冷静な判断が出来なくなってしまっている。こんな時、俺は人を落ち着かせるために思いつく方法は、一つしか知らない。
 一瞬だけ魔物の群れから目を離し、レスティアさんの姿を確認すると、その頭に手を置き視線は魔物達の方へ戻して、その状態のまま会話する。
「落ち着いてください。絶対に大丈夫です。命に変えても助けますから」
「は.........はぃ」
 俺は人を落ち着かせたい時にはいつもこうする。自分でも何故かわからないが、こうすると皆冷静になってくれるのだ。
「シュナ!レスティアさんを頼む」
「任せテ」
「ふぇ......ふぇぇぇぇ!?」
 シュナはレスティアさんをお姫様抱っこすると、軽く馬車より上を跳躍し、飛び越えていく。
「はは、あの人いちいち反応が面白いな....」
 即座に気持ち切り替える。弱い魔物とはいえ、後ろに守らなければいけない人達がいる以上、一匹でも逃すのは許されない。
....そろそろ、言っとくか
「ミスラ」
「.....?」
詠唱中だから、声は出せないが目線をこちらを向け、聞く体制を取る。
「先頭にいる魔物な、ダンジョンに出てきたネズミっぽい」
 そう、前にダンジョンで経験値が多く手に入るというネズミの巨大サイズが俺とミスラの前に現れたことがあった。その時は、害は無いが経験値が沢山貰えると伝えると、ネズミを見逃そうと言い出した。
 結果的に殺してしまった訳だが、その時にある約束をしたんだ。
「.....〝風刃〟!」
 それを聞いてもなお、ミスラは躊躇い無く魔法を発動させた。
 発動と共に、ミスラの後ろに無数の魔法陣が出現する。そしてそこから出てきたものは、まさしく風の刃、その1つが先頭にいるネズミに当たると、スパンと言う音と共に綺麗な二等分になった。
 ネズミを追っていた魔物達は、獲物が殺された事で正気に戻り、静かになったがもう遅い。自分が何をしていたかに気づいた頃にはもう首が落ちている。
 魔物の群れは、大した抵抗も出来ずに全滅した。
 
「終わりましたね、さぁ早く行きましょう、これだけの数の魔物。血の匂いで森から凶暴な魔物を引き寄せる可能性があります」
 ミスラは冷静に語ってみせる。
「あぁ、それは賛成なんだけど、ミスラ」
「なんです?」
「あの先頭に走っていた経験値が多く貰えるネズミ。あの時の約束覚えてるか....?」
「約束?....あー、あの意味のわからない約束ですか、それがどうしたと.....どうし....あれ....私、平然と....ネズミを...」
 ダンジョンで交わした「もしもまたこのネズミが現れて、それを倒した時に前と同じショックを受けたのなら俺を煮るなり焼くなりして構わない」という約束。
 そして目を見開き、1度も瞬きをせずに立ち尽くすミスラ。
──あ、これ固まってるわ。
「すいません!すぐ出発するんでこいつ馬車に乗せてください!!」
言うタイミング間違えたかな、と思いつつミスラを馬車に乗せて急いで魔物の死骸から離れ、クレイアスへ向かうのであった。
 取り敢えず全員解放してアジトの外へと出させた。
「これで全員か」
 数にして20人程度だった。
「あ、あの......」
「はい、なんですか?」
 幽閉されていたお姉さんに喋りかけられた。年上っぽかったので一応敬語で。
「私たちを....どうするおつもりなんでしょうか..」
 あ、そっか、外に連れ出す時一言も助けに来たなんて言ってなかったな。
「安心してください。あなた方を解放するために来ました。盗賊達ならあそこに縛ってあります」
 確かにロープで縛られている盗賊達が馬車の横に座り込んでいるのを見たお姉さんは驚いたような顔をする。
「お、お強いんですね....」
「....はぁ、まぁ」
 自分で言うのもなんだが、ずっとダンジョンにいたせいで、俺は結構人見知りだったということを忘れていた。
「あ、申し遅れました。私はレスティアと言います。...えっと.....」
「......?..........あぁ、すいません。俺の名前は佐野 祐です」
 どうすればいいか分からなくて、自分の名前を名乗る事すら忘れてしまった。賊と出会った頃は怒っていたから、そんな事気にしてる暇などなかったし。
「佐野さん、ですね。....まずはその、助けて頂いてありがとうございました」
 こんな時、どうすればいいんだろう。そう言えば、学校にいた頃も、人と接するのが苦手で友達が居なかったんだったか......
「えー...はい、どういたしまして」
「「........」」
 やばい、もしかしたらと思ってたけど、このレスティアって人も人見知りの類だ。なんか仲間意識を感じるし。
 そんなしょうもないことを考えているうちに、二人は沈黙してしまう。
 二人とも、何を話せばいいか分からなくなってるだけなのだが、それを遠目から見てるミスラとシュナには、違う空気に見えてしまったようだ。
「祐。何してるんですか?」
「え?...いや、この人と少し会話を.....」
「少し...?随分甘酸っぱい空気が流れてるようですけど?」
.......どこが?
「貴方も、気をつけた方がいいですよ。この男、ケダモノですから」
「け、ケダモノ?」
 おーい、ミスラさーん?
「祐は、ケダモノ......ケダモノって、なニ?」
 後で教えてあげるからシュナ!今はやめてくれ!
「シュナも気になってるようですね。ここで言うケダモノというのは───」
「あーもう!甘酸っぱい空気も流れてないし俺はケダモノでもない!取り敢えず聞くことがあるから二人は盗賊の監視!!!」
 不服そうにしながらも、はーいと返事して引き下がった。
「はぁ...あ、すいませんレスティアさん。騒がしくなっちゃって」
「い、いえ、そんなことはっ」
「そうですか?それなら良かった。それで聞きたいことがあるのですが───」
 不思議とミスラ達が来てから肩の力が抜けて、普通に話せるようになっていた。まさか二人ともそれを察して.......いや、ないな。あの顔は本気と書いてマジだった。
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 レスティアさんと情報交換をした所。捕まっていた人達は全員クレイアスの住人らしい。そして、流れでクレイアスまで護衛をすることになった。ここからクレイアスまでは歩きでも半日程度で着くらしい。
 元からほっとくつもりもなかったし、クレイアスまでの道のりも分からなかったので快く受け入れた。
 捕まってた人達は家族が多いと言うのも分かった。まぁ当然といえば当然だろう。そういう人たちを襲っていたのだから。
 そして今は、総人数50人と3人で移動中。
 子供などは馬車に乗らせ、他は歩き。
 俺は周りに魔物が居ないか警戒はしながら、盗賊達を引き連れて馬車の後ろを歩く。
「あ、あの....佐野さん」
 特に会話も無く歩いていたら、レスティアさんが近くに来て声を掛けてきた。
「何かありました?」
「あ...いえ、大したことではないのですが、佐野さんのような強い方が、どのような理由でそんなにボロボロに......と、思いまして......あ、言えないのならいいんですっ少し気になっただけでしたので」
 確かに、見てみれば服は沢山の穴が空いてたり、血の跡もついている。まぁ、後者は龍の血でもあるんだが。
 それに、レスティアさんが気を使って言わなかったのだろうが、そもそも片腕がない。傷口は塞がってるが、どう考えても新しく出来たものだと分かる。
んー、正直に言っても信じてくれるはずがないよなー、賊のせいにしてもいいが、当の賊達は死んだ者以外は無傷、激戦の後とは到底思えない。どうするか.....
「ダンジョンを攻略したからですよ」
 どんな言い訳にするか考えていると、いつの間に隣に来ていたミスラがとんでもない事を言った。
「ちょ!おい、ミスラっ」
「どうせ、ギルドに戻れば公開される情報ですよ?信じなくったって後々分かります」
 え、?ギルド?
 ギルドに「ダンジョンをクリアした」と言っても、そのギルドが信じないんじゃ......
「だ、ダンジョン....ですか?」
「えぇ、そうです。レスティアさんでしたか?私はミスラ。この隣にいる祐の妻です」
「え、えぇぇ!?で、でもっ....まだ子供..............」
あ、やばい。レスティアさんの目がゴミを見る目だ。
「あっはっはっ大丈夫ですよレスティアさん。よくいるじゃないですか、お父さんのお嫁さんになるとか言う子供。つまりそういうことです」
 至って真顔で全く焦ることなく、弁明する。
「あ、あぁ!そうですよね!ごめんなさい、早とちりしちゃって....」
 良かった、危うく印象最悪になるところだった。ずっと隣で張り付くような笑顔を向ける神様がいる気がするけど、多分気の所為だな。
 危機は去ったと思い、ひとまず安心した。が、そんな時が1番危ない時であって、
「祐、愛人でも、いいヨ?」
 後ろから大きい爆弾を投下する幼女がいた。
「あ、あああ愛人っ!?」
「レスティアさん!?違いますからね!?」
「あわわわわわわ!」
 あ、ダメだレスティアさんパニックになっちゃって声が聞こえてない。
 俺は、恐らくシュナに変なことを吹き込んだ犯人を見る。
「ミスラさん...?シュナに何かおしえました..?」
 
 するとミスラは、張り付いた笑顔はそのまま、こう言った。
「大丈夫ですよ、意味を知らずに言わせてるだけなので」
「そういう意味じゃないわ!」
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 その後、正気に戻ったレスティアさんにどうにか誤解を解くのに1時間かかった。その間ずっとゴミ、いやゴミ以下の生物を見る目はなかなかに応えた。
「佐野さん、すいません。私はまた早とちりを.....」
「い、いえいえ。誤解させるようなことを言ったのはこっちですし」
 はぁ....なんか妙に疲れたな。人付き合いって、こんなにも大変だったっけ....
 護衛だし、不安にさせない為にも悪い印象は持たせないようにしようとしたら、何故かミスラとシュナがそれを邪魔してくるように見えるのは、勘違いだろうか。
 一応聞いておこうか
「ミスラ」
「なんですか?女たらし....じゃなくて祐」
完全に女たらしって言おうとしたな。というか言ったな、最後まで。
「レスティアさんのことを言ってんのか...?俺がそんなつもりないのは分かってるだろ......?」
 伊達に一緒にダンジョンをクリアしてない。俺はミスラを、ミスラは俺を理解してきたはずだ。
「えぇ、知ってますよ。祐の事なら、沢山知りました....そして気づきました。祐は天然の女たらしだと」
天然の女たらし...なんだそれ。
「別に自覚しなくていいですよ。というか出来ないか。天然ですもんね。まぁ簡単に言えば、祐はモテる、という事です」
「バカ言うな、毎年バレンタインのチョコは家族からしか貰ったことがなくて、ラブレターだって貰ったことない、極めつけにクラスと女子の友達と言える存在が一人も....いや、一人しかいなかった俺にそれを言うか?」
 この俺のモテてない事実に驚いた、訳ではなく、それとは別の事に驚いた様子のミスラは俺に問いつめる。
「その一人だけいたクラスの友達とはどういう関係ですか?」
....え、そこ?そこなの?社交辞令でもいいから、俺に女友達が少なすぎた事にも驚いてくれない?
「...関係って言っても、幼馴染だけど........」
 なんだろう、この高校で新しく出来た女友達は一人もいないって自白しているような気分。どんな地獄だ?
「....血縁じゃないとなると、面倒なライバルですね........」
 ミスラは一人でなんか言っていたが、心にでかいでかい釘を刺された俺は、聞き取る事が出来なかった。
 
 それからちらほらと現れた魔物を倒しつつ、クレイアスまでの道のりが残り3分の2というところで、それは起きた。
「.....んー、なんか魔物の群れがこっちに来てないか?」
 まだ結構遠くだが、魔物の群れらしき影がこちらに一直線に走ってきているように見える。
 「そのようですね。ただ、ここら辺の魔物はどれも弱かったですし、魔法で吹き飛ばせばいいでしょう」
 地上の魔物は、ダンジョンの魔物と違いそこまで凶暴ではない。勿論場所によるだろうが、草原の魔物はこちらから手を出さない限り、襲ってこない魔物が殆どだ。
「でも、そもそもここら辺の魔物って群れ動いてたか?」
 そう、知性が低すぎる草原の魔物は、群れを成すことが無い。ティファから教わった知識だ。
「となると、妙ですね。ん?先頭に、何かいますよ?」
 よく見ると確かに、何か小さな魔物が先頭を走っている。そして、それに付き従う、と言うよりは追うようにして走る後ろの魔物達。
「.......あ」
 分かってしまった。群を成さない草原の魔物が、唯一群れを為しているように見える原因。
「どうしたんですか?取り敢えず魔法の詠唱をしておきますね」
「あ、あぁ、うん頼むわ」
 ギリギリで言った方がいいかと思い、タイミングを待つことにした。
 そして一直線に向かってくる魔物の群れ。
「さ、佐野さんっ!あれ!大丈夫なんですか!?あんな数!!」
 群れに気づいたレスティアさんが、急いで駆け寄ってくる。
「あー、大丈夫ですよ。それより、危ないので馬車の後ろに下がっててください」
 
「で、でででもっ!」
 レスティアさんはきっと度重なる不安で、冷静な判断が出来なくなってしまっている。こんな時、俺は人を落ち着かせるために思いつく方法は、一つしか知らない。
 一瞬だけ魔物の群れから目を離し、レスティアさんの姿を確認すると、その頭に手を置き視線は魔物達の方へ戻して、その状態のまま会話する。
「落ち着いてください。絶対に大丈夫です。命に変えても助けますから」
「は.........はぃ」
 俺は人を落ち着かせたい時にはいつもこうする。自分でも何故かわからないが、こうすると皆冷静になってくれるのだ。
「シュナ!レスティアさんを頼む」
「任せテ」
「ふぇ......ふぇぇぇぇ!?」
 シュナはレスティアさんをお姫様抱っこすると、軽く馬車より上を跳躍し、飛び越えていく。
「はは、あの人いちいち反応が面白いな....」
 即座に気持ち切り替える。弱い魔物とはいえ、後ろに守らなければいけない人達がいる以上、一匹でも逃すのは許されない。
....そろそろ、言っとくか
「ミスラ」
「.....?」
詠唱中だから、声は出せないが目線をこちらを向け、聞く体制を取る。
「先頭にいる魔物な、ダンジョンに出てきたネズミっぽい」
 そう、前にダンジョンで経験値が多く手に入るというネズミの巨大サイズが俺とミスラの前に現れたことがあった。その時は、害は無いが経験値が沢山貰えると伝えると、ネズミを見逃そうと言い出した。
 結果的に殺してしまった訳だが、その時にある約束をしたんだ。
「.....〝風刃〟!」
 それを聞いてもなお、ミスラは躊躇い無く魔法を発動させた。
 発動と共に、ミスラの後ろに無数の魔法陣が出現する。そしてそこから出てきたものは、まさしく風の刃、その1つが先頭にいるネズミに当たると、スパンと言う音と共に綺麗な二等分になった。
 ネズミを追っていた魔物達は、獲物が殺された事で正気に戻り、静かになったがもう遅い。自分が何をしていたかに気づいた頃にはもう首が落ちている。
 魔物の群れは、大した抵抗も出来ずに全滅した。
 
「終わりましたね、さぁ早く行きましょう、これだけの数の魔物。血の匂いで森から凶暴な魔物を引き寄せる可能性があります」
 ミスラは冷静に語ってみせる。
「あぁ、それは賛成なんだけど、ミスラ」
「なんです?」
「あの先頭に走っていた経験値が多く貰えるネズミ。あの時の約束覚えてるか....?」
「約束?....あー、あの意味のわからない約束ですか、それがどうしたと.....どうし....あれ....私、平然と....ネズミを...」
 ダンジョンで交わした「もしもまたこのネズミが現れて、それを倒した時に前と同じショックを受けたのなら俺を煮るなり焼くなりして構わない」という約束。
 そして目を見開き、1度も瞬きをせずに立ち尽くすミスラ。
──あ、これ固まってるわ。
「すいません!すぐ出発するんでこいつ馬車に乗せてください!!」
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