見ちゃった私はどうすりゃいい
見ちゃった私はどうすりゃいい
「あーもう、どうしよう!」
私は家のベッドで一人、悶々としていた。
私、石川春美は見てしまったのだ。見てはいけない大好きな彼のあれを!
******
あれは今日の夕方のこと。
私は幼馴染で好きな人でもある大矢英二の家に遊びにいった。
インターホンを鳴らすと、英二のお母さんが迎えてくれる。
「あら、春美ちゃん。いらっしゃい」
「英二のお母さん。お邪魔します。あ、これ作ってきたので、どうぞ」
カバンにしまっていたタッパーを取り出して、英二のお母さんに渡した。
私の趣味は料理だったりする。思春期な私たちは、なんかこう、男の子の家に行きにくくなる時期が来る。だって変な噂とか出たらいやじゃん。だけど大好きな幼馴染の家にいけなくなるのは嫌だった。だって、距離置かれているみたいだし。何より私が近くにいたいから。
だから一緒にいられる口実として、英二のお母さんに料理を教えてもらった。そして、気がついたら大好きになっていた。料理をするのは本当に楽しい。今では英二のお母さんと作ったものをおそそわけし合う仲にまで発展した。
「いつもありがとね。今度おばさんが何か作って持ってきてあげるから」
「ホントですか、ありがとうございます!」
「それはそうと、英二はいま部屋にいるわよ。仲良くやってちょうだいな。わたし的にはいつお嫁に来てもいいわよ。春美ちゃんなら大歓迎」
「もう、英二のお母さんったら。わたし、英二のところにいきますね」
「ええ、後でお茶でも持って行くわ」
「ありがとうございます!」
私は靴を脱ぎ、家に上がる。玄関のすぐ近くに階段があり、それを登ると三つの部屋がある。
そのうちの一つに『英二』と書かれたプレートがぶらさがっていた。
小学校の時から変わらない、英二の部屋。
いつもどおりに私は扉を開いた。
「やっほー英二! 遊びに……き…………たよ……」
「なぁ!」
何だろう、気のせいかな。私の目の錯覚かな。英二がパソコンをつけて何かをやっているよ。
なんかズボンを脱いで、下半身がスッポンポン。パソコンからは喘ぎ声のようなものが聞こえるぞ。
目をこすってもう一度見ると、景色は変わらない。
呆然とする英二の姿。その手は、その、あれを握っていた。
「い……いやぁぁああぁぁぁぁあ」
「ちょ、ま!」
私は慌て扉を閉めて階段を降りる。
え、嘘。あの英二があんなこと。どうしよう。わたし、見ちゃった。
だって、あれって絶対……。
上からドタバタと慌ただしい音がする。
バンっと大きな音がしたあと、英二が慌てて降りてきて、私の頭を揺らした。
「ちょ、待って英二!」
「……………」
「いや、やめ……」
「……は! すまん」
英二が申し訳なさそうに私の頭を離す。その後すぐ、ドンッと私の後ろの壁を叩いて追い詰める。
女の子の憧れ、壁ドンというやつだ。
ちょっとドキッとした。だけど何だろう。さっきの光景が頭をよぎる。私の顔が熱くなるのを感じる。
ゆっくりと英二の顔を見ると、せっかくのかっこいい顔が台無しになりそな濁った魚の目で私を見つめていた。
「ひぃ」
私は怯えた声を出す。何だろう。今の英二。とっても怖い…………。
「なぁ、春美……」
「な、何、英二。怖いよ」
「ごめんな、突然頭を揺らして……」
「うん、私は大丈夫だから、離して、ね」
「……頭を揺らせば忘れると思ったんだ」
「…………えっ」
私が変な声をあげると、英二の顔が私にだんだん近づいてくる。
目と目が見つめ合い、私のドキドキと恐怖心が跳ね上がる。
「さっき見たこと……忘れてくれねぇか」
「は……は、い」
私は怖くて頷いた。目頭が熱くなる。ホロリと涙がこぼれた。
怖い、どうしよう。そう思っていると、バッシンと大きな音がして、英二がよろめく。
「英二! 女の子になんてことしているの。大丈夫? 春美ちゃん」
「あ、ありがとうございます、英二のお母さん」
「ならいいわ。こら英二。全く、このダメ息子は」
「っち、これには俺たちの事情があるんだよ」
「こら、親に向かってなんて口を聞くの。それに、いつも来てくれる春美ちゃんに悪いじゃない。全く!」
「いえ、英二のお母さん。これは……私が悪いんです。ごめんなさい。今日は帰ります」
「え、春美ちゃん?」
「本当にごめんなさい。おじゃましました」
******
とまぁこんなことがありまして、私は逃げるように英二の家を出た。家に戻って部屋に駆け込んでベッドにダイブ。現状に至る。
あんなところを見ちゃった私はどうすりゃいい。
忘れるって言っちゃったけど、あんな光景忘れられるわけがない。印象が強すぎて鮮明に思い出せてしまう。どうしよう。
もしこれで英二に嫌われたら……うう。
とにかく忘れよう。
そう思った私は、スマフォを取り出して、Google大先生を開く。
「えっと、『記憶 忘れる』っと」
検索結果を上から順に見ていく。すると『嫌な記憶を消す方法』なんてものがあった。開いてみるとどっかのブログ見たい。なんと書籍化までされているらしい。
これは参考になりそうだ。
私は上から順にブログを読んでいく。
「えっと、人は過去の記憶に悩まされます?
私が忘れたい記憶は過去っちゃ過去だよね。
で、えっと、自動的に思い出して頭でぐるぐる無限ループ」
意味がよくわからない。ちょっと私には難しいな。でも、嫌な出来事をフッと思い出す経験はある。そして、現在進行形で英二のあれをフッと思い出して足をバタつかせている。
よくわからないながら読み進めていくと、ある一文に目が止まる。
「え、記憶グルグルはコントロールできるの!」
これはもう実践するしかない。
これが私の最後の望み。これがダメなら……死ぬしかない。英二に告白する前に嫌われてしまったら……私は一生立ち直れない。そんなの嫌だ!
読み進めてみるけどやっぱり難しい。わたし、頭が悪い子だったんだ……。成績は一応上位なのに……こんなのもわからないなんて。ニューロンって何。え、シナプス。わからないよ。そんなの。
難しい専門用語みたいなのがあったりするので、そういうのはすっとばして分かるところだけ読むことにした。
「えっと、記憶を消すのは超簡単。二つのあることをするだけ。
それがプラス思考と記憶を飛ばす(サブモダリティ・チェンジ)?」
よし! まずはプラス思考ってところから見てみよう。
「えっと、傷つきやすい性格だったりすると、常に消したい記憶が増えます? いや、別に傷つきやすい正確じゃないしな。
ここ、別に読まなくてもいい気がする。
だって、これってネガティブな性格の人は消したいことがたくさんあるから性格を変えようって話でしょ。私が消したいのは英二のあれだけだし。すっ飛ばそう!」
私はササッとすっとばし、記憶を飛ばす(サブモダリティ・チェンジ)の説明が書かれている箇所をチェックする。
「えっと、記憶を思い出す人は大抵の場合は映像が流れている? それを律儀に見るから忘れられない。それは一理ある、で、どうすれば……え、映像をぷっつり切る。映像にぼかしを入れる? 遠くに投げ飛ばす? 音楽をガンガン流す? 意味不明……」
要はこういうことかな。イメージが流れた瞬間に別のものをイメージしたりして、その記憶を思い出さないようにする。そうすると忘れるよってこと。
よーし、いっちょやってみるか。
あ、英二のアレが流れた。別のものを考えないと、えっと、えっと。あーダメ、思い出しちゃう。鮮明に思い出しちゃう。忘れられない!
どうしよう……。
こうなったら、素直に謝ろう。そして、関係を取り戻すんだ!
******
翌日の放課後。
私は英二を人気のない校舎裏に呼び出した。何だろう。ただ謝るだけなのにドキドキしてきた。
手を胸に当てると、体が火照ってきているのを感じる。
やばい、やばい、やばい!
「……よ! 昨日ぶり」
「え、英二」
なんか思っていたより普通って最初は思ったけど、瞳の奥が濁っているように見える。
怖い。でも、絶対に言うんだ。こんなことで、好きな人に嫌われたくないから。
「英二、ごめん」
私は頭を下げる。そして、ゆっくりと頭を上げて英二を見つめる。英二はなんで謝られたかわからず、頭をポリポリとかいた。
そんな英二に私の想いを全て、全力でぶつけてやる。
「わたし、昨日のこと忘れられなかった」
「何言ってんだよ! こんな……」
「だって、英二のことなんだもん。忘れられないよ。大丈夫。英二があんなことしていたって気にしない。私は英二が大好きだから。どんな英二も受け入れる。このまま関係が崩れるなんて嫌だよぉ」
ホロリと流れる涙。頭の中で嫌われるんじゃないだろうかという不安が渦巻く。
怖くなり瞳を閉じる。足が震え、立っているのがやっとだ。
そして、私は自分が言ったことを思い出す。
しまったああぁぁぁぁああぁ。つい告白しちゃった。どうしよう、これで振られたら……。
そう思っていると、ポンっと頭の上になにかが乗る。そっと目を開くと、英二が私の頭を撫でていた。
「俺もさ。昨日のことでどうしようって精一杯悩んでいたんだ。あんな姿、お前にだけは絶対に見られたくなかったからさ。その……お前との関係を壊したくなかったんだよ。俺も同じだ。お前のことが好きなんだよ」
「………………え、ホント?」
「っち、何度も言わせるなよ」
「うん、嬉しい。でも、あのことはそう簡単に忘れられないよ」
「だぁぁぁ、思い出すな。今すぐ忘れろぉぉぉ」
「あははは、でも良かった」
私は瞳に溜まった涙を拭う。そして英二に笑顔で向き直った。
「ずっと同じこと思ってたんだ……。嬉しいよ、英二!」
そう言うと、英二は照れくさそうに頬を書く。そして「帰るぞ」と手を差し出した。私は「うん」と言って手を繋ぐ。そして、一緒に帰った。不安と恐怖が駆け巡った体験だったけど、いまは本当に幸せ。
嫌われなくて、本当に良かった!
私は家のベッドで一人、悶々としていた。
私、石川春美は見てしまったのだ。見てはいけない大好きな彼のあれを!
******
あれは今日の夕方のこと。
私は幼馴染で好きな人でもある大矢英二の家に遊びにいった。
インターホンを鳴らすと、英二のお母さんが迎えてくれる。
「あら、春美ちゃん。いらっしゃい」
「英二のお母さん。お邪魔します。あ、これ作ってきたので、どうぞ」
カバンにしまっていたタッパーを取り出して、英二のお母さんに渡した。
私の趣味は料理だったりする。思春期な私たちは、なんかこう、男の子の家に行きにくくなる時期が来る。だって変な噂とか出たらいやじゃん。だけど大好きな幼馴染の家にいけなくなるのは嫌だった。だって、距離置かれているみたいだし。何より私が近くにいたいから。
だから一緒にいられる口実として、英二のお母さんに料理を教えてもらった。そして、気がついたら大好きになっていた。料理をするのは本当に楽しい。今では英二のお母さんと作ったものをおそそわけし合う仲にまで発展した。
「いつもありがとね。今度おばさんが何か作って持ってきてあげるから」
「ホントですか、ありがとうございます!」
「それはそうと、英二はいま部屋にいるわよ。仲良くやってちょうだいな。わたし的にはいつお嫁に来てもいいわよ。春美ちゃんなら大歓迎」
「もう、英二のお母さんったら。わたし、英二のところにいきますね」
「ええ、後でお茶でも持って行くわ」
「ありがとうございます!」
私は靴を脱ぎ、家に上がる。玄関のすぐ近くに階段があり、それを登ると三つの部屋がある。
そのうちの一つに『英二』と書かれたプレートがぶらさがっていた。
小学校の時から変わらない、英二の部屋。
いつもどおりに私は扉を開いた。
「やっほー英二! 遊びに……き…………たよ……」
「なぁ!」
何だろう、気のせいかな。私の目の錯覚かな。英二がパソコンをつけて何かをやっているよ。
なんかズボンを脱いで、下半身がスッポンポン。パソコンからは喘ぎ声のようなものが聞こえるぞ。
目をこすってもう一度見ると、景色は変わらない。
呆然とする英二の姿。その手は、その、あれを握っていた。
「い……いやぁぁああぁぁぁぁあ」
「ちょ、ま!」
私は慌て扉を閉めて階段を降りる。
え、嘘。あの英二があんなこと。どうしよう。わたし、見ちゃった。
だって、あれって絶対……。
上からドタバタと慌ただしい音がする。
バンっと大きな音がしたあと、英二が慌てて降りてきて、私の頭を揺らした。
「ちょ、待って英二!」
「……………」
「いや、やめ……」
「……は! すまん」
英二が申し訳なさそうに私の頭を離す。その後すぐ、ドンッと私の後ろの壁を叩いて追い詰める。
女の子の憧れ、壁ドンというやつだ。
ちょっとドキッとした。だけど何だろう。さっきの光景が頭をよぎる。私の顔が熱くなるのを感じる。
ゆっくりと英二の顔を見ると、せっかくのかっこいい顔が台無しになりそな濁った魚の目で私を見つめていた。
「ひぃ」
私は怯えた声を出す。何だろう。今の英二。とっても怖い…………。
「なぁ、春美……」
「な、何、英二。怖いよ」
「ごめんな、突然頭を揺らして……」
「うん、私は大丈夫だから、離して、ね」
「……頭を揺らせば忘れると思ったんだ」
「…………えっ」
私が変な声をあげると、英二の顔が私にだんだん近づいてくる。
目と目が見つめ合い、私のドキドキと恐怖心が跳ね上がる。
「さっき見たこと……忘れてくれねぇか」
「は……は、い」
私は怖くて頷いた。目頭が熱くなる。ホロリと涙がこぼれた。
怖い、どうしよう。そう思っていると、バッシンと大きな音がして、英二がよろめく。
「英二! 女の子になんてことしているの。大丈夫? 春美ちゃん」
「あ、ありがとうございます、英二のお母さん」
「ならいいわ。こら英二。全く、このダメ息子は」
「っち、これには俺たちの事情があるんだよ」
「こら、親に向かってなんて口を聞くの。それに、いつも来てくれる春美ちゃんに悪いじゃない。全く!」
「いえ、英二のお母さん。これは……私が悪いんです。ごめんなさい。今日は帰ります」
「え、春美ちゃん?」
「本当にごめんなさい。おじゃましました」
******
とまぁこんなことがありまして、私は逃げるように英二の家を出た。家に戻って部屋に駆け込んでベッドにダイブ。現状に至る。
あんなところを見ちゃった私はどうすりゃいい。
忘れるって言っちゃったけど、あんな光景忘れられるわけがない。印象が強すぎて鮮明に思い出せてしまう。どうしよう。
もしこれで英二に嫌われたら……うう。
とにかく忘れよう。
そう思った私は、スマフォを取り出して、Google大先生を開く。
「えっと、『記憶 忘れる』っと」
検索結果を上から順に見ていく。すると『嫌な記憶を消す方法』なんてものがあった。開いてみるとどっかのブログ見たい。なんと書籍化までされているらしい。
これは参考になりそうだ。
私は上から順にブログを読んでいく。
「えっと、人は過去の記憶に悩まされます?
私が忘れたい記憶は過去っちゃ過去だよね。
で、えっと、自動的に思い出して頭でぐるぐる無限ループ」
意味がよくわからない。ちょっと私には難しいな。でも、嫌な出来事をフッと思い出す経験はある。そして、現在進行形で英二のあれをフッと思い出して足をバタつかせている。
よくわからないながら読み進めていくと、ある一文に目が止まる。
「え、記憶グルグルはコントロールできるの!」
これはもう実践するしかない。
これが私の最後の望み。これがダメなら……死ぬしかない。英二に告白する前に嫌われてしまったら……私は一生立ち直れない。そんなの嫌だ!
読み進めてみるけどやっぱり難しい。わたし、頭が悪い子だったんだ……。成績は一応上位なのに……こんなのもわからないなんて。ニューロンって何。え、シナプス。わからないよ。そんなの。
難しい専門用語みたいなのがあったりするので、そういうのはすっとばして分かるところだけ読むことにした。
「えっと、記憶を消すのは超簡単。二つのあることをするだけ。
それがプラス思考と記憶を飛ばす(サブモダリティ・チェンジ)?」
よし! まずはプラス思考ってところから見てみよう。
「えっと、傷つきやすい性格だったりすると、常に消したい記憶が増えます? いや、別に傷つきやすい正確じゃないしな。
ここ、別に読まなくてもいい気がする。
だって、これってネガティブな性格の人は消したいことがたくさんあるから性格を変えようって話でしょ。私が消したいのは英二のあれだけだし。すっ飛ばそう!」
私はササッとすっとばし、記憶を飛ばす(サブモダリティ・チェンジ)の説明が書かれている箇所をチェックする。
「えっと、記憶を思い出す人は大抵の場合は映像が流れている? それを律儀に見るから忘れられない。それは一理ある、で、どうすれば……え、映像をぷっつり切る。映像にぼかしを入れる? 遠くに投げ飛ばす? 音楽をガンガン流す? 意味不明……」
要はこういうことかな。イメージが流れた瞬間に別のものをイメージしたりして、その記憶を思い出さないようにする。そうすると忘れるよってこと。
よーし、いっちょやってみるか。
あ、英二のアレが流れた。別のものを考えないと、えっと、えっと。あーダメ、思い出しちゃう。鮮明に思い出しちゃう。忘れられない!
どうしよう……。
こうなったら、素直に謝ろう。そして、関係を取り戻すんだ!
******
翌日の放課後。
私は英二を人気のない校舎裏に呼び出した。何だろう。ただ謝るだけなのにドキドキしてきた。
手を胸に当てると、体が火照ってきているのを感じる。
やばい、やばい、やばい!
「……よ! 昨日ぶり」
「え、英二」
なんか思っていたより普通って最初は思ったけど、瞳の奥が濁っているように見える。
怖い。でも、絶対に言うんだ。こんなことで、好きな人に嫌われたくないから。
「英二、ごめん」
私は頭を下げる。そして、ゆっくりと頭を上げて英二を見つめる。英二はなんで謝られたかわからず、頭をポリポリとかいた。
そんな英二に私の想いを全て、全力でぶつけてやる。
「わたし、昨日のこと忘れられなかった」
「何言ってんだよ! こんな……」
「だって、英二のことなんだもん。忘れられないよ。大丈夫。英二があんなことしていたって気にしない。私は英二が大好きだから。どんな英二も受け入れる。このまま関係が崩れるなんて嫌だよぉ」
ホロリと流れる涙。頭の中で嫌われるんじゃないだろうかという不安が渦巻く。
怖くなり瞳を閉じる。足が震え、立っているのがやっとだ。
そして、私は自分が言ったことを思い出す。
しまったああぁぁぁぁああぁ。つい告白しちゃった。どうしよう、これで振られたら……。
そう思っていると、ポンっと頭の上になにかが乗る。そっと目を開くと、英二が私の頭を撫でていた。
「俺もさ。昨日のことでどうしようって精一杯悩んでいたんだ。あんな姿、お前にだけは絶対に見られたくなかったからさ。その……お前との関係を壊したくなかったんだよ。俺も同じだ。お前のことが好きなんだよ」
「………………え、ホント?」
「っち、何度も言わせるなよ」
「うん、嬉しい。でも、あのことはそう簡単に忘れられないよ」
「だぁぁぁ、思い出すな。今すぐ忘れろぉぉぉ」
「あははは、でも良かった」
私は瞳に溜まった涙を拭う。そして英二に笑顔で向き直った。
「ずっと同じこと思ってたんだ……。嬉しいよ、英二!」
そう言うと、英二は照れくさそうに頬を書く。そして「帰るぞ」と手を差し出した。私は「うん」と言って手を繋ぐ。そして、一緒に帰った。不安と恐怖が駆け巡った体験だったけど、いまは本当に幸せ。
嫌われなくて、本当に良かった!
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