僕のせいで離婚の危機!

日向 葵

僕のせいで離婚の危機!

「もう嫌や。私はこの家を出ていきます!」

 そう言って、俺のオカンは家を出て行った。
 オカンが家を出ていく理由なんて一つ。
 どうせ、オトンの浮気やろ。

 俺がリビングに行くと、オトンが座椅子に座り、頭を抱えていた。
 はん、そうなるんやったら、始めっからやめときゃええのに。
 俺のオトンとはいえ、馬鹿やな~

 俺もリビングに入り、オトンと対面できる座椅子に座った。

「なぁ、オトン。オカンが出て行ったで。
 どうせ浮気やろ。さっさと追っかけて、謝ったほうがいいんとちゃう?」

「なぁ、利夫。香織がなんで逃げたのか、ホンマに分からんの?」

「俺はもう言ったやん。オトンの浮気やろ?」

 オトンは急に立ち上がり、俺に告げたんや。
 オカンが逃げた本当の理由。

「お前のせいで香織が逃げたのに、なんでお前はわからんの!」

「なぁ、オトン。俺はまだ子供やろ。オカンが逃げる理由にならへんって」

「お前はアホか。そんな喋り方する五歳の子供がおってみん。俺やて逃げたいわ」

「なんで俺のせいになるん。そんなわけないやろ」

 俺はいつものやつをポケットから出す。
 それを口に咥えようとして、オトンに止められた。

「利夫、お前何やっとるん。なんでお前がタバコなんて持ってんの。没収や没収。五歳の子供がタバコとか、マジでありえへんって」

「オトン……」

「なんや、利夫……」

「それ、シュガレットやで」

「お、ホンマや。すまん、勘違い……ってなるかぁ。紛らわしいことすんなや」

 オトンに頭を、バチンと叩かれる。
 なかなかの突っ込みやったけど、痛い……

 オトンは本当にシュガレットか、中身まで確認したあと、ドシっと音を立て、座椅子に座った。
 ダイエットしたほうがいいんとちゃう……とか心の中で思ったんは内緒!

「オカン……泣いとったで。はよ迎えに行かんでええの?」

「それは、迎えに行かなあかんけど。その前にお前と話とかなあかん」

「なんや、あらたまって。俺にいうより先にオカンに言うことがあるんとちゃう」

「いや、先にお前に言わなあかんねん」

「じゃあ、早く言ってや。こんなことで離婚されると、マジで困るんやけど。
 俺、まだ五歳やぞ?」

「ああ、だから言いたいことが仰山あるん」

「じゃあ、早く話済ませよや」

「なんか、ヤクザっぽくなってへん……
 んまぁええ。
 教えてくれ、お前に何があったん?」

「何がってなんや」

「二日前まで、パパ、ママ言っとったのに、お前に一体何があったん」

 オトンは、これでもかというぐらい、近づいて言ってきた。
 そんなんせんでも、俺は逃げんって。
 しゃあない。俺がこんな性格になった理由、オトンに語るか。

「二日前、いつものあいつらとおってん」

「おお、幼稚園の友達か?」

「ああ、そうじゃけん。じゃけど、急に奴らがやって来おった。
 それが一番の原因だっちゃ」

「? なんで言葉の訛りが変わるん」

「オトン、そんなん気にしとったら話進まんで」

「おお、すまんすまん」

「続きやけど、あいつらに連れ去られて……目が覚めると知らない場所におってん」

 オトンの表情が青ざめる。
 まぁ、誘拐話を聞いたら、青ざめるわな。
 大事な息子が大変な目にあってん。
 それで何も思わんやつは親やない。

「それで、一体何があったん」

「手元にはナイフ。周りはよくわからん森の中。ワシは、ナイフ一本で森を駆け巡り、動物を狩りながら進んで行ったんや」

「なんで、急に一人称がワシに変わるねん」

 オトンに突っ込みという名の、拳骨をもらった。
 地味に痛い……

「んまぁ、なんとか生きとってんけど、どこいったらいいかわからん。
 どないしよう……ってホンマに悩んだわ」

「それは……すまん」

「そんな気にせんでええって。あれは仕方がないことやってん。
 俺は森を彷徨って、ようやくあの場所に……幼稚園に辿り着いたんや」

「そういえば、お前が変わったんは、幼稚園から帰ってきた後やったな。
 そんなことがあったら……性格が変わってしまっても、しゃあないな」

「そうやろ。俺は……そういうごっこ遊びをしたんや」

「ごっこ遊びかい!」

 ビンタという名の突っ込みが入れられる。
 マジで痛い……

「ごっこ遊びだったんなら、早く戻ってよ。じゃないと香織が戻ってこないじゃないか」

「なんや、いきなり東京弁喋って。気持ちわるいわ!」

「ちょ、お前、何言うてんの。東京弁やない。標準語や。しっかり覚えておき。
 んで、早く元のお前に戻ってや。ホンマに、香織が帰ってこおへんくなる」

 俺は頭をかきむしった。

 そして、僕は..ニパッっと笑って、パパにこう言ったんだ。

「うん、もう戻ったよ。パパ、大丈夫?」

「やっと、戻ったか。よし、香織を探しにいこか」

「うん、ママを迎えにいこ!」

 無事にママを見つけて、連れて帰ることに成功したんだけど……帰った後、めっちゃ怒られた。
 ちょっと遊んでただけやのに…… 

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