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蘇ったら、世界が平和になっていた!?

日向 葵

魔王さま、ゆったりと移動する

 「もう大丈夫。ひどいことされる前に私が助けたから。何も心配いらないよ」

 「ほ、ホントですか」

 涙目になりながら、私を見つめてくる少女。
 悪魔なら悪魔らしく、この少女を痛めつけるのが正しいのだけど、私にそんなことはできない。
 私は、この子の笑顔が見たいのだ!

 「あの、冒険者たちはどうなりましたか?」

 「魔物が集まってきそうな場所に……」

 「集まってきそうな場所に?」

 「吊るしてやったわ!」

 「ふぇ!」

 なぜか、顔が真っ青になる少女。
 私、変なこと言ったかな?
 悪い奴は吊るせ。
 そして、痛めつけろ。
 悪くないやつも吊るせ。
 そして、痛めつけろ。
 これは世界の常識でしょ?

 「わ、私も吊るされちゃうのですか?」

 「え、吊るされたいの?」

 勢いよく、首を横に振る少女。
 その仕草は、小動物みたいな愛らしさがある。
 でも、この少女は微かに震えている。
 未だに顔は真っ青だ。
 納得いかない!

 「あの、なんで私は抱きしめられているんですか?」

 『ベルゼ様。この少女は、いきなり抱きしめられて困惑しているでしょう。理由を説明してあげてください』

 なるほど、そういうことか。
 襲ってきた冒険者を吊るした奴が、抱きしめているんだしね。
 そりゃ怯えるわ。

 「危ない目にあって、怯えていたからね。これで少しは安らぐと思ったんだけど……嫌だった?」

 「そ、そんなことはないです。ありがとうございます」

 「ふふ、可愛いなもう」

 私が再び抱きしめると、少女は「ひゃう」と小さく悲鳴をあげる。
 でも、さっきより落ち着いたみたいで、震えは止まっていた。

 「あの、私はティルミって言います。お姉さん?のお名前は……」

 「ティルミちゃんね。よろしく。私はベルゼ・ビュート。ベルゼって呼んでね。ところ、お姉さんってところ、なぜに疑問形?」

 「ベルゼさんが私と同い年ぐらいに見えたから」

 うん、そうかもしれない。
 私の今の姿って、小さな少女みたいになってるんだよね。
 たぶん、数千年も封印されていた影響かな。
 いや、そうでもなかった気がするけど……
 人間の年齢で言ったら12~13歳ぐらいに見えるかも知れない。
 それで迷ったのかな。
 言われてみると、ティルミちゃんと私って、体格が一緒だ。
 むむ、これは悩むね。

 「ベルゼさん。助けていただいてありがとうございます」

 「いや、私は当然のことをしたまでだよ」

 「あの、助けていただいてなんなんですけど、お願いがありまして」

 「ん、私にできる事ならいいよ」

 ティルミちゃんの顔が、ぱぁっと明るくなった。

 おお、なんて可愛らしい笑顔。
  これは、なんていうか、やばいね。
 笑顔を見て嬉しい気持ちになってくる。

 「あの、私を街まで護衛してください。私は各地を旅している商人なんですが、森には魔物がいて、私一人じゃダメなんです。ベルゼさんが一緒だと心強いんですが」

 「いいよ。私に任せなさい」

 「ほ、本当ですか。ありがとうございます」

 嬉しそうな笑顔を見せながらお礼を言うティルミちゃん。
 ふふ、可愛い子と一緒に人里に。
 ほんと、助けて良かったよ!

 「それで、何処まで行くの?」

 「もう半日ほど進んだあたりに、【フリーゼル】っていう街があるんです」

 「フリーゼル?」

 「え、知らないんですか!」

 なんで知らないのって顔されちゃったけど、知るわけないじゃん。
 私は、起きたばかりの魔王なんだから。
 ……そんなことをティルミちゃんに言っても虚しくなるだけだよね。

 「そ、そんなに落ち込まないでください」

 「でも、私って無知だから……ごめんね」

 「あうあう~」

 ティルミちゃんが困った顔をしていた。
 うん、そんな顔も可愛らしい

 「フリーゼルは、私が拠点としている貿易都市なんです。物流が盛んで、いろんなもので溢れかえっている素敵な街ですよ」

 「すっごく楽しそう。でも、なんで貿易都市がこんな森の中に?」

 「それは……」

 『それは私がお答えしましょう。ベルゼ様!』

 「黙れ!」

 「ひう、ごめんなさい。ベルゼさん」

 あ、つい口に出しちゃったよ。
 ティルミちゃん。ちょっぴり泣いちゃってる?
 せっかく笑顔にしたのに!
 おい、ベルフェ!

 『だって、もっと構って欲しいんですよ。使って欲しいんですよ』

 それは、時と場所を考えような!
 ティルミちゃんといい感じに仲良くなっていたのに!

 『うう、ごめんなさい~』

 ベルフェのせいで、台無しだ!
 もう一回頑張るよ。
 負けるな、ベルゼ。魔王はできる子なんだよ!

 「ティルミちゃん、ごめんね。あなたに言ったわけではないの」

 「そ、そんなことないですよ。きっと私が……」

 「私には……幽霊、そうよ。幽霊が取りついているの」

 「ひう、幽霊ですか!」

 「そう、幽霊。その幽霊がね」

 「幽霊さんがどうしたんですか」

 「ティルミちゃんが説明しようとしたときに『私が説明するの!』ってダダこねてきたのよ」

 「……それ、本当に幽霊なんですか?」

 うう、疑惑の目を向けられる。
 でもね、私のせいじゃないんだよ。
 畜生、ベルフェが悪いんだ!

 「ふふ、ごめんなさい。ベルゼさんのいうことを信じますよ。きっと、何かが聞こえたんですよね」

 「うん。正確には、私が作った魔法システムなんだけど……」

 「私、魔法ってよくわからないんですけど。優しいベルゼさんだから信じます。商人にとって、信頼が1番大切なんですよ?」

 「あ、ありがとう。ティルミちゃん」

 あーよかった。
 一時はどうなるかと思ったよ。
 でも、あれ?
 なんか、私が慰められているような感じになったけど……
 まぁいいか。

 「それでですね。なぜ貿易が盛んなフリーゼルが、こんな森の中にあるのかいうと、各諸国の中心に位置する街なんです。貿易している商人は、陸路を進むときに必ず通る街。それがフリーゼルです」

 「あ、なるほど。陸路だけで考えた場合か。そんでもって、中間地点にできているから、商人たちの休憩所になる。自然と商業が盛んになっていくってわけか」

 よくできた場所に作った街じゃない。
 まさに、楽しむためにあるって感じがする。
 だってそうでしょう?
 その街にいるだけで、いろんなものが見られるんだから。

 「じゃあ、出発します。よろしくお願いしますね。ベルゼさん」

 「ほいよ。私に任せなさい!」

 ふふ、楽しい旅になりそうだな!


 *


 数時間が経過した。
 街まで、あと半分ぐらいの距離らしい。
 つまり、あと数時間かかるってこと。
 道のりはまだまだ長い。

 「この道をこんなに落ち着いて動けるなんて、なんだか怖いですね?」

 「ん、なんで?」

 「あれ、ここの森って、魔物も多く生息しているので、よく襲われるんですよ」

 「へ~そうなんだ。てっきり、のんびりした魔物が生息しているんだと思った」

 「え、なんでですか?」

 「周りに大量の魔物がいるんだけど、全然襲ってこないし」

 なんかね。
 周りに大量の魔物がいるんだよね。
 みんな、こっちを見ているんだけど、なんか怯えているみたい。
 やっぱり魔物だと戦力差ってわかるのかな?
 それとも、穏やかな魔物がいて、そいつが襲うなって言っているのかな?

 「……本当に大量の魔物がいるんですか」

 「うん、ずっと見ているよ」

 「な、なんで言ってくれないんですか!」

 「別に危険じゃないしね。たいしたことない」

 「たいしたことないって、魔物ですよ。大量の魔物に襲われたら……」

 う~ん、ティルミちゃん。ちょっと怯えすぎじゃないかな?
 所詮魔物だよ。
 あんなのが何十万いたとしても、相手にならない雑魚だよ。
 龍種が何十万いたとしたら、ちょっと本気出さないといけないかもしれないけどね。
 魔物なんてその程度。

 「く~ん、く~ん」

 「ま、魔物!」

 ちょっと大きめの魔物が現れた。
 狼型の魔物で、ちょっと可愛らしい。
 それに、あの鳴き声。
 ちょっと愛でてみたい!

 『あ、キングブラックウルフですよ。群れで行動するブラックウルフのボスですね。一匹でいるなんて珍しいですよ。レアです』

 ふーん、珍しいんだ。
 そう聞くと、なんか得した気分になるよ。

 『そう思ってもらえて光栄です!』

 「ベルゼさん、魔物です。お願いします。私は隠れてますから」

 「そういえば、護衛引き受けていたんだった」

 「忘れてたんですか!」

 「う、ごめんね。ちゃんとやるから」

 私は、キングブラックウルフをバッサリやるために馬車を降りた。

 「く~ん、く~ん」

 私が馬車を降りたとたん、仰向けになって腹を向けるキングブラックウルフ。
 可愛いなこいつ。
 近づいて、おなかあたりを撫でてあげたら、気持ちよさそうな顔をした。
 この表情を見る限り、この魔物に敵意はないね。
 あ、ブラックウルフって群れを成すんだっけ。
 さっきベルフェが言っていやよね。
 で、その群れのトップがキングブラックウルフなわけで。
 こいつを手なずければ、ティルミちゃんが安全になる?

 「ティルミちゃん……」

 「ど、どうしたんですか!」

 「この子……お持ち帰りしよう……」

 「え……」

 ティルミちゃんが、困惑した表現で馬車から顔を出す。
 なぜにそんな顔をする。

 「何言っているんですか。ベルゼさん。魔物をお持ち帰りなんて。そんなことできるわけ……」

 そう言って、キングブラックウルフを見たティルミちゃんは、さらに困惑した表情になる。

 「一体何をしたんですか?」

 「ふふ、近づいたら、服従のポーズした。なんか可愛らしいよね」

 「う、確かに可愛らしいですけ……大丈夫なんですか?」

 キングブラックウルフを見る。
 完全に服従しているっぽいし大丈夫だよね。

 「大丈夫だよ。触ってみる」

 「う、ちょっと興味があります……」

 ティルミちゃんが馬車から降りて、恐る恐る、キングブラックウルフを触った。
 なんか、私が触った時より、気持ちよさそうな表情をするキングブラックウルフ。
 負けた気分になる。

 「いつも襲ってくるので、怖いイメージがありましたけど、大人しい魔物だと可愛いです」

 「ガウガウ!」

 ベルフェ、翻訳。
 今、キングブラックウルフが言ったことを翻訳。
 なんとなくわかるけど……

 『ふふ、キングブラックウルフは、ティルミのことをご主人様って言いましたね。ベルゼ様、完全に寝取られましたよ』

 最初は私に服従のポーズしたのに。
 なんかショックだよ。
 まあ、それだけティルミちゃんが可愛いってことだよね!

 「よし、ブラックウルフキングよ。お前んとこの群れを呼んで、ティルミちゃんを守ってあげて。できれば末永く!」

 「ガウガウ!」

 「え、そんなことして大丈夫なんですか!」

 「大丈夫じゃない?。ティルミちゃんのことをご主人様って思っているっぽいし」

 「私がですか?」

 「そ、ティルミちゃんが」

 ティルミちゃん、ちょっとうれしそう。
 きっと、可愛い魔物を従えたからだよね。
 うん、きっとそうだ。

 くぅ~

 私のお腹が小さくなる。
 そういえば、復活してから、何も食べていない。
 お腹すいたな~

 「あの、ビスケットしかないんですけど、食べます?」

 「ビスケット?」

 「はい、とってもおいしいお菓子なんですよ!」

 私は、ティルミちゃんから、ビスケットを受け取る。
 硬くて、丸くて、平べったくて、よく分からない食べ物。
 ビスケットをマジマジ見ていると、ブラックウルフたちが集まってきた。
 たぶん、キングブラックウルフが呼んだ奴らだと思う。
 んで、ブラックウルフ達は、私がもらったビスケットをマジマジと見ていた。
 そんなに見られると食べにくいよ。
 せっかくもらったんだから、食べるけどね。
 というわけで、ビスケットなるものを食べてみる。

 ……なんだこれは。
 見た目はよくわからなかったけど、サクッとした食感とほんのりと甘い味。
  ちょっと物足りない感があったけど、とってもおいしい。

 「ど、どうかしましたか?」

 「おいしい……」

 「はい?」

 「これ、とってもおいしいよ。ビスケットって言ったよね。私、こんなに美味しいもの初めて食べた。ビスケット、バンザーイ」

 はっ、嬉しさのあまり叫んでしまった。
 ちょっと恥ずかしいけど、周りにいるのはティルミちゃんとブラックウルフたちだけ。
 ならいいか。

 ん、ブラックウルフたちが、涎をたらしながら私を見ていた。

 「もしかして、ビスケット?」

 全ブラックウルフたちが頷く。
 私が美味しそうに食べていたからかな?

 「ティルミちゃん。おかわりー。あと、ブラックウルフたちも欲しがっているみたいなんだけど」

 「ふふ、一応たくさんあるので食べてください。ただ、このままだと、今日中にフリーゼルにたどりつけないので、移動しながら食べましょう」

 「わかった!。みんなも大丈夫」

 ブラックウルフたちは、「ガウガウ」と叫びだした。
 みんな、了承してくれたっぽい。

 私たちは、ビスケットを食べながら楽しく移動して、数時間後にフリーゼルにたどりついた。

 さぁ、やっと人里だよ。
 ビスケットっていう、おいしい食べ物があることもわかったし、楽しいことを探すぞ!

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