俺の彼女は~とある放課後の出来事~

日向 葵

俺の彼女は~とある放課後の出来事~

 俺は間違いを犯してしまった。
 俺はもう逃げられない。
 だから、俺は、愛という呪縛を受け入れようと思う。
 そもそも、あれが間違いだった。
 でも、俺は後悔していない。
 だって、俺も彼女を愛しているから。



 ある日、机の中に、一通の手紙が入っていた。
 その中身を読んだとき、心に花が咲いたように、気持ちが高鳴った。
 そう、もらったのはラブレターだった。

 俺の名前は、冬樹 明。今年、高校二年になる、平均的な男だ。
 テストの点数、運動神経、その他全てが平均と言われている。
 そんな俺に春が来た。
 ラブレターの内容は、『あなたに私の想いを伝えたい。あの桜の木の下で待っています』というものだった。
  
 その桜の木は、学校でとても有名な場所だった。
 そこで告白すれば、恋が実ると言われている、告白スポットだ。
 俺は、そんな場所に呼び出されたのだ。
 未だ、彼女がいたことがない俺は、とても緊張していた。

 ドキドキしながら行った先に、学校でも有名な女の子がいた。

 彼女の名前は、綾小路 美咲。
 あの、綾小路財閥の一人娘。
 学校でも美人だと評判があるが、財閥の一人娘ということで誰も近寄ろうとしない、高嶺の花のような人。
 そんな彼女から呼び出された。
 俺の心は、期待と不安が広がる。

 もしか知らた、悪戯かも知れない。
 そう思ってしまうほど、彼女は人気があるのだ。

 「この手紙は、綾小路さんがくれたの?」

 「み、美咲でいいよ。そうね。私が机の中に入れたの」

 「そっか。それで、伝えたい想いっていうのは……」

 俺は、ドキドキしながら聞いてみた。
 すると、彼女は顔を赤らめながら、何か決意した表情で俺を見つめてきた。

 「私は、あなたのことが好きです。ずっと、ずっと見ていました。私と付き合ってください」

 来た。ついに俺に春が来た!
 俺にもついに彼女ができる。
 心の中はバラ色だ。

 「うん、よろしくな。あやの……」

 「美咲! 私も明って呼ぶから。お願い」

 「ああ、わかったよ。美咲。よろしくな」

 「うん」

 笑った彼女の顔はすごく可憐だった。
 こんな美人が俺の彼女に。
 そう思うと、心が舞い上がった。

 これが、最悪の始まり。
 逃げられない運命が決定した瞬間だった。


 美咲と付き合い始めて、1ヶ月がたった。
 最初は、幸せでいっぱいだった。
 だが、次第に異変が起こった。

 最初におかしいなと思ったのは、美咲のデレっぷりだった。

 「明、お弁当作ってきたの」

 「明、今日も一緒に帰りましょう」

 「明、ここはね」

 必要以上に引っ付いて来た。
 クラスメイトも『あの綾小路さんが……』と驚いたものだ。
 最初は、美咲も嬉しくて、こうなっているんだと思った。
 しかし、次第にエスカレートしていくスキンシップ。
 クラスメイトも引くレベルになっていた。
 そして、美咲は、事あるごとに、将来の話をする。

 「学校を卒業したら、結婚しましょう」

 「子供は何人欲しい」

 「大丈夫、私が一生面倒見てあげるから。私の愛しい明」

 人がいる、いない関係なしに、発言してくるため、クラスメイトが引いて行ったんだと思う。

 俺が言うのもなんだが、美咲は、心が病んでしまうほど、俺のことを愛してくれていた。

 そう、心を病むほどだ。
 これがどういうことかわかるか。
 家の中には盗聴器があり、ほかの女の子と、ちょっと話すだけで激怒する。
 時折、後ろから視線を感じる。
 振り返ると、物陰から、ちらちらと俺を見てくる美咲がいる。

 でも、俺もそんな彼女が好きになっていた。
 だから、別れるなんて考えない。
 いや、考えられない。
 そんな話をしたら、間違いなく殺される。
 でも、そんな彼女も愛おしかった。

 これは、俺の最悪で最愛の彼女と物語


 下校前のSHLのこと。

 「じゃあ、学級委員の明と神楽夜。お前たちは、体育祭関連の書類整理をしてくれ。頼んだぞ」

 突然、先生がそんなことを言い出した。
 やばい。
 とてつもなくやばい。
 もう一人の学級委員、北条 神楽夜は俺の幼馴染だ。
 クラスのムードメーカーで、男子にとても人気がある女の子。
 神楽夜と二人っきりで作業をすることになった。
 他の男子なら、喜ぶことだろう。
 なにせ、神楽夜は人気があるから。
 しかし、俺は違う。
 俺には、美咲っていう彼女がいる。
 クラスが違う美咲が、神楽夜と二人っきりで作業している俺を見たら、なんて思うだろう。
 考えただけで恐ろしい……

 「あの、今日は用事が……」

 「明にそんな用事がある訳無いじゃん。先生、問題ないので任せてください」

 ちょ、なんでそんなこと言うんだよ、神楽夜!
 俺に、死ねっていうのかよ。

 しかし、何にも知らない神楽夜は、勝手に話を進めて、作業をすることになってしまった。

 今やっているのは、簡単な書類整理だ。
 今度行う体育祭の資料。
 クラスで配るための資料を整理していた。

 「最近、綾小路さんと仲がいいね。確か、付き合っているんだっけ」

 「………」

 俺は沈黙を通す。
 話した瞬間、美咲になにを言われるかわからない。
 最悪、刺される。

 「ねぇ、なんで黙っているのよ。私と明は幼稚園の時からの仲じゃない。なんで無視するの?」

 「………」

 話してたまるか。いつ、どこで美咲が見ているかもわからないのに。

 すると、神楽夜が、いきなり頭突きしてきた。
 めっちゃ痛かった。

 「痛い。何するんだよ。神楽夜!」

 「やっと、喋ってくれた!」

 「あ…」

 やってしまったぁぁぁぁぁぁ。
 神楽夜は嬉しそうな顔をする。
 そして、俺の心は、恐怖に侵食されていく。

 「ほら、もういいでしょ。なんで無視するのよ」

 「それは……」

 理由を言おうとした時、どこからか、視線を感じた。
 そっと後ろを見てみると、教室の入口辺りに、美咲がいた。
 その目は、光を失っている。
 そんな美咲の姿を見て、背筋がゾッとした。
 やばい、やばい、やばい。

 これはとてつもなくやばい。

 そっと耳を澄ませてみる。

 「明が別の女と話している。なんで、なんで、なんで。私というものがありながら、なんであんな女と親しくしているのよ。私がいけないの。私の愛が足りないの。嫌よ。明が離れて行くなんて考えられない。私の明。愛しの明。きっとあの女に騙されているのね。わかったわ。私が明を守らないと。悪女がいつ明を襲うかわからないしね。だけど、明があの女と親しくしているのはなんで。どうして。どういうこと。私よりもあの女がいいの。もしかして、私は捨てられちゃうの。あれ、おかしいな。明も私のこと愛してくれているのに。明はそんなことしないよね。全部あの女が悪い。もう殺るしかないかな。こういう時はタイミングが……」

 何か、ブツブツ言っているよ。
 これは、あれだな。
 神楽夜が完全に攻撃対象に選ばれている。
 しかし、俺も、伊達に一ヶ月付き合っているわけじゃない。
 俺の脳内には、美咲シミュレーションが出来つつある。
 これを使えば、最悪の事態は回避できるはずだ。
 唸れ、美咲シミュレーション!



 パターン1
 幼馴染として美咲に紹介する……

 「美咲、こいつは俺の幼馴染なんだよ」

 「へぇ、それは、私よりも大切なの?」

 「いや、そういうわけじゃ……」

 「なんで、はっきりしないの?」

 「そ、それは、お前が一番わかるだろう」

 美咲の手には、包丁が握られていた。
 一体どこにそんなものを隠していたのかわからない。
 後ろでは、神楽夜が怯えきっている。
 もうすでに泣いていた。

 「ひく、私と明はただの……」

 「ただの、何? もしかして、明を弄んでたの? 幼馴染だから。許せない。許せない」

 美咲は、神楽夜に包丁を突き刺す。
 教室に血の雨が降った。
 ここにいるのは、俺と美咲だけ。
 あとは、死んでしまった、神楽夜の死体がある。

 「ずっと一緒だよ。明!」

 BAD END



 この対応じゃだめだ。
 正直に話したら、神楽夜が殺される。
 違うパターンを考えないと。

 「どうしたの? 顔色悪いけど」

 なにも考えなしに、近づいてくる神楽夜。
 俺は、後ろから、殺気を強く感じるのに、こいつはなにも感じないのか!

 「ちょ、ちょっと待。それ以上近づくな!」

 「それはひどくない? 私たちは……」

 「いいから、ちょっと黙れ。今考え後としているんだ」

 「むう」

 ちょっと怒った様子を見せる神楽夜。
 でも、仕方がないことなんだ。
 誰も死人を出さずに、平和にこの状況を回避する方法。
 それを探さないと。

 頼んだぞ、美咲シミュレーション!


 パターン2
 クラス委員の仕事だからとごまかす……


 「これは、クラス委員の仕事だから仕方が無かったんだよ」

 「それにしては、親しそうに話していたよね」

 「い、いや、だって」

 「だっても待ってもない! なんで、そんな女と親しくしているのよ!」

 スーっと、カバンから包丁を取り出す。
 そして、その包丁を俺に向けてくる。

 「あなたがいけないの。あなたがいけないのよ! 私というものがありながら、他の女に現を抜かすなんて! 私がいるのに。私がいるのにぃぃぃ」

 「ちょっとまて、落ち着け。美咲は誤解しているぞ」

 「誤解なんてないよ。私はいつも明を見ているんだもの。その声を聞いているんだもの。私にはわかるんだよ!」

 美咲は、泣きながら包丁を構える。
 神楽夜も驚愕した顔をする。
 包丁で刺したら、最悪死んでしまう。
 本当にそんなことをするとは思っていなかったんだろう。

 ああ、俺は選択肢を間違えた。

 美咲は俺の首を包丁で切り裂く。
 俺から、赤い血が飛び散った。
 それが、俺が見た最後の光景。

 DEAD END


 やっべ、俺死んじゃうよ。
 委員会の仕事なんて言ったら確実に死んじゃうよ。
 どうしよう。マジでどうしよう。

 「どうしたの、明。本当にさっきっから様子がおかしいよ」

 「だ、大丈夫だ。俺はまだ大丈夫」

 「本当に? 私が無理言ったから? ごめんね。保健室に連れて行こうか?」

 「だ、大丈夫だ。問題ない」

 そんなことされたら、確実に殺される。
 間違いなく殺される。
 俺は、美咲と幸せな家庭をつくるまで、死ぬわけにはいかないんだ!
 それに、美咲を犯罪者にできるはずがない。

 こうなったら、違うパターンだ。

 行くぞ! 美咲シミュレーション。


 パターン3
 壁ドンして、強引に納得させる。

 俺は美咲に近づいていく。
 美咲は、とても不安そうな顔をしている。
 今にも泣きそうだ。
 それだけ、俺が好きなんだと思うと嬉しくなる。

 美咲がカバンに手を付けようとする。
 その前に、壁に、ドンと大きな音をたて、美咲を追い込む。
 美咲は少し怯えた表情をした。

 「美咲。あいつはただの幼馴染だ。俺が愛しているのはお前だけ。俺の言葉が信じられないか?」

 美咲は、首を小さく横にふる。

 「俺とあいつに、友達以上の感情はない。だから安心してくれ。もし、もし不安なら、俺と一緒にいろ!」

 「ふぁい……」

 美咲が俺に抱きついてきた。
 誰も死なずに、この場を乗り切れることができた。

 HAPPY END


 これだぁぁぁぁぁ。
 これなら、みんなが幸せになれる。
 美咲が人を殺すこともない。
 神楽夜も死ぬことがない。
 これしかない。

 俺は、スッと席を立つ。

 「明?」

 「ちょっと待ってな。平和に解決してやるよ」

 「一体何を言って……」

 俺は教室のドアを勢いよく開ける。
 その行動に驚いた神楽夜だったが、それよりも、開けた先に美咲がいることに驚いたようだった。
 そんな神楽夜を無視して、俺は美咲の元に向かう。

 そして、壁ドンした。

 「あ、明?」

 「おまえ、すごく不安だっただろ。あいつと俺は幼馴染。ただそれだけだ。俺が愛しているのは、美咲しかいない。俺の言葉が信じられないか?」

 美咲は、首を小さく横にふる。

 そんな光景を見せられる、神楽夜はドン引きした表情になっていた。

 シミュレーション通りに事を進めようとしたとき、美咲に引っ張られて、唇を奪われた。

 「へへ、明が愛してるって言ってくれた。そんな明を信じないわけないよ」

 「そっか、ありがとな。美咲」

 そっと、美咲を抱きしめる。
 そんな光景を見せられる神楽夜は、何か諦めた表情をしていた。

 「はは、かなわないな」

 神楽夜が何を思ったのか、全くわからない。
 今わかっているのは、無事にこの件を解決できたという事実だけだ。

 このあと、神楽夜に、俺と美咲がイチャラブしながら作業をしてるところを見せつけた。
 この時の神楽夜の顔は、何か、複雑な思いがあるかのようだった。

 ふう、今回も、誰も死なずに乗り切れた。

 俺の彼女の愛は重い。
 それは、とてつもなく、この地球のどれよりも重い。
 でも、そんな彼女の重たい愛を、俺は全力で受け止めてやる。

 美咲は……最悪で、最愛の、俺の彼女だ!

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コメント

  • ノベルバユーザー601499

    みんなかわいいし、キャラクターも沢山いるけど個性があってマジで面白いと思いました。

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