財宝の地図

はお汰

夜明け


夜が明けるまで少し時間があったから今までの事を自伝のように書き残していた。
久々に家に帰って来たのはいいが、長年家を出ていた為、荷物もほとんどなく、積荷の整理は思いのほかすぐに終わってしまったのだ。
しかし、筆に熱が入っているうちにいい時間になっていた。

「朝日が昇る前に乗り込まなくては…」

時間も時間だし、明日も早いのだろうから母親の睡眠は邪魔してはならない。
家を出ようと玄関のドアノブを握った瞬間から後ろから懐かしい声がした。

「久しぶり帰ったんだ。ゆっくりして行ったらどうだい?…なんもないけれど」

声の主は母だった。今さっき起きたような雰囲気ではない。
随分前に、辛辣な手紙を貰って以来、初めて言葉を交わした。

「とっくに愛想つかされてたとばっかりおもっていたんだけど?」

馬鹿言え。と鼻で笑われた。
酔狂な人だ。と返したら、お前に言われたかないよ。と返された。

「お前は覚えてるかい?……父さんが嵐の中、海に出た日だ。その前の晩、必死に何かを書き写していたけれど、その地図だったんだねぇ」

「知ってたのなら、俺が見る前に破り捨てるなりすればよかった。」

この存在が俺をここまでにした。俺をこうした。この地図を見ていなければ、もしかしたら皆と同じように疑問を抱かずに、しれないのに。
孤独に震え、この地図を呪う夜も幾つもあった。

「そんなんでもあの人の形見だ。捨てられるわけないだろう。」

形見などに執着するような人間だったのかと驚く俺をよそに、そのまま母は続けた。

「あの時期じゃね、魚なんてロクなの捕れやしないんだ。どうせあの地図を抱えて財宝探して持ってくるつもりだったんだよあの人も。」

数分だったが、親子水入らずで言葉を交わした。
親子揃って心配かけてすまないと、伝えたところ「慣れたよ、お陰様で」と返えってきた。流石はあの父の伴侶なのだと感心した。
母に一時の別れ告げ俺は入江に向かった。




もうすぐ夜明けだ。

船に乗り込み、地図をひろげる。

そして遂に出航の時は来た。

初めは人力で漕ぐが、そのうちに潮の流れに助けられ、順調にスピードが増す。
そしてある程度入江を脱したところで、眼前の朝焼けに向けて帆を張った。

風が仰ぐ心地いい音が響くと、もう漕ぐよりも勢いはよく、船は航路に乗った。
望遠鏡で遠ざかる入り江眺めると年寄り共が口々に俺を罵っているようだった。


「高波に呑まれてしまえ」
「父の二の舞を演じるがいい」などと、どうせ俺の行く手を呪っているのだろう。そんなことは言わせておけばいいが、くたびれた年寄りとは思えないその執念に少し驚いた。

  そしてさらに驚いたのは年寄り達とは少し離れた所で、かつての友達やおさげの娘、港町のみんなが総出で手を振っていたことだ。未だ俺の夢はスタートライン。しかしこれには感極まって、拳を掲げてときの声を上げた。


風がいっそう強く帆をおした。

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