傭兵の俺が女子高にいるわけは

日向 葵

傭兵の俺が女子高にいるわけは

 目が覚めて一番最初に見たのは白い天上だった。
 部屋の中を見てみると、病室のような部屋に寝かされていたらしい。

 俺の名前は、森畑 修。
 とある傭兵部隊に所属しており、戦場を駆け巡って生活していた。
 俺が所属していた傭兵部隊は、軍と同じ階級制度を持っており、俺の階級は軍曹だった。
 少佐の指示のもと、戦争に出ていたんだけど、しくじって攻撃を受けてしまったらしい。
 あの時は死んだと思ったんだけど、どうやら生き残ったようだ。
 だが、今いる場所がクライアントの国であるとは限らない。
 もしかしたら、敵国の捕虜として捕まってしまった可能性がある。
 警戒を怠らないようにしなければ。
 まぁ、縛られていないあたり、敵国につかまった可能性は低いが……
 それでも、警戒する必要があるだろう。

 現在、部屋には誰もおらず、監視カメラや盗聴器などは設置されていない。
 いや、目にあるところに設置するのはナッセンスだ。
 人目につかないようにするのが普通なため、細かく確認する必要がある。

 部屋中を確認してみて、残る場所は洗面台。
 そこを調査しようとしたとき、あるものが目に映った。

 それは、鏡。
 普通なら、自分の姿などが映っているはずの鏡に、可憐な少女が映っていた。

 「これは……一体……」

 はて、これは誰だろうと、後ろを振り返ってみても、誰もしない。
 この場所には俺しかいない。
 そもそも、自分の姿が映っていないのが不自然だ。
 なぜ、俺の姿じゃなく、少女の姿が映る。

 は、もしかして。
 俺は鏡を見ながら体を動かしてみる。
 すると、俺が動いた通りに鏡の少女が動いた。
 これは間違いない。
 鏡に映っている少女が俺だ。

 「まてまて、なんでこんなことになっているんだよ」

 頭の中が混乱する。
 俺は、戦場に出て、敵の攻撃を受けて怪我をした。
 目が覚めたら少女の姿になっている。
 いろんなところがおかしいだろ!

 俺の身にいったい何が起きた。
 俺はどうしてこんな姿をしている。
 そういえば、もっと早く気が付くべきだったかもしれない。
 思ったより力が入らないとか、目に映る自分の腕が細くなっているとか、気が付くチャンスはいつでもあった。
 畜生、頭が混乱してくる。

 ん、鏡に映っている少女が俺ならば、俺の性別は一体どうなっている。
 男として大事なあれがなくなっている、なんてことはないよな。
 嫌だぞ。
 戦場を駆け巡ってきた俺が、突然女になるなんて。
 そんなこと、あってはならないんだ。
 恐る恐る確認してみる。
 あった。
 俺はまだ男らしい。
 なんだろう、すごく安心する。
 よかった。男としての尊厳は守られた。

 安心しきっていると、部屋の扉が開いた。

 「あら、もう目が覚めたの」

 「あの状況から助かったか。軍曹は運がいいな」

 やってきたのは、学者風の女性と、俺の直属の上司である少佐だ。

 「少佐。これは一体どういうことですか。なんで俺の姿が少女のように……」

 「それは彼女から説明してもらおう。美紀君。お願いするよ」

 「了解。君は戦場で敵の攻撃を受けて、負傷してしまったことを覚えているかい?」

 「ああ、うっすらとだが覚えている」

 あれは本当にやばかった。
 今生きていることが奇跡に近い。
 俺は、あの場所でそんな攻撃を受けたんだ。
 でも、それに何の関係があるんだ。

 「なら話が早い。君の体のほとんどが破損して、生きているのが不思議な状態で運ばれてきた」

 やっぱりそうか。
 なら、助けてくれたのはこの女性か?

 「少佐からも、君のことを助けてほしいと頼まれてね。精一杯頑張ったよ」

 「それと俺の姿に何の関係が……」

 助けてくれたことには感謝する。
 だが、それと今の状況と結びつかない。
 なぜお、俺の姿が……畜生。

 「君の体を修復するときに、私の遊び心がうずいてしまってね。そんな姿にしてみたのよ。どう、気に入った?」

 「ふ、ふざけるな。助けてくれたのはありがたいが、この姿はないだろ!」

 「いやん。怒られちゃった。本当は女の子にしたかったんだけど……少佐が男としての尊厳ぐらいは保ってやれって言われちゃって」

 「少佐、感謝します!」

 あれ、突然涙があふれてきた。
 少佐が言ってくれなかったら女になっていたのか。
 考えるだけでぞっとするぞ。
 もともと女で生まれたならともかく、男として生を受けた俺が、怪我の治療で女になるなんて洒落にならん。

 「そんなわけだ。体にはいろいろ問題が残っていると思うが、生きていてよかった」

 「少佐……迷惑かけてすいません」

 「気にするな。お前がその姿になったことだし、別の任務についてもらうことにしよう」

 「べ、別の任務ですか……」

 戦場で失敗したんだ。
 これは仕方がないこと。
 次の任務で少佐からの信頼を取り戻さないとな。

 「俺、やります。やらせてください。前の失敗を払拭できるような働きをします!」

 「おお、そうか。だったら話は早い。これを読んでおいてくえれ」

 そういって少佐は資料を渡してきた。
 中身を確認してみると……女子高のパンフレットだった。
 まて、なぜ女子高のパンフレットを渡される。
 少佐は俺に何をさせようと……

 「お前には、この学校に通ってもらい、主要人物である姫君の護衛をしてもらう。王都との距離はあるが、戦場も激戦になっている。王が不安に思うのも無理はない。だから、俺たちに護衛を任せたいそうだ」

 王都の姫君を護衛する任務か。
 それは、大変重要な任務だ。
 だけど、よくわからないことがある。
 まったくもって理解不能なことが…… 

 「ちょっと待ってください。俺は男ですよ。なんで女子高なんですか!」

 「今のお前の姿を見て、誰が男だと思う」

 「う……」

 俺の姿は完全に少女。
 誰が見ても女って答えるだろう。
 でも、だからってそれはないよ。
 俺は一体どうすれば。

 「それとも、失敗を払拭する働きをするっていうのは嘘なのかね」

 「それは……」

 「だったらやれ。お前の働きに期待しているぞ」

 「はい……頑張ります」

 俺はいったいどうなるんだ。
 どうしてこんなことになった。

 「じゃあ、君には女の子のお勉強をしてもらいましょうか。こっちに来て」

 学者の女性、美紀って言ったっけ。
 俺は美紀に引きずられるような形で、病室を後にした。

 俺は一体どうなるんだ……

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