財宝の地図

はお汰

うつけ者

この数年間、町の住人達からは数々の悪口をいわれた。あだ名も沢山ついた。道楽息子、ロクでなし、大うつけ者、穀潰し。特に年長者からは目の敵にされた。

港町を見渡すあの山上に小屋を拵えて、俺は来る日も来る日も木を切り出した。
それを海岸へと転がして、人気の少ない入江でそれを組み立てた。

町の長も、年長者も俺のことは異端児だと罵る。
それでも、働きもせず俺は船を作り続けた。

何度も何度も失敗した。
何度も転覆し、その度に作り直しては、少しずつ、立派な船が出来上がっていった。


船を造り続ける俺へ、絶えず食い物を差し入れてくれる変わり者がいた。町の酒場で働くおさげの娘だ。いつもそそくさと帰ってしまうが1年ほど経った頃、その娘はやっと口を開いた。

「あなた1人では出来っこない。そんな地図は仕舞って、私と一緒に暮らすなんてどうでしょう?…財宝など無くとも幸せはありますよ。」

「気持ちは嬉しいが、少なくともこれを諦めて生きることを俺は幸せとは思わない。後ろ指を指されようと、見て見ぬふりはできんのだ。」

何か言いたそうだったが、娘は立ち去った。けれども不思議なことに、それからも無言の差し入れは続いた。


地図を手に入れてから2年が経ったある日、どうしようもなく船造りにどん詰まった。気分を変えようと、久々に酒場に出向くと、かつての友達が俺の悪口に花を咲かせていた。

「ついに諦めたか?ありもしない宝に目が眩んだ愚か者め。」
「あんなもの破り捨てた方が身のためだぞ。」
「お前は一体どうやって飯を食っているのだ?この穀潰しめ。」

店に入るなり、次から次へと悪口が飛んできた。まぁそれもしかたあるまい。
この町では漁も畑作もせずに、技術もないのに船を造り続けている者は阿呆と呼ばれるのだ。そしてそれは今のところ俺しかいない。

「言っていろ。なんとでも言っていろ。お前らのようにはなるものか。今にどちらが愚か者か教えてやる。」

どん詰まっていた気持ちが向かい風に晒され、負けてなるものかと火を吹き返した。有難い事だ。貴様らの罵詈雑言は俺にとってはよく燃える燃料なのだ。




それからも飽きず船を造り続けた。おさげの娘に聞いたことだが、たまに入江に人が来て俺の様子を見て酒場で言いふらすのだとか。しかし最近の船の出来を見て、俺を笑う者が以前よりも減ったそうだ。

「あなたは最初から何にも変わらず、船を造ってるだけなのにね。…おかしな話。」



そして3年がたったある日、手紙が届いた。送り主は母だった。もう暫く顔を合わせていない。わざわざ手紙で伝えるのだ。顔は合わせたくないのだろう。

「バカ息子が。身の丈に合わぬ夢などに取り憑かれて、そんなものは呪いに他ならない。虚構かもしれぬ夢など捨て置けばいいのに。お前などもう知らぬ。好きしろ。」

手紙にはこう書かれていた。
だから俺はすぐに返事を書きおさげの娘に持たせた。

馬鹿言え。夢など身の丈に合わぬくらいがちょうど良いのだ。と。

手紙をよんで不思議と、のしかかっていた最後の肩の荷が降りた気がした。
 
もはや夢でも呪縛でも虚構でも構わない。その衝動は俺の身体をつき動かし続けた。そして4年の月日がたった。

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