蒼炎の魔術士
C話
「なあ、ソニアは『死霊』についてどう思う?」
「……別に、どうも思わないわ」
いつも通り、森の中でアグニがソニアに話し掛ける。
「……それに、本当に死霊になった人がいるとも思えない」
「んー……まあ、確かにあんまり聞かないよな」
「あんまりって……聞いたことあるの?」
「まあな……『国王側近魔術士』にもなると、色んな情報が入ってくるんだよ」
死霊とは何か。
あくまで噂だが……強い感情を持って死んだ者は、死霊として生き返る事があるらしい。
死霊は不老だが……もちろん死ぬ。
肉体損傷による死か……もしくは、強い感情の原因―――つまり、未練を晴らすか。このどちらかで死んでしまう……らしい。
アグニが気になっているのは―――死霊となった時、魂はどうなるのか、だ。
魂は生まれ変わる。死んだ者の魂は、新しい命となる。
だが……死霊は?
一度死んだら、やっぱり魂は抜けるのか?それとも肉体に留まるのか?
そんな哲学的な事を考えていた。
「へぇ……でも、死霊になってまで生きようとは思わないわ」
「ソニアは、何かやりたい事とかないのか?」
「ないわね……そんなの、私には必要ないわ」
木に体を預けるソニアが、素っ気なく返す。
予想通りの返事に、アグニはやっぱりかとため息を吐く。
故に―――直後放たれたソニアの言葉は、自分の耳を疑わざるを得なかった。
「まあ言うなら………………あなたと遊びに行きたい、とかかしら」
「………………………………今なんて?」
「とっとと帰れって言ったわ」
「嘘言うなよ!お前、遊び行きたいって言ったな?俺と遊びに行きたいって言ったよな?」
「うるさいわね……私が何を思おうと、私の勝手でしょ?」
ソニアが見せる表情は……真顔、苦笑、めんどくさそうな顔……あと、筋肉を見た時の恍惚とした表情の4つ……アグニが知ってるのは、この4つだ。
だから……今みたいに、少し頬を赤くして顔を俯かせるソニアを見るのは初めてで―――
「……女の子じゃん」
「女よ!どこからどう見ても女でしょ!」
「いや待てよ。そんな顔……だってお前……いつもはだって……」
「うるさいうるさいうるさいっ!もう帰って!早く!早くっ!」
体育座りで、膝に顔を埋める。
……見れば、耳まで真っ赤だ。
ちなみに、アグニもソニアも、恋愛経験なんてない。
ソニアは性格がキツいし、アグニは女性との関係がないからだ。
「……ソニア」
「……………………………………………………なによ」
「……はぁ~……こりゃ、早く世界を変えないといけなくなったな」
「…………急にどうしたの?」
「お前と俺が愛し合う事は、まだできない……全ては、世界を変えた後だな」
そう、この世界は『戦争時代』……今みたいに、アグニとソニアが仲良く話している事も禁止で、他種族同士が恋愛をするなんて論外だ。
さらに言えば、『吸血族』と『鬼族』は完全な敵同士……『吸血族』はアグニ以外ほとんど死んだが。
もしも今、他の『鬼族』にこの状況を見られれば、アグニは絶対に殺されるだろうし、ソニアも裏切者として殺されるだろう。
だからこそ、アグニは決意した。
この素直じゃない女……必ず、その隣に座ってやろうと。
「……死んだら魂は生まれ変わる」
「え……何よ急に……?」
「死んで、生まれ変わって、時代が変わって……そこでお前と再会するってのも……悪くない」
「……………」
「でも、それじゃダメだ……俺は、今のソニアがいい」
まだ体育座りをしているソニアの前に座り、アグニはニカッと笑った。
「俺が必ず世界を変える……それが何年後になるかはわからない……だけど、約束する。時代を変えて、他種族でも仲良くできる時代にできたら―――お前を、俺のものにする」
小指を差し出し、断言した。
「…………………………ん………………待ってる」
アグニの小指に小指を絡め、ソニアが幸せそうに笑った。
―――――――――――――――――――――――――
―――その日は、唐突にやって来た。
「……これ、は……」
「来たぞ!『紅眼吸血族』だ!」
いつも通り森にやって来たアグニは……眼前の光景に、目を疑った。
「………………ソニ、ア……?」
目の前に並び立つ『鬼族』……その前に、ソニアが倒れていた。
―――足が曲がり、腕はズタズタに斬られ、頭から血を流す……ソニアだった。
「……ソニア…………ソニア……ソニア、ソニア……」
フラフラと、アグニがソニアに近づく。
その動作に、『鬼族』が警戒を深めるが……そんなのは、アグニの眼に入らない。
「…………おい……どうしたんだよ……ほら、いつもみたいに……なあ、あのキツい言葉は、どうしたんだよ……?」
ソニアを抱き抱え、アグニが立ち上がる―――
「―――死ねッ!」
と、背後から1人の『鬼族』が、槍でアグニの胸部を貫いた。
槍は貫通し―――心臓を的確に破壊した。
『紅眼吸血族』の弱点……それを『鬼族』が知らないはずがない。
「ゴフッ……なあ、ソニア……ソニア…………」
「…………………………あぐ、にぃ……」
「ソニア……!」
目を覚ましたが……死ぬのは、時間の問題だった。
「……ふふ……アグニ、酷い顔……」
「何笑ってんだよ……笑えねぇよ……!」
「ね、え……アグニ……」
震える右手が、アグニの頬に触れた。
―――冷たく、死人のような手だった。
「……ゴメンね……もっと、素直になりたかったけど……どう、しても……素直になれなく、て……」
「ソニ―――ガフッ!……ソニアぁ……!」
口から血を吐くアグニが、頬に当てられた右手を強く握る。
「……ゴメンね、あなたが時代を変える所、見たかった、けど……もう、無理、みたい……」
「ふざ、けんなよ……!そんなの、絶対に許さねえぞ……!」
「……生まれ変わっても、あなたを見つける……ね、その時は、もっと、素直に……あなたを愛して……」
ふっと、ソニアの手から力が抜ける。
「……生まれ変わるなら、こんな時代じゃなくて……みんな仲良く、幸せな時代がいいなぁ……」
「ソニア……!ダメだ、ソニアッ!」
「愛してるわ……アグ…………」
最後まで言い終わらず、ソニアの眼から光が消えた。
……死んだ。
「ソニ―――」
「殺せ!」
全方向から、攻撃が放たれる。
武器が、魔法が、容赦なくアグニを襲った。
「………………殺してやる……」
すでに心臓を貫かれ、死ぬ寸前。
それでも、アグニの眼には光があった。
―――――――――――――――――――――――――
地面に流れる、凄まじい量の血。
そこに横たわる男が―――起き上がった。
死霊―――アグニは、死霊として生まれ変わったのだ。
「…………………………ソニア」
「……………」
眠る女から、返事はない。
……なぜ、俺だけ生き返った。
なぜ、ソニアは死んでしまった。
なぜ?何が悪かった?
俺か?ソニアか?『吸血族』か?『鬼族』か?それとも時代か?
いや……どれも違う。
「悪いのは………………全部だ」
人が悪い。時代が悪い―――世界が悪い。
「……壊す……殺す………………全部、滅ぼしてやる」
アグニの魂は、すでに肉体には無い。
じゃあ、なぜアグニは自分で考え、行動できているのか?
それはただ、生前の記憶に従った構成された意識なのだ。
そうしていつしか、アグニはとある人物に出会う。
禍々しい野望を持つ男に。
その男と行動をしていく内に、いつしかアグニはこう呼ばれるようになった。
―――『炎帝』と。
相手にも、設定を付けてみました。
アグニとソニアの魂は……まあ、みなさんの想像通りの人に生まれ変わりました、という感じです。
「……別に、どうも思わないわ」
いつも通り、森の中でアグニがソニアに話し掛ける。
「……それに、本当に死霊になった人がいるとも思えない」
「んー……まあ、確かにあんまり聞かないよな」
「あんまりって……聞いたことあるの?」
「まあな……『国王側近魔術士』にもなると、色んな情報が入ってくるんだよ」
死霊とは何か。
あくまで噂だが……強い感情を持って死んだ者は、死霊として生き返る事があるらしい。
死霊は不老だが……もちろん死ぬ。
肉体損傷による死か……もしくは、強い感情の原因―――つまり、未練を晴らすか。このどちらかで死んでしまう……らしい。
アグニが気になっているのは―――死霊となった時、魂はどうなるのか、だ。
魂は生まれ変わる。死んだ者の魂は、新しい命となる。
だが……死霊は?
一度死んだら、やっぱり魂は抜けるのか?それとも肉体に留まるのか?
そんな哲学的な事を考えていた。
「へぇ……でも、死霊になってまで生きようとは思わないわ」
「ソニアは、何かやりたい事とかないのか?」
「ないわね……そんなの、私には必要ないわ」
木に体を預けるソニアが、素っ気なく返す。
予想通りの返事に、アグニはやっぱりかとため息を吐く。
故に―――直後放たれたソニアの言葉は、自分の耳を疑わざるを得なかった。
「まあ言うなら………………あなたと遊びに行きたい、とかかしら」
「………………………………今なんて?」
「とっとと帰れって言ったわ」
「嘘言うなよ!お前、遊び行きたいって言ったな?俺と遊びに行きたいって言ったよな?」
「うるさいわね……私が何を思おうと、私の勝手でしょ?」
ソニアが見せる表情は……真顔、苦笑、めんどくさそうな顔……あと、筋肉を見た時の恍惚とした表情の4つ……アグニが知ってるのは、この4つだ。
だから……今みたいに、少し頬を赤くして顔を俯かせるソニアを見るのは初めてで―――
「……女の子じゃん」
「女よ!どこからどう見ても女でしょ!」
「いや待てよ。そんな顔……だってお前……いつもはだって……」
「うるさいうるさいうるさいっ!もう帰って!早く!早くっ!」
体育座りで、膝に顔を埋める。
……見れば、耳まで真っ赤だ。
ちなみに、アグニもソニアも、恋愛経験なんてない。
ソニアは性格がキツいし、アグニは女性との関係がないからだ。
「……ソニア」
「……………………………………………………なによ」
「……はぁ~……こりゃ、早く世界を変えないといけなくなったな」
「…………急にどうしたの?」
「お前と俺が愛し合う事は、まだできない……全ては、世界を変えた後だな」
そう、この世界は『戦争時代』……今みたいに、アグニとソニアが仲良く話している事も禁止で、他種族同士が恋愛をするなんて論外だ。
さらに言えば、『吸血族』と『鬼族』は完全な敵同士……『吸血族』はアグニ以外ほとんど死んだが。
もしも今、他の『鬼族』にこの状況を見られれば、アグニは絶対に殺されるだろうし、ソニアも裏切者として殺されるだろう。
だからこそ、アグニは決意した。
この素直じゃない女……必ず、その隣に座ってやろうと。
「……死んだら魂は生まれ変わる」
「え……何よ急に……?」
「死んで、生まれ変わって、時代が変わって……そこでお前と再会するってのも……悪くない」
「……………」
「でも、それじゃダメだ……俺は、今のソニアがいい」
まだ体育座りをしているソニアの前に座り、アグニはニカッと笑った。
「俺が必ず世界を変える……それが何年後になるかはわからない……だけど、約束する。時代を変えて、他種族でも仲良くできる時代にできたら―――お前を、俺のものにする」
小指を差し出し、断言した。
「…………………………ん………………待ってる」
アグニの小指に小指を絡め、ソニアが幸せそうに笑った。
―――――――――――――――――――――――――
―――その日は、唐突にやって来た。
「……これ、は……」
「来たぞ!『紅眼吸血族』だ!」
いつも通り森にやって来たアグニは……眼前の光景に、目を疑った。
「………………ソニ、ア……?」
目の前に並び立つ『鬼族』……その前に、ソニアが倒れていた。
―――足が曲がり、腕はズタズタに斬られ、頭から血を流す……ソニアだった。
「……ソニア…………ソニア……ソニア、ソニア……」
フラフラと、アグニがソニアに近づく。
その動作に、『鬼族』が警戒を深めるが……そんなのは、アグニの眼に入らない。
「…………おい……どうしたんだよ……ほら、いつもみたいに……なあ、あのキツい言葉は、どうしたんだよ……?」
ソニアを抱き抱え、アグニが立ち上がる―――
「―――死ねッ!」
と、背後から1人の『鬼族』が、槍でアグニの胸部を貫いた。
槍は貫通し―――心臓を的確に破壊した。
『紅眼吸血族』の弱点……それを『鬼族』が知らないはずがない。
「ゴフッ……なあ、ソニア……ソニア…………」
「…………………………あぐ、にぃ……」
「ソニア……!」
目を覚ましたが……死ぬのは、時間の問題だった。
「……ふふ……アグニ、酷い顔……」
「何笑ってんだよ……笑えねぇよ……!」
「ね、え……アグニ……」
震える右手が、アグニの頬に触れた。
―――冷たく、死人のような手だった。
「……ゴメンね……もっと、素直になりたかったけど……どう、しても……素直になれなく、て……」
「ソニ―――ガフッ!……ソニアぁ……!」
口から血を吐くアグニが、頬に当てられた右手を強く握る。
「……ゴメンね、あなたが時代を変える所、見たかった、けど……もう、無理、みたい……」
「ふざ、けんなよ……!そんなの、絶対に許さねえぞ……!」
「……生まれ変わっても、あなたを見つける……ね、その時は、もっと、素直に……あなたを愛して……」
ふっと、ソニアの手から力が抜ける。
「……生まれ変わるなら、こんな時代じゃなくて……みんな仲良く、幸せな時代がいいなぁ……」
「ソニア……!ダメだ、ソニアッ!」
「愛してるわ……アグ…………」
最後まで言い終わらず、ソニアの眼から光が消えた。
……死んだ。
「ソニ―――」
「殺せ!」
全方向から、攻撃が放たれる。
武器が、魔法が、容赦なくアグニを襲った。
「………………殺してやる……」
すでに心臓を貫かれ、死ぬ寸前。
それでも、アグニの眼には光があった。
―――――――――――――――――――――――――
地面に流れる、凄まじい量の血。
そこに横たわる男が―――起き上がった。
死霊―――アグニは、死霊として生まれ変わったのだ。
「…………………………ソニア」
「……………」
眠る女から、返事はない。
……なぜ、俺だけ生き返った。
なぜ、ソニアは死んでしまった。
なぜ?何が悪かった?
俺か?ソニアか?『吸血族』か?『鬼族』か?それとも時代か?
いや……どれも違う。
「悪いのは………………全部だ」
人が悪い。時代が悪い―――世界が悪い。
「……壊す……殺す………………全部、滅ぼしてやる」
アグニの魂は、すでに肉体には無い。
じゃあ、なぜアグニは自分で考え、行動できているのか?
それはただ、生前の記憶に従った構成された意識なのだ。
そうしていつしか、アグニはとある人物に出会う。
禍々しい野望を持つ男に。
その男と行動をしていく内に、いつしかアグニはこう呼ばれるようになった。
―――『炎帝』と。
相手にも、設定を付けてみました。
アグニとソニアの魂は……まあ、みなさんの想像通りの人に生まれ変わりました、という感じです。
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